「改革」運動が描いた弁護士像
「今の日弁連は大進歩。以前は、弁護士を増員すれば、質が落ちる、食べていかれないと言っていた」
2000年2月18日、東京・有楽町の読売ホールで行われた日弁連などが主催した「司法改革・東京ミーティング」でのパネルディスカッションに、パネリストとして出席した経済界の人間が、こう発言した時、会場からは笑いが起きました。
「裁判が変わる・日本が変わる わが国司法改革のゆくえ」と題されたこの盛大なイベントが、作られた「改革」の熱狂、いわば推進派の「高揚運動」のなかで開催されたことは、以前にも書きました(「『改革』への期待感という幻影」) 。
この時、経済界の人間が、以前の弁護士の言い分について、なかばあきれたように語り、その時点の弁護士を「大進歩」と持ち上げたのは、いうまでもなく、この時点で、弁護士・会が「改革」の同志として、今日まで続くことになる「増員」路線の協力者になったと認めたからです。
しかし、当時、この発言と笑いが起きた会場にいて取材した私は、記事にこう書きました。
「しかし、これは本当に笑いごとなのだろうか。ニーズはいくらでもある、といった『大鉱脈』論や弁護士の努力をいう精神論のいく末に、そんなに明るい未来を描けるのだろうか。3倍に弁護士が膨れ上がるのと同時に、国民の意識も変わり、今よりも格段のカネを司法に投入するようになるというのだろうか」
こう書いたのには、当時の推進派の議論もさることながら、当日の市民が押しかけたように見える大盛況と、この経済界の人間の発言で会場に広がった「笑い」に強い違和感を覚えたからでもありました。
当時、既に日弁連の司法改革運動の象徴であり、司法制度改革審議会委員であった中坊公平弁護士が、この集会と同じ月に司法審に提出した弁護士改革構想(「弁護士制度改革の課題―その2」)の中には、こんなことが書かれています。それは二つの考え方に立つ弁護士像です。
「一つは、当事者性・事業者性を中心において、公益性を希薄化させる考え方。もう一つは、当事者性・公益性をともに追求しつつ、そのこととの関係で事業者性に一定の制約が生ずることを是認する考え方」
そして、彼は結論として、こう書いています。
「市民や社会が求めているのは後者であり、弁護士はこの道を進まなければならない」
私は、この二者択一で、本音はともかく前者を胸を張って選ぶ弁護士は、まずいまい、そして、この二者択一ではなくて、今後問題になるのは、実は公益性を追求するためにも、どう事業者性が確保できるかではないか、ということも、当時これを取り上げた記事で書いていました。
現実は案の定の結果になりました。司法審委員ですら懸念した合格者激増の「受け皿」は確保できず、質が落ちる懸念も、食えなくなる現実も、全く笑いごとではありません。中坊弁護士がいったような事業者性を制約し、当事者性・公益性を追求する余裕はなく、事業者性の確保が問題となっているように思えます。
ところで、弁護士・会が経済界から「大進歩」という賛辞をもらうことができた最大の功労者である中坊弁護士は、どう予想していたのでしょうか。少なくとも弁護士激増のなかでも、事業者性に一定の制約が生じることを「意志的」に受け入れることで当事者性・公益性が追及できる弁護士像を描いているようにとれます。彼は、弁護士大増員時代が、当然にもたらす膨れ上がる若手層が、彼のいう「べき」論に従い、「意志」をもってすれば、そういう弁護士になれると描いていたとみれば、それはやはり見通しが甘かったと言うべきかもしません。
ただ、ある意味、私の書いたことも、また、見通しが甘かったと思います。それは、激増政策の先には、中坊弁護士が挙げた二つの弁護士像のうちの前者、それが「胸を張って」、この社会に大量に登場してくるかもしれないからです。ビジネスと割り切り、競争と割り切り、淘汰に臨むために、国民の税金で養成されていない公的意識がより希薄な弁護士たちが胸を張って、国民の前に現れるということです。
激増の影響は想像できたことですが、その規模は想像以上だったというべきなのかもしれません。「改革」が描いた絵、そして、そこに描き込まれた大衆と弁護士たちの期待。それらをもう一度、描き直さなければいけないところにきています。
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2000年2月18日、東京・有楽町の読売ホールで行われた日弁連などが主催した「司法改革・東京ミーティング」でのパネルディスカッションに、パネリストとして出席した経済界の人間が、こう発言した時、会場からは笑いが起きました。
「裁判が変わる・日本が変わる わが国司法改革のゆくえ」と題されたこの盛大なイベントが、作られた「改革」の熱狂、いわば推進派の「高揚運動」のなかで開催されたことは、以前にも書きました(「『改革』への期待感という幻影」) 。
この時、経済界の人間が、以前の弁護士の言い分について、なかばあきれたように語り、その時点の弁護士を「大進歩」と持ち上げたのは、いうまでもなく、この時点で、弁護士・会が「改革」の同志として、今日まで続くことになる「増員」路線の協力者になったと認めたからです。
しかし、当時、この発言と笑いが起きた会場にいて取材した私は、記事にこう書きました。
「しかし、これは本当に笑いごとなのだろうか。ニーズはいくらでもある、といった『大鉱脈』論や弁護士の努力をいう精神論のいく末に、そんなに明るい未来を描けるのだろうか。3倍に弁護士が膨れ上がるのと同時に、国民の意識も変わり、今よりも格段のカネを司法に投入するようになるというのだろうか」
こう書いたのには、当時の推進派の議論もさることながら、当日の市民が押しかけたように見える大盛況と、この経済界の人間の発言で会場に広がった「笑い」に強い違和感を覚えたからでもありました。
当時、既に日弁連の司法改革運動の象徴であり、司法制度改革審議会委員であった中坊公平弁護士が、この集会と同じ月に司法審に提出した弁護士改革構想(「弁護士制度改革の課題―その2」)の中には、こんなことが書かれています。それは二つの考え方に立つ弁護士像です。
「一つは、当事者性・事業者性を中心において、公益性を希薄化させる考え方。もう一つは、当事者性・公益性をともに追求しつつ、そのこととの関係で事業者性に一定の制約が生ずることを是認する考え方」
そして、彼は結論として、こう書いています。
「市民や社会が求めているのは後者であり、弁護士はこの道を進まなければならない」
私は、この二者択一で、本音はともかく前者を胸を張って選ぶ弁護士は、まずいまい、そして、この二者択一ではなくて、今後問題になるのは、実は公益性を追求するためにも、どう事業者性が確保できるかではないか、ということも、当時これを取り上げた記事で書いていました。
現実は案の定の結果になりました。司法審委員ですら懸念した合格者激増の「受け皿」は確保できず、質が落ちる懸念も、食えなくなる現実も、全く笑いごとではありません。中坊弁護士がいったような事業者性を制約し、当事者性・公益性を追求する余裕はなく、事業者性の確保が問題となっているように思えます。
ところで、弁護士・会が経済界から「大進歩」という賛辞をもらうことができた最大の功労者である中坊弁護士は、どう予想していたのでしょうか。少なくとも弁護士激増のなかでも、事業者性に一定の制約が生じることを「意志的」に受け入れることで当事者性・公益性が追及できる弁護士像を描いているようにとれます。彼は、弁護士大増員時代が、当然にもたらす膨れ上がる若手層が、彼のいう「べき」論に従い、「意志」をもってすれば、そういう弁護士になれると描いていたとみれば、それはやはり見通しが甘かったと言うべきかもしません。
ただ、ある意味、私の書いたことも、また、見通しが甘かったと思います。それは、激増政策の先には、中坊弁護士が挙げた二つの弁護士像のうちの前者、それが「胸を張って」、この社会に大量に登場してくるかもしれないからです。ビジネスと割り切り、競争と割り切り、淘汰に臨むために、国民の税金で養成されていない公的意識がより希薄な弁護士たちが胸を張って、国民の前に現れるということです。
激増の影響は想像できたことですが、その規模は想像以上だったというべきなのかもしれません。「改革」が描いた絵、そして、そこに描き込まれた大衆と弁護士たちの期待。それらをもう一度、描き直さなければいけないところにきています。
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