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    「低廉化」期待への裏切りを生んでいるもの

     「平成の司法改革」といわれても、およそ裁判員制度導入以外、イメージできないという市民が多い中で、弁護士が増えたということに関しては、相当程度認識が広がっているという印象があります。そして、そうした市民と話をすると、今でもそれがいかに弁護士の低廉(低額)化のイメージとつながっているかということに気付かされます。

     弁護士の数が増えれば、そこに競争原理が働いて、費用は安くなる――。「改革」が市民利便につながる、その「目的」のように連想させ、かつ、それが簡単に起こり得ないことを百も承知だった弁護士会が、ことさらにこれを否定したり、クギをさすことも不思議なくらいしなかったイメージといえます。

     当然、この「改革」が打ち上げせられて20年以上たっても、この点を「改革」の成果として、評価する声が、少なくとも多くの利用者市民の中から上がっているという現実もありません。しかし、なぜか、前記の通り、依然弁護士増員のイメージとしてだけは残っている。

     その誤解の原因は、取りも直さず、弁護士と関わることがなくきた「普通の」市民にとって、他のサービス業と同一視した前記競争原理がもたらす低廉化の発想はイメージしやすく、かつ、それにつながっている、弁護士業そのものへの認識不足があること、といえます。

     これまでも書いてきたことですが、弁護士業(特に個人事業主としての)は、そもそも取り扱い案件一件当たりの料金を下げて、その分、件数をこなすという形の薄利多売化が、一部の定型処理案件を除き難しい性格の業務です。案件処理には、実入りの差にかかわらず、同様の作業が求められる面も多く、数が増えれば、一定のサービスの質を維持する以上、一人ではこなせず、人件費が発生することもあり得ます。

     弁護士が増えても、それに見合うだけの有償案件が発生しなければ、個々の弁護士の手持ち案件は少なくなり、かつ、一定額の経費は維持されることになれば、逆に単価は上げざるを得なくなります。競争原理が働くためには、利用者の継続的な取引と、彼らによる正常な選択が必要となりますが、大企業は別として、弁護士と恒常的な取引はなく、一回性の関係といっていい、弁護士とは一生に一度かかわるかかかわらないかの利用者市民にとっては、その前提条件がそもそも満たされないというべきなのです(「弁護士『薄利多売』化の無理と危険」)。

     もっとも企業案件ではなく、対市民でも定型処理案件を中心に、大々的に広告を打ち、顧客を大量に集めることを前提に、単価を安く設定できるとする新興系事務所も存在しています。しかし、これが現実に、案件的にも、個々の弁護士の業態としても、一般化できるかといえば、そこにも疑問があります(「弁護士の業務広告観」)。

     しかも、市民に定着化しているといえる、増員=低廉化のイメージの背景には、弁護士が相当程度儲けている(はず)という認識が伺えます。そもそも弁護士には経済的余裕があり、ならばこそ低廉化は100%弁護士側の企業努力ならぬ士業努力で可能である、ということ。逆にいえば、それだけ前記したような他のサービス業とは一般化できないことや、ましてや弁護士がこれによって生存にかかわる経済的影響が生じるなどということなど、利用者市民側にはおよそ考えられなくても不思議でない、ということなのです。

     やはり最大の疑問は、弁護士側の対応・不作為という点になってしまいます。「改革」主導者をはじめとする多くの弁護士会関係者らは、なぜ、今日に至るまで、この点をしっかりと国民に伝えきれないのか、あるいは意図的に伝えようとしないできたのか、ということです。

     「改革」の増員政策が実現困難な低廉化を社会にイメージさせていること、それがあたかも弁護士の努力次第で実現できるかのように伝わってしまっていること、「改革」の中で、常に報酬に関して、自由化や透明化・明確化が弁護士アクセスの課題と受けとめながら、社会にある低廉化への過度な期待や誤解には正面からクギを刺さないこと。期待を裏切るということだけでなく、あるいは市民にとって利益にならない選択につながるリスクがあるにもかかわらず――。

     需要の顕在化も含めて、増員政策が「とにかくもっとうまくいくと思っていたのだ」と、ある意味、正直に語った、推進派の弁護士がいました。その意味を解すれば、こういう「改革」のボロが露呈しないでも、低廉化がある程度できるほどの、弁護士の需要が顕在化と経済的状況の維持を、この「改革」の未来に描いてしまった、ということでしょうか。

     しかし、この解けない誤解、そしていまだその解消に一歩も歩み出していない「改革」の現実が、ずっと市民を裏切り、多くの弁護士を苦しめているように、どうしても見えてしまうのです。


    弁護士の競争による「淘汰」という考え方についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4800

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    テーマ : 弁護士の仕事
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    No title

    ChatGPTによる裁判の訴状・準備書面の自動作成提供へ
    https://www.gifu-np.co.jp/articles/-/224564

    No title

    ↓弁護士検索しても名前が出ない、バッジもフリー素材では?という指摘があります。

    No title

    その一方ですごいCFを見た
    『犯罪加害者となった少年とその家族の弁護』を専門に扱う弁護士事務所を設立したい
    https://camp-fire.jp/projects/view/631046

    No title

    https://twitter.com/O59K2dPQH59QEJx/status/1642867583413272577?cxt=HHwWgoDSpZzX0cwtAAAA

    衝撃的な内容。
    及川先生のような方が一方的に削られる今の総本山会長選挙とは一体……と思う。

    No title

    会務をしたらいい仕事が来た、という話がネット上に出回っていますが、あれは不正確。
    会務じゃなくて、閥務。派閥の中で、話が出来上がっている。どの派閥に所属し、どの程度大事にされるかは(元)ボス弁の政治力次第。
    これを黙っておいて、会務に出れば誰にでも平等にチャンスがある(あった)ようなことをいうのは、不正確だし、ひょっとしたら不誠実かもしれない。

    No title

    弁護士ドットコムに記載されている価格を見ると、旧弁護士会報酬基準よりもずっと高い。広告料がかかっているのだから、当然です。すなわち、自由競争になれば競争のためのコストがかさむ。
    そもそも、自由競争は、利潤追求のための新自由主義に基づくものです。であれば、低所得者が不利、資産家層がますます有利になるのは、当たり前のことです。
    その程度のことも、市民運動家の方々は理解しないまま、二極化拡大の片棒を担いだのでしょう。

    No title

    >多くの弁護士会関係者らは、なぜ、今日に至るまで、この点をしっかりと国民に伝えきれないのか、あるいは意図的に伝えようとしないできたのか

    いわゆる客層が(そこそこの)国民としか接していないからでしょうな。
    世の中「話せばわかる」人達だけではないのですが、こればかりは仕方ないでしょう。伝えきれていないわけでも意図的でもない。逢おうとして逢えるわけでもない(×××案件を好んで受任するならともかく)。
    そしてこういった裁判関係の出費は本来は「人生においてもらい事故のようなものであり本来なら支払うべきではない」性質と思われがちなので国民からすれば財布の紐が固くなりがちなのもありますね。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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