「若さ」を優遇している思惑
若いことは素晴らしい。だれでもそう思います。素晴らしい中身は、若者の特権、つまり、若いからこそ、できることがたくさんということです。それを若いときにはあまり自覚していないのに、その季節が終わると、しみじみその価値が分かり、「素晴らしい」という言葉が口をついて出てしまうものかもしれません。
ただ、いくら特権があるからといって、すべて若者優先というわけにはいきません。その中身、理由をしっかり見ないことには、差別だって生まれます。
法曹養成というものをみてくると、やはりずっと「若者優先」という考え方があるように思えます。以前、紹介しましたが、1996年には司法試験で、合格者の若年化を意図して、論文式の合格者について、概ね7分の5を成績順、7分の2を受験回数3回以内から選択する方式、いわゆる「丙案」が実施されました(「増員路線への日弁連の大撤退劇」)。
悪名高いこの案は、当時の検察志望者の激減を背景にしたもので、若年受験者を「ゲタを履かせて優遇する案」、要するに、成績の低い若年受験者が、成績が上の多数回受験者の頭越しに合格するという現象が起きる制度でした。
「丙案」はいまや影も形もなくなりましたが、その後、プロセスの教育として登場してきた法科大学院にしても、現実は一般試験の旧司法試験と比べて、明らかに若手優遇の現実があります。いうまでもなく、働きながらの勉強は困難となり、社会人が会社を辞めてのチャレンジは、およそだれもができることではありません。
なぜ、こういうことなのか。一貫して、最もはっきり姿勢を示したのは、裁判所といっていいと思います。
「若くて優秀な人材」
この言葉を関係者から、何度となく聞きました。「優秀」には、そりゃこしたことない。では「若い」方はといえば、公式見解はともかく、本音とされるのは2点。基本的に年功序列的な処遇が組織にふさわしいと考えていること、もうひとつは組織の論理に染めやすい、逆に言うと、他の世界での色がついていない方がその点で望ましいと考えていること、です。裁判所当局は、もちろん指摘される統制的なムードは、一貫して認めませんが、俗にいう「ヒラメ裁判官」(目が上を向いて付いている=上の顔色ばかり見ている裁判官)の存在は、上層部も実はちゃんと分かっているのです。
ゆえに、裁判所は、「若いってすばらしい」ということで、その採用姿勢は一貫しています。検察庁にしても、組織の論理としては、もちろん同じような姿勢があります。
弁護士については、事情がこれまでも違いました。長い受験チャレンジを経て、司法試験に合格した人、ほかの仕事を経てきた人が、いくらでもいます。そうしたさまざまな経験が、依頼者との関係構築やその社会背景までを読みとってその意思をくむのにプラスという人がいます。
しかし、これは別の見方をする人もいます。弁護士が持つ紛争解決のスキルは、人生経験で代替できず、そのノウハウは紛争解決の現場で汗を繰り返し流さなければ身につかない、というのです(「薬院駅前の弁護士のblog」)。その意味では、弁護士についても、始めるのは若いに越したことはない、という話にはなります。
また、高齢合格者を「苦節○年」といった形で、その長い受験期間のすえの「成功」と描いて、「勝因」などを聞くマスコミの取り上げ方に違和感があるという意見もあります(「弁護士 猪野亨のブログ」)。長期受験歴だけをとって「成功談」として評価する意味が果たしてあるのか、ということだろうと思います。
もっとも、長期受験歴ではなく、高齢合格の方を評価するというのであれば、マスコミは、高齢者合格の道を実質的に閉ざし、結果的に若手優遇の法科大学院にもっと厳しい評価を加えてもいいわけですが。
弁護士会は、いまや完全に「法科大学院中心主義」ですので、その意味では、法曹三者足並みそろえて、事実上、若手優遇に協力している格好です。「多様な人材確保」が課題となっていますが、現状はどうみてもこの意味は、「弁護士になる前の社会経験のことではなく、『若い』弁護士の、その後の進路・業務内容のバラエティーのこと」(前出「薬院駅前の弁護士のblog」)にとれるのです。
要は、やはり個人の意思をくんだ公平な機会の問題です。それが不利なスタートになろうと、苦労の始まりだろうと、若者に遅れをとろうとも、それは個人の覚悟と責任の問題。その機会保障を犠牲にするいろいろな方々の思惑が、果たしてそこまでの意義があることなのか、ということだろうと思います。
「若いに越したことない」と言われれば、若者の側に立っているようですが、実は、受け入れ側の都合が反映してのことかもしれません。「業界の将来を託す若者を優遇しなくては未来がない」といった意見も聞こえてきそうですが、「受け入れ側の都合」の中身も、また踏まえなければなりません。もちろん「若いことは素晴らしい」ことなのですが。
ただいま、「予備試験」「受験回数制限」についてもご意見募集中!
投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。
http://www.shihouwatch.com/

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ただ、いくら特権があるからといって、すべて若者優先というわけにはいきません。その中身、理由をしっかり見ないことには、差別だって生まれます。
法曹養成というものをみてくると、やはりずっと「若者優先」という考え方があるように思えます。以前、紹介しましたが、1996年には司法試験で、合格者の若年化を意図して、論文式の合格者について、概ね7分の5を成績順、7分の2を受験回数3回以内から選択する方式、いわゆる「丙案」が実施されました(「増員路線への日弁連の大撤退劇」)。
悪名高いこの案は、当時の検察志望者の激減を背景にしたもので、若年受験者を「ゲタを履かせて優遇する案」、要するに、成績の低い若年受験者が、成績が上の多数回受験者の頭越しに合格するという現象が起きる制度でした。
「丙案」はいまや影も形もなくなりましたが、その後、プロセスの教育として登場してきた法科大学院にしても、現実は一般試験の旧司法試験と比べて、明らかに若手優遇の現実があります。いうまでもなく、働きながらの勉強は困難となり、社会人が会社を辞めてのチャレンジは、およそだれもができることではありません。
なぜ、こういうことなのか。一貫して、最もはっきり姿勢を示したのは、裁判所といっていいと思います。
「若くて優秀な人材」
この言葉を関係者から、何度となく聞きました。「優秀」には、そりゃこしたことない。では「若い」方はといえば、公式見解はともかく、本音とされるのは2点。基本的に年功序列的な処遇が組織にふさわしいと考えていること、もうひとつは組織の論理に染めやすい、逆に言うと、他の世界での色がついていない方がその点で望ましいと考えていること、です。裁判所当局は、もちろん指摘される統制的なムードは、一貫して認めませんが、俗にいう「ヒラメ裁判官」(目が上を向いて付いている=上の顔色ばかり見ている裁判官)の存在は、上層部も実はちゃんと分かっているのです。
ゆえに、裁判所は、「若いってすばらしい」ということで、その採用姿勢は一貫しています。検察庁にしても、組織の論理としては、もちろん同じような姿勢があります。
弁護士については、事情がこれまでも違いました。長い受験チャレンジを経て、司法試験に合格した人、ほかの仕事を経てきた人が、いくらでもいます。そうしたさまざまな経験が、依頼者との関係構築やその社会背景までを読みとってその意思をくむのにプラスという人がいます。
しかし、これは別の見方をする人もいます。弁護士が持つ紛争解決のスキルは、人生経験で代替できず、そのノウハウは紛争解決の現場で汗を繰り返し流さなければ身につかない、というのです(「薬院駅前の弁護士のblog」)。その意味では、弁護士についても、始めるのは若いに越したことはない、という話にはなります。
また、高齢合格者を「苦節○年」といった形で、その長い受験期間のすえの「成功」と描いて、「勝因」などを聞くマスコミの取り上げ方に違和感があるという意見もあります(「弁護士 猪野亨のブログ」)。長期受験歴だけをとって「成功談」として評価する意味が果たしてあるのか、ということだろうと思います。
もっとも、長期受験歴ではなく、高齢合格の方を評価するというのであれば、マスコミは、高齢者合格の道を実質的に閉ざし、結果的に若手優遇の法科大学院にもっと厳しい評価を加えてもいいわけですが。
弁護士会は、いまや完全に「法科大学院中心主義」ですので、その意味では、法曹三者足並みそろえて、事実上、若手優遇に協力している格好です。「多様な人材確保」が課題となっていますが、現状はどうみてもこの意味は、「弁護士になる前の社会経験のことではなく、『若い』弁護士の、その後の進路・業務内容のバラエティーのこと」(前出「薬院駅前の弁護士のblog」)にとれるのです。
要は、やはり個人の意思をくんだ公平な機会の問題です。それが不利なスタートになろうと、苦労の始まりだろうと、若者に遅れをとろうとも、それは個人の覚悟と責任の問題。その機会保障を犠牲にするいろいろな方々の思惑が、果たしてそこまでの意義があることなのか、ということだろうと思います。
「若いに越したことない」と言われれば、若者の側に立っているようですが、実は、受け入れ側の都合が反映してのことかもしれません。「業界の将来を託す若者を優遇しなくては未来がない」といった意見も聞こえてきそうですが、「受け入れ側の都合」の中身も、また踏まえなければなりません。もちろん「若いことは素晴らしい」ことなのですが。
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