「悪しき隣人」は登場するのか
「良き法律家は悪しき隣人である」という諺があります。出典は分かりませんが、イギリスの諺のようです。法曹界では、何かにつけ、よく引用される諺という印象を持っています。
解釈は、言う人によって微妙に違いますが、大方は法律家として有能な人物は杓子定規な思考によって、円満な人間関係を作れず、隣人としては最低である、といった意味のようです。「法律家」の部分は、「法律を生半可学んだ者」という趣旨に置き換えていたり、具体的には、何かにつけ、権利を振りかざすといった弊害をこの中に読み込んでいる方もいます。
また、これは直接的に法律家という存在への皮肉、揶揄ととらえられている面もあり、法律家がその体質がゆえに社会から嫌われることを示していると解釈する向きもあります。現に、かつて先輩法曹の後輩への忠告のなかでも、登場していたようです。
ただ、この諺は、今回の「改革」のなかでは、少なくとも推進論者にとって取り扱いが微妙な代物というべきです。いうまでもなく、「改革」は法律家を増やして「身近に」しようという話。もし、この諺が真理ならば、当然に「悪しき隣人」が増える話だからです。
それを分かってのことか、度々、この流れのなかでは、「良き法律家は良き隣人でもなければならない」といった、反面教師的にこの諺を引用するものが、見受けられました。ただ、そう解釈できるならば、前記諺は成立しないと考えると、やや苦しい言い方にも聞こえます。社会や人間関係と隔絶した法律家の思考方法を戒め、いわば常識人としてふるまうべき、という自戒をここに読みとることはもちろんできますが、これまでも書いてきたように、激増政策がもたらす「悪しき隣人」登場への懸念を「改革」が払拭しているとも思いません。
しかし、以前、この諺について全く別の解釈で取り上げているブログがありました。
「この法諺は文字通りの意味に理解するべきではなかろうか。良い法律家とは、社会が法律家に託した使命を全うする者である。社会が法律家に託した使命とは何かといえば、弁護士であれば、依頼者の権利、利益を、妥協なくあくまで擁護する能力と熱意をもって仕事をすることである。裁判官であれば、世論や権力に迎合することなく法の精神に忠実に冷静に判断者に徹することである」
「それは、良き友人とか、良き隣人とか、円満な常識人とかいう資質とは別個のエトスであり、一種独特な『職業的人格』を要請する。良き法律家は往々にして悪しき隣人たらざるをえないのであり、それはそれでやむを得ないのであり、この法諺はこのような意味で理解するべきであろう」(「Practice of Law」)
むしろ、この諺を法律家は胸を張って受け止めよ、といっているようにとれます。むしろ隣人としての善し悪しとは別の次元で、法律家として徹すべきものがある、ということを言葉から読みとるべきということになります。
ブログ氏は例えば、誤判をおかす裁判官、被疑者の言い分に耳を傾けない裁判官、警察官や検察官の調書に嘘はないと信じたがる裁判官、公務員や銀行マンは一般市民よりも法廷で嘘をつくことは少ないという経験則をもっているらしい裁判官だって、「それぞれ家庭では円満な夫であり父であり、それなりに世間智もあり、友人としてはよき人たちに違いない」として、裁判官がいかにそれとは異質な資質が求められるのかを強調し、こう締めくくっています。
「変人であろうと偏屈であろうと、合理的な疑いが払拭できなければあくまで無罪を敢然と言い渡すことのできる職業倫理さえあるならば、それ以外の資質は、いわばどうでもいいとさえいえる」
法律家には法律家の使命を果たすために求められる資質があり、必ずしも「良き隣人」を目指すのは筋違いということになります。こう考えるとすれば、あるいは裁判員裁判で裁判官とともに裁く市民が、そうした職業倫理に基づかず判断することの問題性をいう人もあれば、逆に職業裁判官のそうした資質を踏まえて、そうでない市民が加わる意義をいう人もいるようには思います。
いずれにしても、「良き隣人」を標榜し、それを目指す法律家の登場が、果たしてこの社会にとっていいことなのか悪いことなのか、そこに、この「改革」の評価を分ける一つのポイントがあります。
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ただいま、「今、必要とされる弁護士」についてもご意見募集中!
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解釈は、言う人によって微妙に違いますが、大方は法律家として有能な人物は杓子定規な思考によって、円満な人間関係を作れず、隣人としては最低である、といった意味のようです。「法律家」の部分は、「法律を生半可学んだ者」という趣旨に置き換えていたり、具体的には、何かにつけ、権利を振りかざすといった弊害をこの中に読み込んでいる方もいます。
また、これは直接的に法律家という存在への皮肉、揶揄ととらえられている面もあり、法律家がその体質がゆえに社会から嫌われることを示していると解釈する向きもあります。現に、かつて先輩法曹の後輩への忠告のなかでも、登場していたようです。
ただ、この諺は、今回の「改革」のなかでは、少なくとも推進論者にとって取り扱いが微妙な代物というべきです。いうまでもなく、「改革」は法律家を増やして「身近に」しようという話。もし、この諺が真理ならば、当然に「悪しき隣人」が増える話だからです。
それを分かってのことか、度々、この流れのなかでは、「良き法律家は良き隣人でもなければならない」といった、反面教師的にこの諺を引用するものが、見受けられました。ただ、そう解釈できるならば、前記諺は成立しないと考えると、やや苦しい言い方にも聞こえます。社会や人間関係と隔絶した法律家の思考方法を戒め、いわば常識人としてふるまうべき、という自戒をここに読みとることはもちろんできますが、これまでも書いてきたように、激増政策がもたらす「悪しき隣人」登場への懸念を「改革」が払拭しているとも思いません。
しかし、以前、この諺について全く別の解釈で取り上げているブログがありました。
「この法諺は文字通りの意味に理解するべきではなかろうか。良い法律家とは、社会が法律家に託した使命を全うする者である。社会が法律家に託した使命とは何かといえば、弁護士であれば、依頼者の権利、利益を、妥協なくあくまで擁護する能力と熱意をもって仕事をすることである。裁判官であれば、世論や権力に迎合することなく法の精神に忠実に冷静に判断者に徹することである」
「それは、良き友人とか、良き隣人とか、円満な常識人とかいう資質とは別個のエトスであり、一種独特な『職業的人格』を要請する。良き法律家は往々にして悪しき隣人たらざるをえないのであり、それはそれでやむを得ないのであり、この法諺はこのような意味で理解するべきであろう」(「Practice of Law」)
むしろ、この諺を法律家は胸を張って受け止めよ、といっているようにとれます。むしろ隣人としての善し悪しとは別の次元で、法律家として徹すべきものがある、ということを言葉から読みとるべきということになります。
ブログ氏は例えば、誤判をおかす裁判官、被疑者の言い分に耳を傾けない裁判官、警察官や検察官の調書に嘘はないと信じたがる裁判官、公務員や銀行マンは一般市民よりも法廷で嘘をつくことは少ないという経験則をもっているらしい裁判官だって、「それぞれ家庭では円満な夫であり父であり、それなりに世間智もあり、友人としてはよき人たちに違いない」として、裁判官がいかにそれとは異質な資質が求められるのかを強調し、こう締めくくっています。
「変人であろうと偏屈であろうと、合理的な疑いが払拭できなければあくまで無罪を敢然と言い渡すことのできる職業倫理さえあるならば、それ以外の資質は、いわばどうでもいいとさえいえる」
法律家には法律家の使命を果たすために求められる資質があり、必ずしも「良き隣人」を目指すのは筋違いということになります。こう考えるとすれば、あるいは裁判員裁判で裁判官とともに裁く市民が、そうした職業倫理に基づかず判断することの問題性をいう人もあれば、逆に職業裁判官のそうした資質を踏まえて、そうでない市民が加わる意義をいう人もいるようには思います。
いずれにしても、「良き隣人」を標榜し、それを目指す法律家の登場が、果たしてこの社会にとっていいことなのか悪いことなのか、そこに、この「改革」の評価を分ける一つのポイントがあります。
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