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    非弁護士経営法律事務所という課題

     弁護士以外の者が、法律事務所を所有したり、経営に参加する形態、いわゆるABS(Alternative Business Structure)を認める海外の動きが、日本でも注目されはじめています。オーストラリアでは、弁護士資格者の取締役最低1名を要件に法律事務所所有が自由化され、株式会社として上場されているほか、イギリスも昨年10月、一定の要件のもとで弁護士以外の者による所有・経営が自由化、イタリアもABSを認める方向だそうです。

     一方、ドイツ連邦弁護士連合会や欧州弁護士評議会はこうした動きに懸念・反対を表明しており、他の諸国では、オーストラリアやイギリスでの成り行きを見守っている状況と伝えられています。

     日本では、弁護士以外が法律事務所の経営をすることはできません。弁護士法は法律事務所を「弁護士の事務所」と規定し(20条)、弁護士または弁護士法人でない者は、「弁護士」「法律事務所」や、利益を得る目的で法律相談その他の法律事務を取り扱う標示・記載はできないと定められています(74条1項、2項)。

     そうした現状にあって、日本でABSはそれほど差し迫った問題ではないのではないか、との受け止め方もされているように見えますが、そうでもないということを日弁連外国弁護士及び国際法律業務委員会委員長の岡田春夫弁護士が、同委員会ニュース17号で書いています。

     それは、日本の弁護士がABSを認めるか否かの前に、それを認めたオーストラリアやイギリスのABS所属弁護士が、日本で外国法事務弁護士の資格承認・登録を求めてきた場合、それへの対応に迫られるからということです。外国の弁護士が日本で外国法事務弁護士として法律事務を行うためには、法務大臣に申請し資格承認を受け、日弁連に登録されなければならず、日弁連は承認段階でも意見を求められ、登録では直接判断をしなければなりません。要するに、日弁連はABSに対する態度を決めておかなければならない、ということです。

     前記ニュースのなかで、岡田委員長は、ABSに所属する外国弁護士の日本での外弁資格承認・登録を認めることは、「日本の法曹界全体に影響を及ぼす重大な問題がある」としています。一体、何が重大問題なのでしょうか。大略以下の3点が書かれています。

     ① 弁護士倫理の拘束を受けない非弁護士の影響下にあるABS弁護士の日本での活動を認めると、依頼者利益を守り、正義を実現することを中心的な価値観としている日本の法曹全体の信頼を損ねる。
     ② ABS弁護士と日本の弁護士が共同事業を営んだり、雇用関係を結ぶ場合、弁護士倫理、独立性、弁護士自治の観点から、日本の弁護士に実質的悪影響があり得る。
     ③ ABS弁護士と日本の弁護士が競争になった場合、ABSの圧倒的な資本力を考えると、日本の弁護士が不利になる事態が考えられる。

     要するに倫理上、弁護士自治上、さらに経済上、ABS弁護士から日本の弁護士、依頼者を守れ、ということのように読みとれます。確かに、そういうことはあるかもしません。ただあえていえば、この問題が、もし、社会的に日本で注目された場合、ここで挙げられている「理由」の部分に、社会が「そうだそうだ」という反応を示すのかどうかとなると疑問といわざるを得ません。

     そもそも日本でABSが認める課題として挙げられているのも、要するに前記①②の「理由」部分です。非弁護士の共同所有者・共同経営者は、業種の監督機関に服するため、共同所有・経営弁護士も、監督機関の影響を受け、弁護士自治に影響する。弁護士倫理に服さない非弁護士と、依頼者利益を最優先する弁護士倫理が対立し、弁護士倫理よりも企業利益が優先され、弁護士倫理や独立性が害される――。

     問題は、ここで核となっている弁護士倫理や自治、弁護士の独立性というものの価値が、今の日本社会でどのくらい重んじられ、伝わり、了解されているのか、ということです。法律事務所の形態の多様化、経営の安定化、競争原理の導入といったものが掲げられた時、まさに増員をめぐって弁護士を攻撃する論調同様、弁護士側の「理屈」とされる可能性があるようにも思えます。弁護士の「受け皿」として、なぜ否定するのか、という論調もあるかもしれません。逆に、そうした論調に抗することができなければ、日本でのABSは、前記自治をはじめ弁護士が掲げてきた価値に、いよいよ決定的なダメージを与えるものになるかもしれません。

     岡田委員長の記事では、ドイツ連邦弁護士連合会の反対も同趣旨として理解を示す一方、「世界の趨勢がABSを認める方向に一気に傾くことも近い将来ありえなくない」としています。その時に、日本の弁護士の前記のような主張がどこまで説得力を持つのか、その危うい状況を予想してしまいます。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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