民法改正と弁護士増員政策が前提とする社会
中小企業の融資での経営者以外での個人の連帯保証禁止、不特定多数との取引に使われる「約款」の新設などが注目されている2月26日にまとまった、法制審議会民法部会の債権法改正について、ネット取引時代に知識や情報が少ない消費者の保護を強く意識しているとくくる報道が見られます(「朝日」2月27日朝刊)。また、前記個人保証原則禁止や、債権譲渡禁止特約の緩和は、中小企業配慮とのとらえ方もされています(「日経」同)。
一方、大企業側には、コストや経済活動阻害といった点での警戒感があり、また、個人保証禁止で、金融機関の貸し渋りの懸念も報じられています。
こうしたなかで、法律実務家や学者の反応を紹介している記事があります(「毎日」同「民法改正:中間試案 国民目線に立てるか 「身近」な約款に対応 経営者側からは異論」)。
「中部弁護士連合会などは昨年12月に全国の弁護士約3万人を対象にしたアンケートを行い、今月25日時点の回収数は1973通にすぎないが、その7割以上は民法(債権)改正に『反対』と回答。自由記載欄には『実務上不都合がない』などの意見もあった。上智大法学部の加藤雅信教授は『契約分野で顕著な問題が生じているとは言えず、今、改正の必要性は乏しい。改正議論はEU(欧州連合)の取引ルールを統合するため欧州で進む法改正を無意味にまねている面がある』と話す」
「これに対し、ある学者は『国際間の取引が増え、グローバルスタンダードを意識した改正を行うことは日本の競争力を強めることになる』と強調する」
前記引用のアンケート結果をもって、弁護士全体の傾向を読み取ることもできませんが、改正の必要性に関して異論があることは分かります。一方で、弁護士増員必要論でも、度々目にすることになるグローバルスタンダードや国際競争力という観点で必要という話は、正直、具体的にどういったもので、どの程度のことなのか、よく分かりません。大新聞の報道でも、ほとんど取り上げられていません。改正の必要性は、圧倒的に消費者、中小企業のためとして、伝わっているはずです。それと重ね合わせてしまえば、前記弁護士のなかにある消極姿勢を、その反対側に置いてみる読者がいてもおかしくはありません。
ただ、ここで一番注目したいのは、この記事が取り上げた次の切り口です。
「(改正で) 『民法が分かりやすく、使い勝手もよくなれば、中小企業などは弁護士を頼らずに済み、社会全体のコストはかえって少なくなる』との指摘もある」
弁護士に頼らないようにすることが、社会全体コスト減につながる。この「改正」だけで本当に弁護士が中小企業に必要なくなるかはともかく、少なくともこれが社会的な要請というのならば、これは弁護士激増の必要論とは、対立します。コストを投入しても、弁護士が必要となる社会がやって来る話とは。
もちろん、消費者保護という事前規制の立場も、描き方としては違います。前記「朝日」の記事で、経済同友会の反対意見として紹介されているような、情報収集も自己責任で行うのが経済取引の原則として、責任を消費者に転嫁する方向こそ、弁護士の大量必要論を導き出した、この国の未来像の描き方です。
このことだけから、弁護士増員必要論の、すべてを語ることは、もちろんできませんし、バランスの問題ともいえなくはありません。ただ、少なくとも、このことは、私たちに二つのことを考える機会を与えているように思います。
一つは、メリットが強調される弁護士の激増政策が、社会全体のコストや自己責任について、どちらの方向に向かう社会を前提としているものなのか。そしてもう一つは、そうした前提を私たちが本当に求めているのか、ということです。
ただいま、「今、必要とされる弁護士」「弁護士の競争による『淘汰』」についてもご意見募集中!
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「中部弁護士連合会などは昨年12月に全国の弁護士約3万人を対象にしたアンケートを行い、今月25日時点の回収数は1973通にすぎないが、その7割以上は民法(債権)改正に『反対』と回答。自由記載欄には『実務上不都合がない』などの意見もあった。上智大法学部の加藤雅信教授は『契約分野で顕著な問題が生じているとは言えず、今、改正の必要性は乏しい。改正議論はEU(欧州連合)の取引ルールを統合するため欧州で進む法改正を無意味にまねている面がある』と話す」
「これに対し、ある学者は『国際間の取引が増え、グローバルスタンダードを意識した改正を行うことは日本の競争力を強めることになる』と強調する」
前記引用のアンケート結果をもって、弁護士全体の傾向を読み取ることもできませんが、改正の必要性に関して異論があることは分かります。一方で、弁護士増員必要論でも、度々目にすることになるグローバルスタンダードや国際競争力という観点で必要という話は、正直、具体的にどういったもので、どの程度のことなのか、よく分かりません。大新聞の報道でも、ほとんど取り上げられていません。改正の必要性は、圧倒的に消費者、中小企業のためとして、伝わっているはずです。それと重ね合わせてしまえば、前記弁護士のなかにある消極姿勢を、その反対側に置いてみる読者がいてもおかしくはありません。
ただ、ここで一番注目したいのは、この記事が取り上げた次の切り口です。
「(改正で) 『民法が分かりやすく、使い勝手もよくなれば、中小企業などは弁護士を頼らずに済み、社会全体のコストはかえって少なくなる』との指摘もある」
弁護士に頼らないようにすることが、社会全体コスト減につながる。この「改正」だけで本当に弁護士が中小企業に必要なくなるかはともかく、少なくともこれが社会的な要請というのならば、これは弁護士激増の必要論とは、対立します。コストを投入しても、弁護士が必要となる社会がやって来る話とは。
もちろん、消費者保護という事前規制の立場も、描き方としては違います。前記「朝日」の記事で、経済同友会の反対意見として紹介されているような、情報収集も自己責任で行うのが経済取引の原則として、責任を消費者に転嫁する方向こそ、弁護士の大量必要論を導き出した、この国の未来像の描き方です。
このことだけから、弁護士増員必要論の、すべてを語ることは、もちろんできませんし、バランスの問題ともいえなくはありません。ただ、少なくとも、このことは、私たちに二つのことを考える機会を与えているように思います。
一つは、メリットが強調される弁護士の激増政策が、社会全体のコストや自己責任について、どちらの方向に向かう社会を前提としているものなのか。そしてもう一つは、そうした前提を私たちが本当に求めているのか、ということです。
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