無視を続ける「改革」推進姿勢
法曹養成制度検討会議委員の和田吉弘弁護士が3月27日開催の第11回会議に、法曹人口に関する意見をまとめた資料を提出しています。これは同月14日開催の第10回会議に提出された、法曹人口大幅増是非に関する意見対比の資料で示された、必要論に対する反論です。要約すれば、以下のようになります。
① 法曹人口が増えても法曹需要の増加は認められなかったのだから、法曹人口増で法曹需要が顕在化するという主張はもはや説得力がない。顕在化しなければ法曹需要がないのと同じで、顕在化することが期待できない需要は、「埋もれている」と表現するのも妥当ではない。
② 弁護士として食べていける状況になければ、職業として存立し得ない。「身近に弁護士がおらず、アクセスすることが困難な市町村」で弁護士としての仕事をすべきであるというならば、弁護士になるまでに数百万円から一千万円にも上る費用と数年間の時間をかけたことに見合う仕事があることを実際に示すべき。保険制度のある医師とは状況が異なる。
③ 一定数の弁護士が企業や行政などの領域で活動するようになったことは認められるが、今後、企業や行政などが、司法修習修了時に就職できていない毎年数百人もの新人弁護士を吸収するというのは、明らかにあり得ない。
④ OJT体制が不十分という理由で、資格取得能力がある人材にも資格を与えないのは不適切という主張があるが、OJT不十分の弁護士によって迷惑を受けるのは国民。
⑤ 法曹資格を取得しても基本的に生活が保証されないのであれば、多大な時間と費用のかかる法科大学院に人は集まらない。
⑥ 法科大学院における教育は、現状では、残念ながらその多くが司法試験にも実務にもあまり役に立たないものである。「法科大学院の教育によって」多数の優秀な法曹が輩出されたとまでは言えない。
⑦ 「従来型の法廷弁護士としての基礎知識だけで質を判断すべきではない」という指摘があるが、法廷外活動でも法廷弁護士としての基礎知識は必要。
⑧ 「広く資格を与えると、良い人材が入りやすくなり、業界の質は向上する」という指摘は、広く資格を与えた場合に「良い人材」とは言えない人材が入りやすくなるという観点が完全に抜け落ちている。
⑨ 諸外国との比較、訴訟外の活動分野での弁護士の役割をいう指摘は、日本における隣接士業の存在やそれとの関係を無視している。
これまで言われ続けている弁護士増員、あるいは弁護士のあり方に関する「改革」推進派側が繰り返す典型的な主張への、的確で正当な反論です。潜在需要への幻想のような開拓論、「甘やかすな」「特別扱いするな」という声に押された弁護士の経済的な環境と職業的性格を無視した主張、「法廷依存」というステレオタイプの前提に立つ見方、隣接士業総体でこの国の法的ニーズの「受け皿」をとらえない姿勢。そして、何よりもこれらを無視した政策のしわ寄せが、結局、国民に来ることの無視――。
無理な増員政策を強行して、本当に国民やこの社会にいいことがあるのか。良いことづくめの絵を描き、頭から「改革」を肯定する推進派の声と大マスコミ論調の前に、こんな何度も問い返されていいことが十分に問い返されてこなかったように思えます。この問題に関する弁護士側から出される慎重論は、すぐに「既得権益」「自己保身」という言葉につなげられますし、それ自体はある意味、発想としては容易かもしれません。ただ、それだけに、むしろそれで片付けられることなのかを、区別して考えなければならないはずです。弁護士に対する妬み・やっかみが根底にあるものでないのならば。
司法試験合格者年3000人方針からの撤退の方向は見えてきましたが(「ゆっくりした『改革』路線撤退」)、法曹養成制度検討会議の他の委員の方々が、前記したような和田委員の認識のうえに立ったというわけではありません。「改革」推進派の無視は、依然続いているというべきです。いずれ完全撤退のような終焉を迎えざるを得なくなるかもしれませんが、彼らは最後の最後まで無視し続けるかもしれません。ただ、大マスコミを含めた彼らがどうであろうと、われわれがそれに付き合う義理はありません。
ただいま、「地方の弁護士の経済的ニーズ」「弁護士の競争による『淘汰』」についてもご意見募集中!
投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。http://www.shihouwatch.com/
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① 法曹人口が増えても法曹需要の増加は認められなかったのだから、法曹人口増で法曹需要が顕在化するという主張はもはや説得力がない。顕在化しなければ法曹需要がないのと同じで、顕在化することが期待できない需要は、「埋もれている」と表現するのも妥当ではない。
② 弁護士として食べていける状況になければ、職業として存立し得ない。「身近に弁護士がおらず、アクセスすることが困難な市町村」で弁護士としての仕事をすべきであるというならば、弁護士になるまでに数百万円から一千万円にも上る費用と数年間の時間をかけたことに見合う仕事があることを実際に示すべき。保険制度のある医師とは状況が異なる。
③ 一定数の弁護士が企業や行政などの領域で活動するようになったことは認められるが、今後、企業や行政などが、司法修習修了時に就職できていない毎年数百人もの新人弁護士を吸収するというのは、明らかにあり得ない。
④ OJT体制が不十分という理由で、資格取得能力がある人材にも資格を与えないのは不適切という主張があるが、OJT不十分の弁護士によって迷惑を受けるのは国民。
⑤ 法曹資格を取得しても基本的に生活が保証されないのであれば、多大な時間と費用のかかる法科大学院に人は集まらない。
⑥ 法科大学院における教育は、現状では、残念ながらその多くが司法試験にも実務にもあまり役に立たないものである。「法科大学院の教育によって」多数の優秀な法曹が輩出されたとまでは言えない。
⑦ 「従来型の法廷弁護士としての基礎知識だけで質を判断すべきではない」という指摘があるが、法廷外活動でも法廷弁護士としての基礎知識は必要。
⑧ 「広く資格を与えると、良い人材が入りやすくなり、業界の質は向上する」という指摘は、広く資格を与えた場合に「良い人材」とは言えない人材が入りやすくなるという観点が完全に抜け落ちている。
⑨ 諸外国との比較、訴訟外の活動分野での弁護士の役割をいう指摘は、日本における隣接士業の存在やそれとの関係を無視している。
これまで言われ続けている弁護士増員、あるいは弁護士のあり方に関する「改革」推進派側が繰り返す典型的な主張への、的確で正当な反論です。潜在需要への幻想のような開拓論、「甘やかすな」「特別扱いするな」という声に押された弁護士の経済的な環境と職業的性格を無視した主張、「法廷依存」というステレオタイプの前提に立つ見方、隣接士業総体でこの国の法的ニーズの「受け皿」をとらえない姿勢。そして、何よりもこれらを無視した政策のしわ寄せが、結局、国民に来ることの無視――。
無理な増員政策を強行して、本当に国民やこの社会にいいことがあるのか。良いことづくめの絵を描き、頭から「改革」を肯定する推進派の声と大マスコミ論調の前に、こんな何度も問い返されていいことが十分に問い返されてこなかったように思えます。この問題に関する弁護士側から出される慎重論は、すぐに「既得権益」「自己保身」という言葉につなげられますし、それ自体はある意味、発想としては容易かもしれません。ただ、それだけに、むしろそれで片付けられることなのかを、区別して考えなければならないはずです。弁護士に対する妬み・やっかみが根底にあるものでないのならば。
司法試験合格者年3000人方針からの撤退の方向は見えてきましたが(「ゆっくりした『改革』路線撤退」)、法曹養成制度検討会議の他の委員の方々が、前記したような和田委員の認識のうえに立ったというわけではありません。「改革」推進派の無視は、依然続いているというべきです。いずれ完全撤退のような終焉を迎えざるを得なくなるかもしれませんが、彼らは最後の最後まで無視し続けるかもしれません。ただ、大マスコミを含めた彼らがどうであろうと、われわれがそれに付き合う義理はありません。
ただいま、「地方の弁護士の経済的ニーズ」「弁護士の競争による『淘汰』」についてもご意見募集中!
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