サービス業化と「職人」
「弁護士は寿司屋と同じ」。こんな言葉を、かつてよく耳にしました。基本的には、客側が「お代」について分からない、ということの共通点をいうものですが、それだけ庶民には敷居が高い、客がしゃちほこばらざるを得ないというニュアンスを被せていわれることもあります。
もともと誰が言い出したことなのかは分かりません。意味からすれば、弁護士に接した依頼者・市民の誰かが、そう漏らしたようにとれますが、実は、この言葉を一番口にしてきたのは、弁護士自身ではないか、と思うのです。こんな風にいわれちゃっているんですよ、という自嘲気味に語られるのも、度々、耳にしてきましたが、費用の不明瞭さと敷居の高さが弁護士業のネックであることを、ずっと前から、彼ら自身が、よく分かっていたことを示しているようにもとれます。
もっとも、いまや寿司屋といっても、大衆が身近に感じているのは、代金も明瞭で、気楽に入れる「回転寿司」。一方、弁護士の方では、本当に「回転寿司」チェーンを経営するという法律事務所が話題になりましたが(「法律事務所系『回転ずし』という現象」)、実は、弁護士自身が「回転すし」化しているなんて話もあります。安くて気楽なのは結構ですが、こうなると、別の意味で、単純にイメージを被せるわけにはいかなくなってきます。
寿司屋と弁護士に絡めて、勝俣豪弁護士がブログ(「横浜の弁護士ブログ」)で面白い見方を提示していました。彼は、寿司屋・弁護士と大衆が感じているイメージのなかに、「職人のこだわり」と「顧客の要望」が衝突する場面を見出します。そして、営業職が顧客対応でクッションとなり、職人が時間的精神的にも、物作りに専念できる環境が整えられるという仕事もあるが、弁護士はそうではない、と。
「弁護士側からすると、よい仕事をするためには、とにかく自分が最高のパフォーマンスを発揮できる仕事の仕方をしたい。あれこれ、いわれてペースを乱されて、よい仕事をできなくなるのは耐え難い。そういうやり方をしてほしいのであれば、他へ行ってくれ。これは、弁護士の態度特有のものではなく、クッションがなければ、色々なところで生じうる話の気がします」
弁護士に対して、一サービス業としての自覚を求め、弁護士自身もそれを自覚しようとしている時に、「顧客の要望」に対して「職人のこだわり」をかざすこと自体、「通用しない」、あるいは「心得違い」で片付けられてしまうかしません。クッションになればいいですが、現実的には顧客対応で困る営業職が、むしろ職人側と社内的に対立することも、宿命的に存在しているような気もします。
ただ、ここで出てくるのが、「回転寿司」です。
「でも、寿司の世界も職人的なものは嫌われて、回転寿司がメジャーです。値段が一緒でも、気難しい寿司屋より、回転寿司の方がよい人も大勢いると思います。味の違いよりも、気分的な快適さが重要ということです。弁護士の能力の違いなんて、寿司の味より差別化は困難です。実際は、全然違うのですが、依頼者のほうで、比べて比較して、というのは難しいからです」
「でも、弁護士が他の職人と違うのは、対人的な説得のプロであるということです。そうすると、依頼者との関係で、いかに振舞うかということが、その能力を示すので、依頼者が、不満を覚えるような振る舞いをする時点で、能力的に疑問符がつくという評価も可能です」
問題は、ここです。必ずしも「職人」ばかりではないとしても、そのなかにいるまっとうな「職人的」プロを嫌い、サービスに徹していると客側がとれるところに行っても、客側が本当意味で「質」「能力」の差別化をするのは難しい。それが弁護士の仕事だということです。「説得のプロ」は、やろうと思えば、その困難な判断に際して、自らに有利に導くことができるかもしれない。もっとも「説得のプロ」というのであるならば、「職人気質」の弁護士も、その能力で正しい方向に導くよう説得できなければおかしい、ということにはなりそうですが、現実的には、耳触りが悪く、不満の矛先がこちらに向きそうなことを、どこまでやるか、やれるかは、弁護士の能力と考え方ひとつです(「回避される依頼者の『説得』」)。
この「司法改革」が、別に「社会生活上の『回転寿司』を目指す」と掲げたわけではありませんが、「貴重品」から「日常品」へという言葉とともに、冒頭の自覚が、まさに「生き残り」への自覚として語られています。ただ、サービス業化優先ともいえるような流れのなかで、大衆にとって、弁護士が本当はどういう「職人」、どういう「プロ」でいてくれることが望ましく、また安全なのかも考えておかなければなりません。
ただいま、「法曹養成制度検討会議の『中間的取りまとめ』」についてもご意見募集中!
投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。http://www.shihouwatch.com/
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もともと誰が言い出したことなのかは分かりません。意味からすれば、弁護士に接した依頼者・市民の誰かが、そう漏らしたようにとれますが、実は、この言葉を一番口にしてきたのは、弁護士自身ではないか、と思うのです。こんな風にいわれちゃっているんですよ、という自嘲気味に語られるのも、度々、耳にしてきましたが、費用の不明瞭さと敷居の高さが弁護士業のネックであることを、ずっと前から、彼ら自身が、よく分かっていたことを示しているようにもとれます。
もっとも、いまや寿司屋といっても、大衆が身近に感じているのは、代金も明瞭で、気楽に入れる「回転寿司」。一方、弁護士の方では、本当に「回転寿司」チェーンを経営するという法律事務所が話題になりましたが(「法律事務所系『回転ずし』という現象」)、実は、弁護士自身が「回転すし」化しているなんて話もあります。安くて気楽なのは結構ですが、こうなると、別の意味で、単純にイメージを被せるわけにはいかなくなってきます。
寿司屋と弁護士に絡めて、勝俣豪弁護士がブログ(「横浜の弁護士ブログ」)で面白い見方を提示していました。彼は、寿司屋・弁護士と大衆が感じているイメージのなかに、「職人のこだわり」と「顧客の要望」が衝突する場面を見出します。そして、営業職が顧客対応でクッションとなり、職人が時間的精神的にも、物作りに専念できる環境が整えられるという仕事もあるが、弁護士はそうではない、と。
「弁護士側からすると、よい仕事をするためには、とにかく自分が最高のパフォーマンスを発揮できる仕事の仕方をしたい。あれこれ、いわれてペースを乱されて、よい仕事をできなくなるのは耐え難い。そういうやり方をしてほしいのであれば、他へ行ってくれ。これは、弁護士の態度特有のものではなく、クッションがなければ、色々なところで生じうる話の気がします」
弁護士に対して、一サービス業としての自覚を求め、弁護士自身もそれを自覚しようとしている時に、「顧客の要望」に対して「職人のこだわり」をかざすこと自体、「通用しない」、あるいは「心得違い」で片付けられてしまうかしません。クッションになればいいですが、現実的には顧客対応で困る営業職が、むしろ職人側と社内的に対立することも、宿命的に存在しているような気もします。
ただ、ここで出てくるのが、「回転寿司」です。
「でも、寿司の世界も職人的なものは嫌われて、回転寿司がメジャーです。値段が一緒でも、気難しい寿司屋より、回転寿司の方がよい人も大勢いると思います。味の違いよりも、気分的な快適さが重要ということです。弁護士の能力の違いなんて、寿司の味より差別化は困難です。実際は、全然違うのですが、依頼者のほうで、比べて比較して、というのは難しいからです」
「でも、弁護士が他の職人と違うのは、対人的な説得のプロであるということです。そうすると、依頼者との関係で、いかに振舞うかということが、その能力を示すので、依頼者が、不満を覚えるような振る舞いをする時点で、能力的に疑問符がつくという評価も可能です」
問題は、ここです。必ずしも「職人」ばかりではないとしても、そのなかにいるまっとうな「職人的」プロを嫌い、サービスに徹していると客側がとれるところに行っても、客側が本当意味で「質」「能力」の差別化をするのは難しい。それが弁護士の仕事だということです。「説得のプロ」は、やろうと思えば、その困難な判断に際して、自らに有利に導くことができるかもしれない。もっとも「説得のプロ」というのであるならば、「職人気質」の弁護士も、その能力で正しい方向に導くよう説得できなければおかしい、ということにはなりそうですが、現実的には、耳触りが悪く、不満の矛先がこちらに向きそうなことを、どこまでやるか、やれるかは、弁護士の能力と考え方ひとつです(「回避される依頼者の『説得』」)。
この「司法改革」が、別に「社会生活上の『回転寿司』を目指す」と掲げたわけではありませんが、「貴重品」から「日常品」へという言葉とともに、冒頭の自覚が、まさに「生き残り」への自覚として語られています。ただ、サービス業化優先ともいえるような流れのなかで、大衆にとって、弁護士が本当はどういう「職人」、どういう「プロ」でいてくれることが望ましく、また安全なのかも考えておかなければなりません。
ただいま、「法曹養成制度検討会議の『中間的取りまとめ』」についてもご意見募集中!
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