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    法科大学院制度「元凶」を伝えた経済誌

      「『士業』崩壊――食えなくなった弁護士 会計士 税理士」。週刊東洋経済8月31日号が、こんなタイトルの特集記事を掲載しています。経済系の雑誌は、士業の経済的な異変・窮状には度々目を向けて、これまでにも各誌何回かそれを伝える特集を組んできました。とりわけ、弁護士については、既に2009年くらいから、「食えない異変」に着目しています。ただ、今回の特集の「三大士業」のうち、冒頭に掲載されている弁護士編の記事を読むと、明らかにそのトーンが変わってきていることに気付きます。

     それは、彼らが「改革」の失敗をより強く認識し、打ち出しているということです。当初は、彼らもまた、大方、このテーマでよく見かける、「改革」がもたらした異変と、厳しい現状を伝える一方で、それでも頑張る若手の姿を紹介したりしながら、「まだまだ」頑張れるというイメージ、活躍ができる場はまだあるはず、さらには企業系弁護士の「国際競争力」を挙げての増員肯定論、そして法科大学院制度を含めて、全体的に司法制度改革審議会が打ち出した「改革」の根本理念は間違っていない、というまとめ方だったといっていいと思います。

     ところが、彼らは、「改革」がもたらしている現実が、もはやそういうレベルではないことを認識しています。実際、以前から取材を受け、企画に協力する機会もあって、経済系雑誌の記者と直接接して感じることは、彼らが「改革」推進派の大新聞の編集委員よりも(少なくとも、本心はともかく彼らが紙面で打ち上げている論調と建て前を前提にすれば)、はるかにそのことを認識し、あるいは率直に認める、ということでした。

     そして、今回の東洋経済の特集には、その意味で、さらに一歩踏み込んだ印象を受けました。それは、一口に言えば、「改革」の現状にあって、元凶が法科大学院であることをはっきりと打ち出しているということです。司法審意見書に始まった「改革」路線で、弁護士は約10年で8割増、しかし、新規事業は「過払い金」返還を除けば大幅減、法律相談も「有料」では需要なし、新規分野は伸び悩み、組織ない弁護士増も期待外れで、「法曹需要増は全くの見込み違い」。結果、弁護士の就職状況は悪化し、初任給は右肩下がり。そして、ロースクール志願者が激減――。

     特集は、「改革」の「負のスパイラル」として、この状況を伝えています。しかし、この特集紙面の大部分は、実は法科大学院(ロースクール)関連に割かれています。政府が「合格3000人」の旗を降ろしながら、新たな目標人員を定めなかった背景に、ロースクールの扱いの問題があったこと、そして、司法試験合格率をにらんだ統廃合といった方向では「何ら本質的な解決に至らない」ということをはっきりと見抜いたうえで、こう言っています。

      「真の問題は、ロースクールでの教育内容が徹頭徹尾、法曹志望者のニーズと懸け離れていることにある」

     法学未修者に対応できていない教育、実務家が2割で足りるとされている教員の質的問題、司法試験に対応できない現実、受験予備校への研究者教員の敵愾心と、それとつながる「起案教育」の欠落、そして、予備試験の敵視。これまで、このブログでも指摘してきた、「改革」の理念の前に徹底的な利用者の視点無視している現実を抜きには、この問題を語ることはできない、という当然の切り口です。

     かつて有力ロースクールの既修コースの大半を占めていた旧司法試験組がほぼ姿を消している現在、予備試験のための勉強を通じて知識をもった学生が、あるいはロースクール教育の役割を見直すかもしれない、という可能性があっても、法科大学院側が「司法制度改革の理念」のもとに予備試験を敵視し、大学生・ロー生の受験禁止に傾いている現実、さらにはロースクールへの750億円の財政支援の「バーター」で給費制が失われた現実、さらには、それでも法科大学院を中核とする法曹養成堅持を掲げる日弁連のおかしさまで。変な言い方になりますが、大マスコミにまとわりついている司法審「路線」の呪縛から解き放たれた、当然の視点にたどりついている印象までもってしまうのです。

      「ロースクール制度、そして司法制度改革の理念を守るため、次世代の目を摘み、若手を疲弊させ、弁護士の価値を貶めることになっては、本末転倒だ。それはひいては国民の利益を大きく損なうことにつながる」

     記者は、例の「成仏理論」(「弁護士『成仏理論』が描き出す未来」)を紹介したうえで、「ロースクールがこのまま司法制度改革の理念に殉じて朽ちていくのなら、その『成仏』もまた社会奉仕」という皮肉で、この記事を締めくくっています。もちろん、言うまでもないことですが、あくまでこれは皮肉ですから、彼が、理念に殉じて朽ちていくのを待つことを是としているわけでも、また、その間に法曹界が朽ちていくことを無視しているわけでもありません。法科大学院を即刻「成仏」させることができれば、それが一番の「社会奉仕」であることを、日本を代表する経済誌が伝えたのです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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