弁護士報酬「お布施」論の役割
かつてフランスの弁護士には、報酬請求権がなかったそうです。同国は1971年の弁護士法改正で控訴院と大審裁判所の弁護士、大審裁判所の代訴士及び商事弁護人を統一して、新弁護士職を作りますが、それまで代訴士(書面作成・訴訟代理人)は有していた報酬請求権を、弁護士(口頭弁論担当)は持っていなかった。
でも、その弁護士たちは、ただ働きをしていたわけではありません。では、彼らが依頼者からもらっていた「報酬」は一体何だったのかというと、それは「名誉に対する謝礼」。依頼者の感謝の志の自発的発露に基づく、要は「お布施」だったということです。
ちなみに同国では、弁護士と並んで「プロフェッション」の原型と位置づけられていた医師も僧侶も、同様に報酬請求権がなかった。その理由は、人間の尊厳にかかわる崇高なる職という位置付け、つまりは「聖職」であることが求められたことによるとされています(岩波書店「日本の裁判」)。
弁護士とお布施といえば、中坊公平弁護士が唱えた「弁護士報酬お布施論」を思い出される方もいると思います。司法改革論議のなかで、増員政策が目指すべき弁護士数のモデル国として、中坊弁護士が度々引用したフランスに、奇しくも彼の持論であった「お布施」論のルーツも存在していたことになります。
かつての日本の弁護士に、「聖職」意識というものがあったとしても、もともと「お布施」という発想がどこまであったのかは疑わしいものがありますが、中坊氏が提唱した「お布施」論は、その後に某東大名誉教授が唱えられた有名な「成仏理論」と並んで、現在に至るまで弁護士会内では、現実離れ論の代表格的な扱いがされています(「弁護士会内『断絶』ムードを伝えるツイート」)
もっとも、成功報酬といっても、何が「成功」なのかで、しばしば依頼者との間で食い違うことがある弁護士としては、「お布施」的にもらう(終了謝金)の方が都合がいいという考え方も、中にはあるようですが(「弁護士早川忠孝の一念発起・日々新たなり 通称『早川学校』」)、もともと弁護士におカネを投入する気持ちも余裕もない、多くの依頼者・市民の現実からすれば、依頼者任せの志で弁護士業が成り立つなどと考えることの方が無理な話です。
ただ、一つ見逃せないのは、この「お布施」論が、なぜかこの弁護士の激増政策を伴う「改革」論議のなかで、言われたことです。結論からいえば、一方で弁護士に競争とサービス業化をもたらした「改革」の現実からすれば、およそ「聖職者」意識を求めるような同論は、真逆の発想。「改革」がサービス業化を押し付けといて、一方でサービス業としては当たり前であるはずの「対価」という発想を否定するような発想がいわれることには、ある意味、はっきりとした矛盾として、多くの弁護士から特別な違和感を持って受けとめられても当然でした。
弁護士会内の「改革」推進の、文字通り牽引役を務め、「ミスター司法改革」とまでいわれ、この「改革」の現実を誰よりも知っていたはずの中坊氏が、なぜ、矛盾ともいうべき「お布施」論を提示してみせたのか。彼の本当の意図は、いまや推測するしかありませんが、おえてその効果(あるいは中坊氏が期待した)からいえば、サービス業化という「改革」の現実、あるいは多くの弁護士にとって「改革」への抵抗感につながりかねない、その現実に対して、極力違うイメージを付与しつつ、当然予想される拝金主義化の懸念から目を遠ざける役割を果たした。
逆に言えば、これから起こる可能性がある「お布施」論とは真逆の方向で進む現実を、中坊氏は分かっていたのではないか、ということが想像できます。もっとも、そこまで分かっていた中坊氏が、なぜ、この論がおよそ「改革」の現実と矛盾する、いわばきれいごととして、多くの弁護士から総スカンをくらうことを想像しなかったのか、という疑問は残ります。
「お布施」論は、前記「成仏理論」と並べてみると、それはともに、この「改革」がもたらす経済的な異変に対する、弁護士の「不満」へのアンサーともいえますが、それを踏まえて、おえて憶測を進めてしまえば、やはり彼はその「不満」をかなり甘く見積もっていたようにとれます。サービス業化が進んだとしても、建て前としての「聖職者」意識が保持できるような、「改革」後の弁護士像をどこかで考えていた。ただ、そうだとすれば、結果としてこれもまた、この「改革」に対する弁護士会内の甘い見通しにつながっていったといえなくもありません。
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「司法ウオッチ」では、現在、以下のようなテーマで、ご意見を募集しています。よろしくお願い致します。
【弁護士業】いわゆる「ブラック事務所(法律事務所)」の実態ついて情報を求めます。
【刑事司法】全弁協の保釈保証書発行事業について利用した感想、ご意見をお寄せ下さい。
【民事司法改革】民事司法改革のあり方について、意見を求めます。
【法曹養成】「予備試験」のあり方をめぐる議論について意見を求めます。
【弁護士の質】ベテラン弁護士による不祥事をどうご覧になりますか。
【裁判員制度】裁判員制度は本当に必要だと思いますか
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でも、その弁護士たちは、ただ働きをしていたわけではありません。では、彼らが依頼者からもらっていた「報酬」は一体何だったのかというと、それは「名誉に対する謝礼」。依頼者の感謝の志の自発的発露に基づく、要は「お布施」だったということです。
ちなみに同国では、弁護士と並んで「プロフェッション」の原型と位置づけられていた医師も僧侶も、同様に報酬請求権がなかった。その理由は、人間の尊厳にかかわる崇高なる職という位置付け、つまりは「聖職」であることが求められたことによるとされています(岩波書店「日本の裁判」)。
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かつての日本の弁護士に、「聖職」意識というものがあったとしても、もともと「お布施」という発想がどこまであったのかは疑わしいものがありますが、中坊氏が提唱した「お布施」論は、その後に某東大名誉教授が唱えられた有名な「成仏理論」と並んで、現在に至るまで弁護士会内では、現実離れ論の代表格的な扱いがされています(「弁護士会内『断絶』ムードを伝えるツイート」)
もっとも、成功報酬といっても、何が「成功」なのかで、しばしば依頼者との間で食い違うことがある弁護士としては、「お布施」的にもらう(終了謝金)の方が都合がいいという考え方も、中にはあるようですが(「弁護士早川忠孝の一念発起・日々新たなり 通称『早川学校』」)、もともと弁護士におカネを投入する気持ちも余裕もない、多くの依頼者・市民の現実からすれば、依頼者任せの志で弁護士業が成り立つなどと考えることの方が無理な話です。
ただ、一つ見逃せないのは、この「お布施」論が、なぜかこの弁護士の激増政策を伴う「改革」論議のなかで、言われたことです。結論からいえば、一方で弁護士に競争とサービス業化をもたらした「改革」の現実からすれば、およそ「聖職者」意識を求めるような同論は、真逆の発想。「改革」がサービス業化を押し付けといて、一方でサービス業としては当たり前であるはずの「対価」という発想を否定するような発想がいわれることには、ある意味、はっきりとした矛盾として、多くの弁護士から特別な違和感を持って受けとめられても当然でした。
弁護士会内の「改革」推進の、文字通り牽引役を務め、「ミスター司法改革」とまでいわれ、この「改革」の現実を誰よりも知っていたはずの中坊氏が、なぜ、矛盾ともいうべき「お布施」論を提示してみせたのか。彼の本当の意図は、いまや推測するしかありませんが、おえてその効果(あるいは中坊氏が期待した)からいえば、サービス業化という「改革」の現実、あるいは多くの弁護士にとって「改革」への抵抗感につながりかねない、その現実に対して、極力違うイメージを付与しつつ、当然予想される拝金主義化の懸念から目を遠ざける役割を果たした。
逆に言えば、これから起こる可能性がある「お布施」論とは真逆の方向で進む現実を、中坊氏は分かっていたのではないか、ということが想像できます。もっとも、そこまで分かっていた中坊氏が、なぜ、この論がおよそ「改革」の現実と矛盾する、いわばきれいごととして、多くの弁護士から総スカンをくらうことを想像しなかったのか、という疑問は残ります。
「お布施」論は、前記「成仏理論」と並べてみると、それはともに、この「改革」がもたらす経済的な異変に対する、弁護士の「不満」へのアンサーともいえますが、それを踏まえて、おえて憶測を進めてしまえば、やはり彼はその「不満」をかなり甘く見積もっていたようにとれます。サービス業化が進んだとしても、建て前としての「聖職者」意識が保持できるような、「改革」後の弁護士像をどこかで考えていた。ただ、そうだとすれば、結果としてこれもまた、この「改革」に対する弁護士会内の甘い見通しにつながっていったといえなくもありません。
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