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    「弁護士経験」登場の場面 

     やる前から「空回り」が取り沙汰されていた出直し大阪市長選で、再選された橋下徹市長のインタビュー記事を、3月27日付の朝日新聞朝刊が掲載しています。内容的には、過去最低投票率もなんそのの、前向き解釈の持論を展開する、案の定のもので、あくまでこの人のなかでは、「空回り」が存在していないことは改めて理解しました。

     それはともかくとして、このインタビューでの橋下市長の発言のなかで、2箇所に「弁護士経験」が登場します。

      「僕は弁護士の経験から、最後は第三者に委ねるということが染みついている。弁護士は自分がどれだけ『これだ』と思っていても最後は裁判官に委ねる」
      「弁護士としての経験で、対話で解決するものとそうでないものの峻別はできる」

     前者は、都構想について最後は住民投票の民意に従う「潔さ」、議会での話し合い解決の無理をいう文脈で、それぞれ登場してきたものです。紙面の扱いとしては、「主なやりとり」となっていますから、あるいは、この他にも、市長の口から「弁護士経験」が登場していたのかもしれませんが、これを見ただけでも「そうか、そういえば彼は弁護士だった」と思い出した読者が少なからずいたのではないかと想像します。

     それくらい、彼のイメージは、もはや「弁護士」から遠く、そのイメージが大衆のなかで頭をもたげるとすれば、他の多くの弁護士政治家の場合がそうであるように、「理屈っぽい」とか「言い訳がうまい」といった、およそネガティブなイメージを被せたくなるときだけのようにも思います。

     ただ、その意味で、逆に今回の彼の発言は、実は彼の中に「弁護士」であった(である)自分について、その能力や経験を強調したい、ポジティブな意味で「弁護士」を自分に被せたい意識があることを教えています。もちろん、こちらが知らないだけで、彼は常日頃から、そうした意識をむしろ積極的に表に出すタイプなのかもしれません。ただ、先ごろ、業界内でも微妙な反応を生んだ、彼のツイッターでの「訴訟物」発言もそうですが、どうも最近、そうした傾向があるような印象も持ちます。件の発言に対しても、かつて「弁護士」らしからぬ弁護士をウリにしてきたようにとられがちな彼のなかに、そういう意識が強くあることの方に注目する声も聞かれました。

     ただ、「訴訟物」発言については、それこそ業界内はともかく、一般大衆は「きょとん」だったとしても、今回の「弁護士」発言については、いささかどうかと思います。もちろん、彼が何を言いたいかは分かります。ただ、少し目を離して見れば、これは何も「弁護士」が強調されなければならないような局面でしょうか。

     第三者に委ねることは、何も弁護士に限らず、「染みついている」国民はいくらもいると思いますし、現に多くの国民は司法を最終判断、最終決着の場と考え、裁判官に委ねています。対話で解決するものと、そうでないものとの「峻別」も、一般大衆に比べて、弁護士という職業に備わっていると強調すべきものかといえば、そうとも言い難いように感じます。嫌な言い方になりますが、そもそも「弁護士」という肩書を、もし100%利用したいという意図のもとに、こうした言い方を繰り出すであれば、その向こうの大衆側のとらえ方に、「なるほど」と言わせしめるような「弁護士」イメージがなければ、効果はない、それこそ「空回り」というべきです。

     つまり、何が言いたいかといえば、こうした形での「弁護士」の「特別」を強調するのは意味がないと同時に、弁護士としてはやめておいた方がいい、ということです。弁護士が本来、社会のなかで強調されるべき「特別」はもっとほかにある。ここは、弁護士としては、こだわらなければならないところのように思えるのです。もちろん、橋下市長が、そこまで考えて発言しているわけもないのですが。

     弁護士が、「弁護士だから」とか「弁護士の経験があるから」という表現で、一般の人に対して、自分が備わっている「能力」を誇示する場面がそんなにあるとは思えませんし、しかも法律的知識はともかく、なにも弁護士に限らないことまで強調することは、およそないようにも感じます。しかも、仮にそれが「特別」と括れそうなことでも、それを口にするのは、あまりカッコがいいことではありません。それは一つ間違えれば、「僕はタクシー運転手だから運転が上手い」とか「マラソン選手だから足が速い」といっているようなものですから。言うほどに安っぽくとられても仕方ありません。

     もっともそんなことも、弁護士ならば多くの人は、分かっていると思います。「訴訟物」発言を含めて、そんな感じがしないところが、やはり橋下市長が、もはや「弁護士」から遠い人であることの表れなのかもしれません。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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