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    日弁連の「法科大学院」推進を牽引した発想

     「日弁連の『改革』史観に貫かれた代表的な一冊」として以前も取り上げたことがある、朝日新聞社が2007年に発行した、大川真郎・元日弁連事務総長の「司法改革――日弁連の長く困難なたたかい」という本(「日弁連『改革』史観の神髄」)に、ロースクール構想を突き付けられた1998年当時の日弁連の状況について触れたところがあります。

     自民党司法制度特別調査会が同年6月の「21世紀の司法の確かな指針」のなかで、ロースクール方式導入を検討課題とし、10月には大学審議会が構想を文科省に答申する中で、日弁連は急きょ、会内での検討を開始し、そのスタンスを鮮明にしなければならなくなった。その時のことを同書は、滝井繁男副会長(当時)の座談会(「1999年日弁連の活動と今後の課題」『自由と正義』2000年3月号)での発言を引用して伝えています。

     滝井弁護士の話からは、まず突如、表面化してきたロースクール構想に対して、弁護士間に戸惑いがあったこと、そして、その一つの原因が、やはり戦後の「司法の民主化」での役割を含めた、司法修習制度に対する会員の一定の評価だったことが分かります。ただ、それでも同弁護士は、この構想を日弁連として前向きにとらえるべき、という立場に立ちます。その理由として、真っ先に挙げられているのが、司法修習の裁判官養成への偏重という視点でした。

     「特に、司法研修所が最高裁におかれていることもあって、どうしても裁判官のための法曹養成に重点が置かれているわけです。ところが修習生の大部分は弁護士になる。しかも、弁護士の仕事における裁判の仕事が年々低くなっているなかで、現在の司法修習制度で本当に必要な法曹が養成されているのかについて、もっと真剣に考えなければならないのではないでしょうか」

     彼は、このあと推進論が常套句とする予備校依存や、「数」の問題とつながる司法研修所の限界(研修所増設論へのクギ)にも言及しています。しかし、それよりもなによりも、新制度導入へのはっきりした抵抗感があった当時の会内世論ムードのなかで、前記した研修所教育の偏重という切り口が、一定の説得力を持つという確信が、会内推進派にあったことを、この一連の引用はうかがわせます。もちろん、そこには法曹養成での日弁連の発言力確保・強化、「自前」の法曹養成論、反権力的スタンスの一部、さらには法曹一元まで、この切り口がある種の会内「欲求」と結び付くという効果があったこともまた事実です。有り体にいえば、より広く、さまざまに会員が「欲求」を被せやすいものが、そこにあったということができるように思います(「『法科大学院』を目指した弁護士たち」)。

      それでも滝井弁護士も、この構想の問題点について次のように簡単に触れていました。むしろ、触れざるを得なかったというべきかもしれません。

     「たとえば、どこにどういう基準で何校つくるのか、あるいは実務教育はどのようになされるのか」
     「それに対して、大学側からはいくつもの提案があります。私どもは、これを単に批判するのではなく、主体的に取り組む必要がある」

     結果を知ってしまっている今のわれわれからすれば、彼、あるいは当時の日弁連の関係者がしっかりと感じ取っていた問題点が、まさにこの制度を失敗に導いていたようにみえます。そして、皮肉にも制度推進に被せられた、さまざまな会内「欲求」は、まるで「夢」だったかのようにあるものは消え、あるものは遠ざかった――。

     日弁連が「改革」に主体的、主導的に取り組んできた「成果」を強調する、「改革」史観の同書からすれば、日弁連がそうした会内の異論を超えて、ロースクール(法科大学院制度)へ舵を切った、いわばその日弁連という組織の「苦労談」として、これを理解する読み方もあるのかもしれません。また、著者がわざわざ、この滝井弁護士の発言を引用したのにも、そうした意図を推察することはできます。

     ただ、残念ながら、そうした意図に引きずられず読めば、ここから見えてくるのは、本書が強調したい主体的、主導的という思考に惑わされ、かつ、その掛け声とムードに引きずられることで、分かっていながら、肝心の問題点について、冷静で慎重な分析ができなかった、あるいはしなかった可能性がある日弁連の姿なのです。

     いまだに主導層が法科大学院構想に対する方針の大転換をできないばかりか、なかに依然として前記「欲求」の実現を信じているととれる方々が沢山存在している日弁連の現実を考えれば、あるいは著者の意図に反しても、同書のこの部分は、そう読まれた方が、むしろ価値があるといわざるを得ません。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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