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    「弁護士自治」会員不満への向き合い方

     今、この国の弁護士の何割が、本音で「弁護士自治」を絶対死守すべき、と考えているのか――。この問いに明確に答えられる人は、もちろんいません。これについて、日弁連が全会員アンケートを行うということも、今のところありませんが、「もはや怖くてできないのではないか」という見方すらあります。もっとも、このテーマについては、必ずしも「本音」がその回答に反映するとも限りませんが、それでもいまや一つ間違えれば、決定的な「自治」無用論につながる会員意思を浮き彫りにするような、弁護士自治存否を正面から問う意識調査を、今の弁護士会主導層がやるわけもない、とは思います。

     会内の弁護士自治、強制加入への会内の不満は、以前も書いたように、私が取材を始めてからの30年間で、今、最も高まっており、今後さらに高まる状況にある、といえます。その内容は分ければ、大きく二つ。「改革」によって生まれた、弁護士の経済的な困窮化によって、負担感がより高まった高い会費への不満からくるもの。そして、それと一体ではありますが、そうした不満をより刺激する形になっている会務への低い了解度からくるもの、です。

     つまり、有り体にいえば、会費負担が業務維持のうえで、切実である会員はもちろん、仮になんとかやっていかれる状況の会員であったとしても、その会費の使い道として、弁護士会のやっていることはどうなんだ、会員の意思を公平に汲み上げ、それに沿った会務運営をしているのか、さらにいえば、こうした時だからこそ、もっと個々の会員の業務に還元されるような運営がなされてもいいのではないか、といった受けとめ方です。

      「人権」という弁護士にとっての「最大公約数」で、なんとかその個々の会員意思が束ねられてきたといえる、これまでの弁護士会の現実にあって、「改革」は、否応なくそれに対する会員の厳しい目を生み出し、その「ハードル」を上げることにつながった、ということもできます(「弁護士会意思表明がはらむ『危機』」)。

     問題は、この状況下で、いまのところ弁護士自治堅持の立場に立っている弁護士会主導層は、今、どのくらいの危機感を持ち、会員の不満にどういう言葉と姿勢で向き合おうとしているのか、という点です。

     もちろん、これを弁護士自治の存廃問題ととらえれば、これまで通りの、その意義が語れることになりますし、現に聞こえてくるのは、そうしたお馴染みの論調です。国家権力と対峙することになる、その職業的使命と性格。司法大臣の監督下にあった戦前の形への反省。ただ、この意義が繰り返しいわれることの意味は、もちろんあったとしても、そのことで現在の、弁護士自治をめぐる会員意思の分裂的ともいえる状況が解消される、と考える会員がどれほど存在しているのか、といわなければなりません。

     そもそも民事事件を担当する弁護士と、日常的に国家権力と対峙している刑事事件を担当する弁護士では、かつてからこうした論拠に基づく自治の意義に現実的な温度差が存在することは否定でません。もちろん少なからず、刑民を扱うことになる弁護士が、それなりの理解を示してきたということもできますが、そこには会員間の意思の濃淡にバラツキがあります。

     さらに、自治の中身である懲戒や監督権行使について、本来、国家の行政作用のなかに含まれる弁護士の質確保につながるそれらを、裁判の適正化という観点から、国家が前記したような弁護士の職業的性格を汲んで、譲歩しているというような論(「弁護士自治の政策的根拠」)を、いまや口にする弁護士はほとんどいません(「『弁護士自治』の根拠」)。あえて厳しい見方をすれば、弁護士会がこの「譲歩」に胸を張ってこたえている、とはいえないような現状と、何よりそれに対する厳しい社会の目が存在していることが、こうした論が消える背景にあるともいえます。いまやネット上などでは、監督官庁なき弁護士会の存在に対して、その実効性において、否定的な見方で溢れかえっているのが現実です。

     今、弁護士会内で、「自治」に対して不満を持ち出し、不要論に傾き出している弁護士の多くは、前記したように弁護士会サイドから繰り出される、その「意義」の論拠を知らないわけではない、というよりは、百も承知だと思います。ここでも、情報を発信する側が、本当の理解への効果を無視し、発信したいことだけを流すような姿勢をみる思いがします(「法科大学院『意義』発信の効果と現実」)。

     そして、最も決定的なことは、本当にそれを会員が了解するために、いま、「改革」と会運営はどういう方向を向かなければならないのか、その肝心なことから弁護士会が目をそむけているように見えることです。

     このテーマに対して、緊張感がないように見える弁護士会主導層の姿勢について指摘したところ、最近、ある弁護士は、「実は緊張感は持っているが、もはや、どうしていいのか分からないのではないか」と言っていました。その見方が正しければ、弁護士自治の内部崩壊の危機を前にしても、本当の会員の意思に向き合い、大きく舵を切るということができない、弁護士会の現実があることになります。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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