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    司法試験合格「1500人」政府案から見えるもの

     14年も前に、法曹人口の大幅な増加は喫緊の課題であり、早期に確保を目指す必要があるとされた司法試験年間3000人の目標を、半減させる政府提案が話題になっています。この「大外れ」の原因が、需要と法曹養成の「誤算」にあることは、もはや明らかです。ただ、私たちが注目しなければいけないのは、この「改革」路線そのものが、今、この事態を本当はどう受けとめ、これからどう進めようとしているのか、です。

     公表されている「法曹人口の在り方について(検討結果取りまとめ案)」は、冒頭から「内閣官房法曹養成制度改革推進室において行った調査により判明した法的需要の状況及び弁護士の活動状況に照らすと、法曹人口は、全体として今後も増加させていくことが相当」、現在の概ね年1800人ないし2100人程度の規模について「現状において、新たに法曹となる資格を得た者のうち多くのものが、社会における法的需要に対応した活動の場を得ている」「社会的・経済的な外的諸事情に流動的な要素もあることからすれば、相当と考えられる法曹の輩出規模はある程度の幅を持ったものとして考えるべき」などとして、まずは増員基調の継続を宣言しています。

     ただ、「1500人」への変更に直結する、現状への率直な危機感が示されているのは、その次の下りです。

     「法曹養成制度の実情及び法曹を志望する者の減少その他の事情による影響をも併せ考えると、法曹の輩出規模が現行の法曹養成制度を実施する以前の司法試験合格者数である1500人程度にまで縮小する事態も想定せざるを得ない。そればかりか、このまま何らの措置も講じなければ、司法試験合格者数が1500人程度の規模を下回ることになりかねない」

     マスコミ報道のなかには、これを目標の「下方修正」という表現もみられましたが、より現実に即していえば、ずるずると落ちてくる合格者数をなんとか1500人で「死守」しなければならないとするものです。そして、その理由はこの文脈で読む限り、3000人方針を掲げたときと変わらない増員必要の「大義」ということになります。

     見落とせないのは、前記増員基調宣言は、法的需要の状況と弁護士の活動状況からみても、その継続が相当という前提に立ちながら、ずるずる合格者が縮小する想定を「法曹養成制度の実情及び法曹を志望する者の減少その他の事情による影響」から導き出しているということです。これはどう考えるべきでしょうか。この影響のなかに、法的需要がないために弁護士の活動状況に異変が生じていること、さらに法科大学院というプロセス強制の負担、あるいはそれを重ね合わせたときの、「価値」として志望者が敬遠している状況があることは認めているととるべきでしょうか。

     ある意味、矛盾しているといっていいと思いますが、増員の必要性は揺るぎない、と言い切ってしまうことで、「喫緊の課題」「早期確保」の必要性の「大外れ」と、その誤算で明らかになった問題に踏み込まないまま、1500人「死守」を結論付けていないでしょうか。揺るぎない増員の必要性が「死守」の目的であるとすることで、増員政策の妥当性の問題に踏み込ませないばかりか、現法曹養成制度の枠組みをなんとしてでも変えないという、本当の目的を覆い隠そうとしているようにもみえます。

     つまり、この立場からは、表向きずるずると合格者数が減少すると何が困るかは、「改革」が掲げた、あくまで「正しい」増員の必要性に反することになるから。でも、その後退の原因には、その必要性から導き出された増員政策と法曹養成の誤算がある――。

     提案は「より多くの有為な人材が法曹を志望」することを目指すべき、としていますが、もし、このまま志望者減少に歯止めがかからなければ、それでたとえ法科大学院修了者の7、8割合格を達成することになったとしても、多くの志望者から選抜される形に比べて、どちらが「有為な人材」確保に資するかは明らかです。そのために、多くの志望者が、この世界に価値を見い出すには、今、「改革」が何を優先させるべきか。この「1500人」への変更提案の根本的な発想が、そのことから逆算する発想に立っているわけではないこと、そして彼らは、それを当然分かったうえで提案しているところは押さえておかなければなりません。

     この新たな方針提案のちぐはぐさの背景に、法務省と文部科学省の思惑の違いとあるという分析もあり(「黒猫のつぶやき」)、相変わらずの「改革」の同床異夢性と、妥協を優先させた問題打開への不透明感をみることもできます。

     いずれにしても、本来、重大な責任問題に発展してもおかしくない「改革」の「大外れ」を示すものでありながら、責任どころか根本原因から逆算することなく、「大義」で押し切った先に示された「1500人」。「改革」を維持したい方々にとっての、最終死守ラインが後退しただけで、問われるべきことは問われないまま(「司法試験合格『1500人』で問われるべきこと」)、本当の「改革」の反省と見直しは、足踏み状態といわなければなりません。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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