現実を直視できない増員路線
法曹人口問題をめぐっては、その拡大を求める側から「市場に委ねよ」ということが強調されてきました。司法制度改革審議会の最終意見書にも、「実際に社会の様々な分野で活躍する法曹の数は社会の要請に基づいて市場原理によって決定されるもの」という表現が出できます。文脈からして、今は姿を消すことになった司法試験年間合格者3000人方針が、早期実現目標であって上限ではない、ということをいうために、あえて強調したようにとれるこの表現は、確認というより忠告のような響きすらあります。
何に対する忠告なのかは、いまさらいうまでもないかもしれません。ここには、これまでの法曹人口問題に対する法曹界のスタンスへの批判的視点があります。つまり、社会の需要に対して、法曹界側、とりわけ弁護士界が自らの都合によって数を制限してきたという、いわゆる供給制限批判です。この問題で突き付けられてきた「市場」という言葉は、多くの場合、弁護士界側にそうした考え方があることを前提に、その変革を迫るという意味をはらんでいました。
これに当時の多くの弁護士たちはどう反応したのか。表現は微妙なものになりますが、一言でいえば「受けとめた」。真正面からこの批判を跳ね返そうとする人もいましたし、そもそも「市場」に委ねるべきことではないとする反論もありましたが、そうでなくても「自分たちも市場を無視してきたとは思わない」という意識は多くの弁護士の中にありました。
いろいろな分野から出される弁護士が足りない、あるいは足りなくなるという声に対して、地方の弁護士や町弁の多くが、その業務実感から極端に数が足りないと感じていたかは疑問ですし、問題になっていた、いわゆる偏在、弁護士都市集中にしても、「市場原理の結果」という意識もありました。
それでも、多くの弁護士がこれを「受け入れた」形になったのは、激増の必要性を裏付けるにはいかにも不安な「足りない」論を信じたということ以上に、前記「供給制限」というとらえ方、その社会的な目線に抗することができない、という諦めがあったようにみえました。よく当時耳にした言い方を借りれば、「これを言われたらば、言い訳がしにくい」。
あれから14年経ち、弁護士の激増政策が実現し、その「市場」はどう反応したのでしょうか。弁護士数は当時の1万8000人からほぼ倍増しながら事件数が増えない現在、「供給過剰」が言われています。「市場に委ねよ」というのであれば、どういう結論になるのかはもはや明確です。
しかし、先般の政府案(検討結果取りまとめ案)がいう最低合格数ライン「1500人」になっても増員基調は続きます(「司法試験合格『1500人』政府案から見えるもの」)。設立1周年を迎えた「これからの司法と法曹のあり方を考える弁護士の会」が5月30日に開いた総会・シンポジウムでは、同案の問題が取り上げられましたが、会場からはこの案は制度推進派・擁護派の「敗北宣言」だする見方も示されました。法的需要はあり、増員は相当と言い切り、一方で1500人を下回ることへの強い危機感だけが強く前面に出た格好の同案の苦しさは、もはや彼らが追い詰められている証という見方です。
志望者が減り、合格者もずるずる減るその危機感を生み出す原因に、潜在的需要の有無や供給過剰の現実があることを認めようとしない姿勢。逆にいえば、そこを直視したならば、「改革」も制度ももたないとする彼らの姿――。単に弁護士がかかわり得るものを、まるで社会が弁護士激増を必要としているほど求めている「高い需要」とカウントする先般の法曹養成制度改革推進室「法曹人口調査報告書」もそうですが、もはや現実を直視するつもりがあるのかを疑いたくなる内容です。
むしろ、直視すべき「市場」を無視して、需要は「ある」「ある」と言い続けなければもたないのが、実はこの「改革」路線の現実ではないかということになります。
ただ、志望者の法曹界離れは、彼らの思惑を超えて進行しているというべきかもしれません。前記シンポ会場での発言もありましたが、白浜徹朗弁護士が自身のブログで、その激変ぶりをまとめています。
法科大学院の潜在的な志願者を示す数値である法科大学院適性試験の出願者数は、2003度大学入試センター3万9250人、日弁連法務研究財団が2万43人が、2010年度には大学入試センターが8650人、日弁連法務研究財団が7820人、2011年度からは、法務研究財団だけの実施で7829人、2014年度は4407人に。法科大学院入学者数は2004年度が5767人で、2006年度の5784人をピークに一貫して減少し、今年度2201人。競争倍率もついに2倍を切って1.87倍――。
もはや選抜試験かどうかも疑問である2倍を切っている現実には、前記シンポからも質の確保への不安の声が出されました。そのなかでの司法試験合格1500人には、もはや司法試験まで「全入時代」がささやかれはじめています。
「私は、司法試験の合格者数が社会的需要に比較して多すぎて問題が生じているということを訴えて変革を求めてきたわけですが、変革よりも先に若者から見放されることによって、制度そのものが変化せざるを得ない事態になりつつあるのではないかと思えてきました。もはや一刻の猶予もないと言わざるを得ないと思います」
白浜弁護士はブログエントリーをこう締めくくっています。この世界を見放した若者たちの目に映った現実が、まさに社会的需要に比べて供給過多がもたらした弁護士の今であったとすれば、これもまた、いまや推進派自身が直視しようとしない「市場」の現実につながっているように思えてきます。
あなたは少年事件被疑者の実名報道は許されるべきだとお考えですか。少年法に対するご意見とあわせてお聞かせ下さい。司法ウオッチ「ニュースご意見板」http://shihouwatch.com/archives/6558
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何に対する忠告なのかは、いまさらいうまでもないかもしれません。ここには、これまでの法曹人口問題に対する法曹界のスタンスへの批判的視点があります。つまり、社会の需要に対して、法曹界側、とりわけ弁護士界が自らの都合によって数を制限してきたという、いわゆる供給制限批判です。この問題で突き付けられてきた「市場」という言葉は、多くの場合、弁護士界側にそうした考え方があることを前提に、その変革を迫るという意味をはらんでいました。
これに当時の多くの弁護士たちはどう反応したのか。表現は微妙なものになりますが、一言でいえば「受けとめた」。真正面からこの批判を跳ね返そうとする人もいましたし、そもそも「市場」に委ねるべきことではないとする反論もありましたが、そうでなくても「自分たちも市場を無視してきたとは思わない」という意識は多くの弁護士の中にありました。
いろいろな分野から出される弁護士が足りない、あるいは足りなくなるという声に対して、地方の弁護士や町弁の多くが、その業務実感から極端に数が足りないと感じていたかは疑問ですし、問題になっていた、いわゆる偏在、弁護士都市集中にしても、「市場原理の結果」という意識もありました。
それでも、多くの弁護士がこれを「受け入れた」形になったのは、激増の必要性を裏付けるにはいかにも不安な「足りない」論を信じたということ以上に、前記「供給制限」というとらえ方、その社会的な目線に抗することができない、という諦めがあったようにみえました。よく当時耳にした言い方を借りれば、「これを言われたらば、言い訳がしにくい」。
あれから14年経ち、弁護士の激増政策が実現し、その「市場」はどう反応したのでしょうか。弁護士数は当時の1万8000人からほぼ倍増しながら事件数が増えない現在、「供給過剰」が言われています。「市場に委ねよ」というのであれば、どういう結論になるのかはもはや明確です。
しかし、先般の政府案(検討結果取りまとめ案)がいう最低合格数ライン「1500人」になっても増員基調は続きます(「司法試験合格『1500人』政府案から見えるもの」)。設立1周年を迎えた「これからの司法と法曹のあり方を考える弁護士の会」が5月30日に開いた総会・シンポジウムでは、同案の問題が取り上げられましたが、会場からはこの案は制度推進派・擁護派の「敗北宣言」だする見方も示されました。法的需要はあり、増員は相当と言い切り、一方で1500人を下回ることへの強い危機感だけが強く前面に出た格好の同案の苦しさは、もはや彼らが追い詰められている証という見方です。
志望者が減り、合格者もずるずる減るその危機感を生み出す原因に、潜在的需要の有無や供給過剰の現実があることを認めようとしない姿勢。逆にいえば、そこを直視したならば、「改革」も制度ももたないとする彼らの姿――。単に弁護士がかかわり得るものを、まるで社会が弁護士激増を必要としているほど求めている「高い需要」とカウントする先般の法曹養成制度改革推進室「法曹人口調査報告書」もそうですが、もはや現実を直視するつもりがあるのかを疑いたくなる内容です。
むしろ、直視すべき「市場」を無視して、需要は「ある」「ある」と言い続けなければもたないのが、実はこの「改革」路線の現実ではないかということになります。
ただ、志望者の法曹界離れは、彼らの思惑を超えて進行しているというべきかもしれません。前記シンポ会場での発言もありましたが、白浜徹朗弁護士が自身のブログで、その激変ぶりをまとめています。
法科大学院の潜在的な志願者を示す数値である法科大学院適性試験の出願者数は、2003度大学入試センター3万9250人、日弁連法務研究財団が2万43人が、2010年度には大学入試センターが8650人、日弁連法務研究財団が7820人、2011年度からは、法務研究財団だけの実施で7829人、2014年度は4407人に。法科大学院入学者数は2004年度が5767人で、2006年度の5784人をピークに一貫して減少し、今年度2201人。競争倍率もついに2倍を切って1.87倍――。
もはや選抜試験かどうかも疑問である2倍を切っている現実には、前記シンポからも質の確保への不安の声が出されました。そのなかでの司法試験合格1500人には、もはや司法試験まで「全入時代」がささやかれはじめています。
「私は、司法試験の合格者数が社会的需要に比較して多すぎて問題が生じているということを訴えて変革を求めてきたわけですが、変革よりも先に若者から見放されることによって、制度そのものが変化せざるを得ない事態になりつつあるのではないかと思えてきました。もはや一刻の猶予もないと言わざるを得ないと思います」
白浜弁護士はブログエントリーをこう締めくくっています。この世界を見放した若者たちの目に映った現実が、まさに社会的需要に比べて供給過多がもたらした弁護士の今であったとすれば、これもまた、いまや推進派自身が直視しようとしない「市場」の現実につながっているように思えてきます。
あなたは少年事件被疑者の実名報道は許されるべきだとお考えですか。少年法に対するご意見とあわせてお聞かせ下さい。司法ウオッチ「ニュースご意見板」http://shihouwatch.com/archives/6558
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