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    弁護士未来シミュレーションの本当の「前提」

     弁護士増員政策をめぐる議論を見てきた人には、おなじみの弁護士人口の将来予測(シミュレーション)が、最新版の「弁護士白書2015年版」にも掲載されています。年司法試験合格者を何人として、それを今後、続いたと仮定した場合、死亡・引退者を差し引いて、日本の弁護士は何人になっていくのか、という予測です。

     その年の司法修習修了者の95%に当たる人が、ヤメ検・ヤメ判も含めて新規に弁護士登録し、43年で死亡・引退によって実働法曹ではなくなるという仮定で、今版にも新規法曹1500人が継続する「未来」が書かれています。それによると、現在約3万8000人近くいる弁護士は、さらに増え続け、32年後の2048年には6万3331人に。2053年からは減少に転じ、2060年に新規法曹と死亡・引退者が均衡し、5万7070人に落ち着く。ちなみに弁護士1人当たりの国民数も、減り続ける人口も換算して、同年には現在のほぼ半分の1520人となる――。

     ところで、かねがね思ってきたことですが、この弁護士人口シミュレーションは、ある意味、不思議な扱いをされる現実があります。いうなれば、「未来」とされながら、実は誰も未来と見ないみないシミュレーション。度々、この手のデータは引用されますが、多くの人は、この通りのシナリオが進むとは思っていません。

     仮定だから構わない、ということはもちろん言えますが、現存法曹は6万人に迫る弁護士が登場する日本に誰もリアリティを持っていない。まして、このままいけば、44年後に今より倍近く、弁護士が国民に身近になっている、なんて考えていないと思います。

     その理由を聞けば、多くの人はデータの大前提である1500人といった方針が、44年間も続くなどとは思っておらず、当然、状況に応じて変化すると思っています。既に、弁護士白書2014年版には掲載されていた合格2000人のシミュレーションは、今版では姿を消しています。

     むしろ、そう考えると合格者数が維持されるという前提に立つ、このシミュレーションには、そもそもどういう意味があるのかを考えてしまいます。このデータから、1500人政策が続く「未来」が大変なことになるとも、よりよい未来が待っているとも、仮定出来るか出来ないか、言えるか言えないかでなく、いう価値があるのかが問われてしまう。つまり、このデータを基にしても、今、この政策を続けることの当不当をいう材料には、ならないのではないか、という話です。逆に言えば、そういうデータは、使う側の意図で利用されかねないとみるべきではないか、という気がしてならないのです。

     以前も書いたように、弁護士一人当たりの国民数というデータも、同じことがいえます。今般の弁護士白書も、この点での比較データを掲載していますが、国によって制度も国民の選択する意図も違う資格を、この数値で比べてしまう、ある種の乱暴さ。いかにも正当、いかにも不当という、とても危い扱いにつながってきた、とみることはできないでしょうか(「不思議な『弁護士1人あたり』統計の扱い」)。

     ただ、最近の弁護士たちの本音は、少し違ってきていることを感じます。政策的な増員計画がこれからも変遷するだろう、という目線よりも、このままいけば、弁護士という資格が大きな変質もなく、44年が経過するなどということは、およそ想像できないという見方。しかも、そのなかには、資格の消滅も含めた、かなり悲観的な未来が描き込まれています。

     もちろん、未来の描き方は、人によってさまざまです。しかし、もし「改革」路線が、「このまま」という前提を仮定するならば、少なくとも前記シミュレーションから見える「未来」よりも、もっと別の悲観的な弁護士像を予測されている人は圧倒的に多いはずです。

     ある弁護士は端的にこの政策の未来には、個々の弁護士にとってのプラスの要素があまりに少なすぎると語りました。人口が減り続けるなか、弁護士は増え、その弁護士を支える需要をどこに見込めばいいのか。日弁連主導層が挙げるような、インハウスや、あるいは国際関連業務のニーズが、増員弁護士を支えるのか、そのキャパの問題もさることながら、その先に現在の町弁を含めた、それこそ「市民のため」に存在してきたはずの弁護士はどう変わらざるを得ないのか。独立自営モデルは終焉を迎え、法テラスのような、それこそ機関内弁護士が、その部分を支えていく未来を描けるのか。そして、なぜ、弁護士会主導層は、そこに危機感をもって踏み出さないのか――。

     その予想が立たない、あるいはその予想を共有できない現実こそが、前記シミュレーションをもってしても、意味のない「未来」しか見えない今の弁護士の状態のように思えるのです。

     このまま志望者は否応なく減り続ける、だから合格者数を政策的に今、議論する意味が果たしてあるのだろうか、という人もいました。確かに結果は現実が、「改革」の思惑を超えて出してきたし、出していく。しかし、これはそれこそ、「改革」の思惑を続ければ、という仮定に立ったシミュレーションといわなければなりません。そういう視点を共有できた時、初めて今、まず、何を議論し、何を変えなければならないかというテーマに、本当の意味で一歩踏み出すことができるような気がしてなりません。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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