「左傾」とされた日弁連の本当の危機
産経新聞が、予告していた通り、日弁連の「政治偏向」に焦点を当てた連載企画「戦後72年 弁護士会」の第2部を5月18日から5回にわたり掲載しました(「日弁連『偏向』批判記事が伝えた、もうひとつの現実」)。「左傾のメカニズム」と題し、2016年会長選、対外的意見表明のシステム、国家秘密法反対運動への司法判断、資金と会費、日本弁護士政治連盟を取り上げて、日弁連が「左傾化」しているとして、これでもかと危機感を煽っています。
率直に言ってしまえば、「左」という文字を見ただけで目くじらを立てる人たちや、あるいは同紙の読者にはウケがいいのかもしれませんが、果たしてこうした取り上げ方で、今、日弁連は問題視されるべきなのか、という印象を持ってしまいました。基本的な関心度も含めて、ここまでがなり立てなければならないこととして受けとめられるのかもさることながら、本来、日弁連に対して、国民が心配しなければならない方向が逆のように感じてしまったのです。
強制加入団体と会員の思想・信条の自由という問題の切り口はありますし、結論はともかく、日弁連の会員自身がその点にこだわるのは、理解できます。シリーズ第1部から、この産経の企画でも、ちょこちょこそこにつながる会員の声を抜き、その点に言及しています。しかし、この企画の狙いは、明らかにそこにとどまりません。産経は、日弁連に「左傾体質」があるとして、どうしても問題化したい、弁護士でありながら政治闘争をしていてけしからん、と言いたいのです。
ただ、実はこの産経の企画自らが、日弁連の現状を別の視点でとらえるヒントに言及しています。それは5月21日付け第2部3回目で引用されている小林正啓弁護士の次の分析です。
「日弁連の反安保など政治闘争路線に反発を覚える弁護士は若手になるほど多いとされる。それは、イデオロギーというよりも、『高い会費を無駄に使うな』という経済の問題だという」
「小林は『これからの日弁連はかつてのような左右ではなく、上下に分裂していく』と予言する」(原文敬称略)
これは以前、当ブログでも取り上げた、同弁護士の日弁連の現状を端的に言い表した的確な分析です(「弁護士会意思表明がはらむ『危機』」)。ただ、産経の書き方では、それこそ日弁連の活動をけしからん「左傾化」「政治闘争路線」という前提で書いているので伝わりにくいのですが、そもそも前記当ブログエントリー(「日弁連『偏向』批判記事が伝えた、もうひとつの現実」)でも書いたように、これを「政治活動である」とか「特定の政治勢力の主張と被る」といった批判を受けても、人権擁護を使命とする専門家集団として、その存在意義をかけて譲れない活動とみた場合、どういうことになるでしょうか。
日弁連のそうした対外的な活動が、必ずしも積極的な支持ではなく、黙認を含めた会員の姿勢で成り立ってきた現実があることを考えれば、結果として、今、何が失われようとしているのかは明らかです。国家秘密法反対運動に関しての司法判断(1992年東京地・高裁)が、会員個人の思想・信条と切り離すという考え方で、日弁連という組織でしか弁護士法の使命が達成できないことがあるという結論を導いた背景には、裁判所もこうした日弁連の現実を読み取っている、とみることもできるのです。
黙認といえば、結局、会員がこだわらない環境が日弁連の活動を成り立たせてきたということになってしまいますが、産経の前提に立たなければ、「改革」による弁護士の経済的な環境の激変、これまでには感じないで済んできた会費負担感の上昇によって、結果的に何が行われなくなってしまうのか、という視点で、私たちはとらえられるはずなのです。
そう考えると、私たちが、今、日弁連について、懸念すべきなのは、「左傾化」よりも、むしろ「右傾化」の方ではないか、と思えます。しかも、政治、社会が「右傾化」しているようにとれる今、その中で専門家集団として筋を通す組織が消えるという危機感の方が、産経の「左傾化けしからん」の切り口より、ある意味、説得力を持つのではないでしょうか(「『NO』と言える弁護士会」)。権力にも、時に多数派市民にも忖度することなく、日弁連にはきっちりいうべきことを言ってもらわねばなりません。そうでなければ、それこそ何のための弁護士自治か分からない、というべきです。
弁護士自治・強制加入不要論も含めた、日弁連の組織と活動をこれまで支えてきたものを失わせる方向の、前記したような会員意識の変化は、日弁連・弁護士会の弱体化という、「改革」の真の目的をうかがわせるものといえます。日弁連主導層は、これまで何が日弁連がその存在意義をかけて譲れないはずの活動を支えてきたのか、そして「改革」の影響を直視し、それを維持するために、まず、今、何をすべきなのかに、危機意識を持って向き合うべきです。
弁護士自治と弁護士会の強制加入制度の必要性についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4794
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率直に言ってしまえば、「左」という文字を見ただけで目くじらを立てる人たちや、あるいは同紙の読者にはウケがいいのかもしれませんが、果たしてこうした取り上げ方で、今、日弁連は問題視されるべきなのか、という印象を持ってしまいました。基本的な関心度も含めて、ここまでがなり立てなければならないこととして受けとめられるのかもさることながら、本来、日弁連に対して、国民が心配しなければならない方向が逆のように感じてしまったのです。
強制加入団体と会員の思想・信条の自由という問題の切り口はありますし、結論はともかく、日弁連の会員自身がその点にこだわるのは、理解できます。シリーズ第1部から、この産経の企画でも、ちょこちょこそこにつながる会員の声を抜き、その点に言及しています。しかし、この企画の狙いは、明らかにそこにとどまりません。産経は、日弁連に「左傾体質」があるとして、どうしても問題化したい、弁護士でありながら政治闘争をしていてけしからん、と言いたいのです。
ただ、実はこの産経の企画自らが、日弁連の現状を別の視点でとらえるヒントに言及しています。それは5月21日付け第2部3回目で引用されている小林正啓弁護士の次の分析です。
「日弁連の反安保など政治闘争路線に反発を覚える弁護士は若手になるほど多いとされる。それは、イデオロギーというよりも、『高い会費を無駄に使うな』という経済の問題だという」
「小林は『これからの日弁連はかつてのような左右ではなく、上下に分裂していく』と予言する」(原文敬称略)
これは以前、当ブログでも取り上げた、同弁護士の日弁連の現状を端的に言い表した的確な分析です(「弁護士会意思表明がはらむ『危機』」)。ただ、産経の書き方では、それこそ日弁連の活動をけしからん「左傾化」「政治闘争路線」という前提で書いているので伝わりにくいのですが、そもそも前記当ブログエントリー(「日弁連『偏向』批判記事が伝えた、もうひとつの現実」)でも書いたように、これを「政治活動である」とか「特定の政治勢力の主張と被る」といった批判を受けても、人権擁護を使命とする専門家集団として、その存在意義をかけて譲れない活動とみた場合、どういうことになるでしょうか。
日弁連のそうした対外的な活動が、必ずしも積極的な支持ではなく、黙認を含めた会員の姿勢で成り立ってきた現実があることを考えれば、結果として、今、何が失われようとしているのかは明らかです。国家秘密法反対運動に関しての司法判断(1992年東京地・高裁)が、会員個人の思想・信条と切り離すという考え方で、日弁連という組織でしか弁護士法の使命が達成できないことがあるという結論を導いた背景には、裁判所もこうした日弁連の現実を読み取っている、とみることもできるのです。
黙認といえば、結局、会員がこだわらない環境が日弁連の活動を成り立たせてきたということになってしまいますが、産経の前提に立たなければ、「改革」による弁護士の経済的な環境の激変、これまでには感じないで済んできた会費負担感の上昇によって、結果的に何が行われなくなってしまうのか、という視点で、私たちはとらえられるはずなのです。
そう考えると、私たちが、今、日弁連について、懸念すべきなのは、「左傾化」よりも、むしろ「右傾化」の方ではないか、と思えます。しかも、政治、社会が「右傾化」しているようにとれる今、その中で専門家集団として筋を通す組織が消えるという危機感の方が、産経の「左傾化けしからん」の切り口より、ある意味、説得力を持つのではないでしょうか(「『NO』と言える弁護士会」)。権力にも、時に多数派市民にも忖度することなく、日弁連にはきっちりいうべきことを言ってもらわねばなりません。そうでなければ、それこそ何のための弁護士自治か分からない、というべきです。
弁護士自治・強制加入不要論も含めた、日弁連の組織と活動をこれまで支えてきたものを失わせる方向の、前記したような会員意識の変化は、日弁連・弁護士会の弱体化という、「改革」の真の目的をうかがわせるものといえます。日弁連主導層は、これまで何が日弁連がその存在意義をかけて譲れないはずの活動を支えてきたのか、そして「改革」の影響を直視し、それを維持するために、まず、今、何をすべきなのかに、危機意識を持って向き合うべきです。
弁護士自治と弁護士会の強制加入制度の必要性についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4794
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