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    「AI時代」脅威論と弁護士処遇への理解

     「食える弁護士」というタイトルの、2月27日付けの「週刊エコノミスト」の特集に注目された業界関係者は多いようですが、これが「AI時代の」という前置きが付くと、現段階で共通の関心事とはならない業界の現実はあるようです。媒体の性格から仕方がないことであり、予想もつくことではあるものの、企業法務を扱う大事務所の視点で、テクノロジーの活用と彼らの業務の未来にスポットを当てている企画ですから、そもそも多くの町弁にとって、よそよそしいものになるのは、当然の話といわなければなりません。

     AI時代に仕事が奪われるという切り口は、いまやトレンドといってメディアの取り上げた方になっており、やや煽り気味との声もありますが、現段階においては、楽観視している弁護士が多いといっていいと思います。その共通の認識として聞こえてくるのは、AI化の限界についていうものです。

     つまり弁護士業のテリトリーで、(少なくとも直ちに)AI化が可能、あるいはその活用が考えられるのは、過払いのような定型型業務と法令・判例などのデータ集積にかかわるものに限定される(はず)という見方です。それ以外の多くの業務では、複雑な事実関係、情報の集積だけで一定のロジックを見出せない(だろう)法的な判断を伴うところには、当面、AIが弁護士の仕事を奪うことにはならないということです。

     仮に法的な判断にAIがかかわるとしても、単純な、あるいは確定的な事実関係に機械的にあてはめられるもの、標準化を前提とする損害額算定まで。可能性のある領域についても、むしろAIの結論をチェックする監視者として、人間弁護士の役割を指摘する声もあります。

     もちろん、これを楽観論とする見方があっても不思議ではありません。いうまでもなく、そもそもこうした話の前提が、AI化の本当の進展をどこまで予想できているか分かっていないからです。弁護士の仕事が奪われるという脅威論で見れば、「改革」の弁護士増員で、楽観論、安定資格神話が、ものの見事に崩れたばかりなので、油断できないという見方に傾くことはありそうですが、むしろ煽り気味な取り上げ方の背景にも、前記「食える弁護士」という切り口にも、どうしても「生存」というテーマと切り離せなくなった弁護士イメージが存在しているようにみえます。

     この流れのなかで、一つ気になることは、弁護士の経済的な処遇への社会的理解にかかわる部分です。つまり前記した認識をみると、弁護士が弁護士として最後までその存在価値を主張するのは、定型化が出来きない個別的な案件ごとに適切な判断を加える「オーダーメイド」的な作業です。そして、この業務の性格こそ、実は弁護士側が報酬理解の基本として据えてきた主張なのです。弁護士報酬が「高い」という批判があれば、真っ先に繰り出されるのはこの点です。

     ところが、一方で、いまだ弁護士処遇の妥当性というテーマで、最も社会的な理解が進んでいないのもこの点ではないか、と思います。そして、弁護士を「身近に」という話だった「改革」のなかで、この理解は進んでいない。定型型処理が可能な「過払い」案件が注目され、その分野で露出する弁護士も多かったこと、さらに「改革」路線の競争・淘汰そのものが良質化、低額化をイメージさせたように、前記「オーダーメイド」からみた弁護士業務の限界や、報酬の妥当性を飛び越え、高い報酬をとらなくてもやれるはず的な理解の方が、むしろ進んだ観があります。

     弁護士のこれまでの心得え違いを改め、努力さえすれば、弁護士の報酬は低額化できる。それを促すための競争であり、増員だという理解が、弁護士業務の処遇の妥当性というテーマを後方に押しやったというべきです。そして、そのなかで登場しつつあるAI時代の弁護士不要の「煽り」は、前記限定活用の可能性論(もちろん将来的には未知数ですが)を超えて、「オーダーメイド」を含めた弁護士業の本質理解から社会の目を遠ざけかねないように思うのです。

     前記「エコノミスト」の取り上げ方を見ても、まるで「AI時代」にも「食える弁護士」になるのは努力次第、逆に努力さえすれば食えるのだ、という、「改革」推進論調のなかの、「弁護士増員時代」と全く同じような、身も蓋もないような描き方が見てとれます。

     かつて弁護士と「経済的合理性」という取り上げ方は、当然に報酬の妥当性をめぐる話でしたが、いまや弁護士になること、弁護士を続けることにかかわる話になっています。テクノロジーの進化以前に、多くの弁護士は現在の需要に脅威を感じているはずですが、AI時代の弁護士というテーマが取り上げられるときこそ、むしろその限界論、つまりAIにはできないということからもう一度、弁護士業の本質への理解を深める切り口を、弁護士側が積極的にアピールしていいと思います。

     しかし、「改革」論調に対して、そうであったように、どうも弁護士はそれを十分にできないまま、AI時代の本格的到来を前に、生きていける場を狭めていくのではないか、という暗い予感が過ってしまうのです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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