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    「谷間世代」救済と志望者処遇の視点

     給費制の廃止から、新たな給付制の導入までの6年間に、無給での司法修習を余儀なくされた、いわゆる「谷間世代」(新65期~70期、対象人員約1万1000人)への対応で、弁護士会内がずっとざわめいています。日弁連は5月の定期総会で、新たな給付制度について、最高裁判所、法務省等の関係諸機関と協力して支えるとともに、谷間世代について、経済的負担や不平等感によって法曹としての活動に支障が生ずることのないよう、引き続き国による是正措置と日弁連による可能な施策の実現に尽力することを盛り込んだ決議を採択しました。

     この谷間世代が生まれている状況そのものが、不平等であり、給費制廃止が失策であったということはもはや明らかで、多くの弁護士の共通認識にもなっているようにとれます。問題は決議の最後の部分、日弁連が「可能な施策」として、同世代の会員への会費の減額などの経済的支援を行うことの是非についてです。

     当ブログのコメント欄でもご紹介頂いていましたが、坂野真一弁護士が自身のフログで、日弁連の支援という方向への異論を分かりやすく述べています。日弁連が谷間世代への日弁連会費の減額を行う意向を有しているとの見方を提示し、既に毎月3500円を10年にわたって減額するという案が日弁連理事会で討議され、総額40億円を超える規模の支出が試算されている、との情報も紹介しながら、こう指摘しています。

     「司法修習を受けている間に、国庫から給付を受けられなかったいわゆる谷間世代の問題については、私は当初から、国の政策の誤りだったのだから、責任は国にある。したがって、対応を求めるのは国に対してであるべきであって、弁護士会が対応を行うことは理屈に合わず、間違いだと述べてきた」
     「間違いであるばかりか、給費制復活を目指して活動中の方々に対しても、『立法政策の問題ということもさることながら、弁護士会や日弁連が対応しているようですから、もういいでしょう』と反論する論拠を相手に与えかねず、悪影響を及ぼしているはずだ」
     「百歩譲って、悪影響がないとしても、会員間における差別的な扱いには間違いなくなるだろう。同じ施設を利用し、同じサービスを受けるにもかかわらず、支払う対価を一部免除される者とそうでない者に分かれるのである」

     基本的に、もっともなご意見だと思います。あくまで国の失策、国の責任というのが筋であり、確かに弁護士会の支援で片付けられる可能性もある。かつてよりも高額会費に敏感になっている会員意識からも、会員間差別ということにもなりそうです。余剰会費の使い道として許容してもいいのではという声もありますが、坂野弁護士も言う通り、それならばそれで会員に一旦も返還するのが筋ということになります。

     ただ、一点、悩ましいのは、給費制廃止という失策の根本がどこにあるのか、という点です。そもそもこの事態を生み出したのは、弁護士の激増政策とそれを支える法科大学院制度導入という、今回の「改革」そのものである、という見方もできるからです。確かに日弁連は給費制廃止には反対しました。しかし、廃止の根拠につながり、また、本来、志望者の経済的負担というのであれば、問題視すべき法科大学院制度を推進する側に回っています。つまり、日弁連は、この給費制廃止という失策にかかわる「改革」を推進してきた責任は免れない、という見方もできるのです。

     もっとも増員政策や法科大学院制度推進の責任を口にしない日弁連としては、自ら「反対」して勝ち切れなかった給費制の問題については、そもそも結果責任ということではなく、互助精神と現実的救済の先行という発想で、この事態に対応するという風にとれます。だから、むしろ国の責任を口にしつつも、坂野氏の言うような筋論を徹底し、「改革」批判にまで踏み込みたくない、もっと嫌な見方をすれば、同弁護士のいうような、「これでよし」論の根拠を相手に与えても、「改革」の本道に影響することはしたくない、という姿勢ととる余地もありそうです。ましてそれは結果としての会員間差別などということよりも、執行部にとっては重要なテーマなのではないか、と。

     これらを含めて、日弁連の対応をどう評価すべきかという話なのです。

     さて、もう一つ、この問題に関連しては、別の基本的な発想がずっと抜け落ちてるように見えます。日弁連は前記決議のなかで、新たな給付制度を支援し、さらに「安心して修習できる環境の整備」によって「多くの志ある者が法曹の道を志望すること」を目指すとしています。そもそも新たな給付制度を導入せざるを得なくなった事情には、深刻な志望者減があり、法科大学院制度を死守しつつ、志望者獲得を目指したいという「改革」側の意向があります。むしろ、同制度を守るためには、あれほど反対した給費制の、一部復活もやむを得ないという選択です。

     しかし、これは果たして現実を直視しているといえるのでしょうか。そもそも経済的な負担を志望者に課すという方向は、沢山の優秀な人材を獲得する方向ではない、ということが、つとに弁護士界外の人間から当然のように言われながら、どうも業界内、とりわけ「改革」推進派には通じない話になっていると感じてきました。
     
     つまり、「安心して修習できる」よう整備されるというのは、むしろ最低限の条件、まして給費制廃止、貸与制移行でいわれたような、「やってやれないことはない」的な話は、優秀な人材に積極的に訴えるものにならない。むしろ、経済的負担の除去というよりも、「厚遇」される、されている形でなければ、効果を期待できない、という話です。これは、弁護士資格そのものにも、言えたことです。あえていえば、さんざんいわれた「恵まれ過ぎ」「社会に通用しない」論ではなく、「恵まれている」環境だったからこそ、多くの志望者を獲得できていた、ということをそろそろ認めるべきではないでしょうか(「『給費制』復活と『通用しない』論」)。

     そして、「社会に通用しない」ということも、「改革」が「改革」のためにひねり出した言葉であり、いま起きている事態よりも「厚遇」を社会が問題視するなどという事実はなかったことも、もはや認める必要があるというべきです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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