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    「改革」が見通せていない弁護士の経済的魅力回復

     2月5日に埼玉弁護士会など全国13の弁護士会会長が発表した、司法試験合格者の更なる減員を求める共同声明には、要求の背景事情を説明する一文の中に、次のような表現が登場してきます。

     「法曹養成制度の改革は未だ途上にあり、法曹の職業としての魅力は回復せず、法曹志望者の回復にはほど遠い状況にある」

     この現状認識は、全く正しいと思いますが、一点、疑問が湧いてくるところがあります。肝心の「法曹の職業としての魅力」は、一体、この「改革」のどこで「回復」させる方向の話になっているのか、ということです。法曹養成制度改革が「未だ途上」という、文脈で読むとすれば、あたかも現在進められている同改革が、魅力「回復」を織り込んで進められているようにもとれますが、そもそもそういう事実はないように思えるからです。

     今、進められようとしている法科大学院を中心として法曹養成制度の改革は、「法曹5年一貫コース」や在学中司法試験受験の容認にしても、それは法曹資格取得までの時短化という負担軽減で、なんとか志望者を回復できないか、という試みです。今の法曹志望者減の動かし難い、根本原因である、法曹、とりわけ弁護士の経済的魅力回復に、何ら貢献するところは含まれていません。

     従って、この制度変更によって、一時的に志望者が集まる効果があっても、根本的な志望者回復、少なくともかつてのような状況に戻すものになるとの見方をする人は、業界内でも少ないはずです。多くの人は、おそらく弁護士(あるいは法曹有資格者)の、職業的しかも経済的な意味での魅力が回復しない以上、志望者数が本格的に戻ることはない。制度変更での効果には限界があると思っている。

     では、なぜこういうことに、なっているのでしょうか。まず、法科大学院擁護派のスタンスが挙げられます。彼らには、法曹、弁護士の経済的な魅力どころか、その生存自体、法科大学院制度を中心とした法曹養成制度の問題と切り離している発想が強い。つまり、有り体にいえば、そこは自分たちの問題ではなく、法曹界、とりわけ弁護士界でなんとかしろ、という話です。

     これは、一見して、彼らにとっても、やぶへびなもの、逆効果ととれるものです。言うまでもなく、法曹界そのものに魅力があり、そこを志望者が目指すことになれば、学生が安定的に確保され、制度も安定するはずだからです(「逆効果政策をやめられない『改革』」)。ところが、ここに「改革」路線のねじれがあります。あくまで法科大学院制度は、法曹の増員政策と一体で、そこに制度的安定と妙味が寄りかかっている。ところが、弁護士の経済的魅力は、その数の問題に直結していた。

     別の言い方をすれば、これが成り立つという「改革」に対する楽観論のうえに、この制度は作られたともいえます。しかし、増員政策はまずうまくいかなかった。

     仮に経済的魅力回復効果を期待して、弁護士会内から出ているような減員方向に「改革」を進めることは、制度の縮小化(経済的妙味の減退)、修了者合格率のさらなる低下、あるいは受験要件化を伴う制度本道化の断念につながる。つまり、制度維持の側からすれば、その先の経済的魅力の部分については、増員基調のまま、弁護士界側の方でなんとかしてもらう、ことに依然期待したい、というか期待せざるを得ない、ということです。

     もっとも、捉え方によっては、「期待」というよりも「無関心」、弁護士会内の経済的な事情や減員要求については、「知ったことか」に近い、捉え方もできますから、やはり「なんとかしろ」、丸投げというべきなのかもしれません(「弁護士『保身』批判が覆い隠す現実」)

     そうなると、問題は現実が分かっているはずの、弁護士(会)側の姿勢です。冒頭の13弁護士会会長の意見表明でも明らかですが、増員政策や新法曹養成制度について、弁護士(会)は一枚岩ではありません。なぜ、今、13弁護士会が日弁連の頭越しに、直接政府に司法試験合格者減員を求めているのか。そのことが現実を物語っています。弁護士会主導層、あるいは主流派といわれる方々は、前記期待に対し、弁護士の経済的魅力回復について、増員基調のなかでも、「なんとかする」「なんとかなる」という姿勢であり、そのうえで法科大学院制度も擁護する立場なのです。

     となれば、当然、このままの増員基調が続いても、「増員ペースが落ちれば」「ミスマッチが解消されれば」「組織内を含めて、これまでにない領域に弁護士が進めば」「まだまだある潜在需要が開拓されれば」「弁護士が業態に対する意識を変えれば」などといった仮定のもとに、かつてのように必ずや弁護士の経済的魅力は回復するはず、というシナリオにしがみつかなければならない。

     とにかく、増員基調の「改革」をやめ、前記共同声明が言うように、減員に舵を切らなければ、司法制度の存立の基礎を揺るがす、合格者数を無理に上乗せして確保を優先している場合ではない、ということを、今、全国弁護士会が一丸となっていえない現実。前記シナリオの仮定が、どこまで当てになるのか、少なくとも増員基調のなかで、現実的にどこまで志望者回復につながる経済的魅力回復につながるのか、そこにこだわれない弁護士会の現実があるのです。

     そう考えれば、現在の会員の経済的窮状も、増員政策が決定的にもたらす影響も分かっているはずの、弁護士会主導層が、まるで当初の「オールジャパン」体制にこだわっているかのように、なぜ今、「改革」路線に付き合っているのか。そういう疑問が会内から出るのも当然といわなければなりません。(「法科大学院制度に『肩入れ』する日弁連の見え方」)。

     とはいえ、このままいけば、ここまでがそうであったように、いずれ、あるいは遠からず、「改革」そのものが、冷厳に結論を出すはずです。もちろん、その時にも、推進者によって後付けのような、さまざまな評価や弁明がなされるかもしれませんが、やろうと思えば何ができたのか、これが「改革」にではなく、この国の司法と社会にとって、最良の選択であったのかは、どこまでも問われなければなりません。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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