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    魅力発信期待論が無視するもの

     日本組織内弁護士協会が今年2月に会員を対象に実施した企業内弁護士アンケートの結果が、同協会のホームページに掲載されています。そのなかで、現在の勤務先を選んだ理由を尋ねた設問への回答結果は、複数回答可で、以下のようになっています。

     ①「現場に近いところで仕事がしたかった」59.5%
     ②「ワークライフバランスを確保したかった」57.1%
     ③「収入を安定させたかった」32.8%
     ④「その会社で働きたかった」29.6%
     ⑤「その業界で働きたかった」27.8%
     ⑥「ほかに就職先がなかった」12.4%
     ⑦「提示された報酬が高額だった」8.0%
     ⑧「所属事務所から出向を命じられた」0.3%
     
     同協会が例年行っている調査ですが、これまでの結果を見ても、多少の順番の入れ替えがあっても、この設問への回答全体の傾向は大きく変わらず、とりわけ①②の回答の多さが例年目立っている印象です。ちなみに現在公開されている最も古い2013年の結果と比べると、増加しているのは①②⑥で、それぞれ①14.1ポイント、②6.3ポイント、⑥2.4ポイントの各増、他の減っている回答のうちでは⑤が11.0ポイント、④10.8ポイントの各減となっています。

     この結果でみると、①④⑤の理由は、組織内以外の弁護士の状況との関係性が比較的薄い理由ととることができ、同時にそういう選択理由が一定数存在していることを明らかにしているともいえます。別の言い方をすれば、組織内か、それとも従来型の事務所勤務、とりわけ町弁あるいは独立志向という選択のなかで、「改革」の影響で後者の状況が大きく変わったことや、さらには今後の改善如何にかかわらず、選択理由となる(なってきた)可能性が高いものということです。

     逆に、弁護士の供給過剰状態を含め、状況の改善によって、彼らの選択を組織内から外に振り戻す余地があるとすれば、より②③⑦に訴えるしかない、ということになります。もちろん、複数回答でもあり、この結果だけから、すべてを読み取ることはできず、個人にとって何か選択の決定的な要素になるのかも分かりません。

     しかし、やはり少なくとも組織か、それ以外か、という選択の岐路に立った、「改革」後の若手弁護士たちにとって、「ワークライフバランス」「収入の安定」あるいはその「多寡」が、選択の判断材料として重要な要素であることが示されています。

     なぜ、今このことを改めて取り上げたかといえば、弁護士の仕事の魅力をもっと訴えよ、として、そこにあるいは志望者の回復を期待しているように見える人々には、この若手弁護士たちの本音ともいえる、こだわりどころが本当に目に入っているのか、という気持ちになるからです。本来的な弁護士業務そのものの魅力を訴えても、その効果をどのようにとらえているのかということへの疑問ともいえます。

     しかも、それが今、弁護士会がこの増員基調の「改革」の中で、実績的に最も「受け皿」としての伸び代があり、そしてそのことから今後への期待をアピールしている、「組織内」という分野での、志望者の判断要素として、これほどはっきりとした事実があるにもかかわらず、です。

     そして、さらにいえば、こうした発想に立つ限り、「組織内」以外の弁護士志望を真剣に回復させるために、今、何にこだわらなければならないか、そしてそれはとりもなおさず、供給過剰を早急に何とかしなければならないのではないか、という発想も後方に押しやることに繋がっているようにとれるのです。

     有り体にいえば、一方で前記したような志望者の本音ともいえる選択理由が分かっている分野を、弁護士の将来的進出期待分野と位置付けながら、その一方で弁護士過剰状態の継続と、それが生み出している経済的魅力の低下をそのままに、その余の魅力発信で、志望者を引き付けたい、なんとかしたい、という発想の、矛盾ともいうべき状況です(「弁護士の『魅力』をめぐる要求が示すもの」 「『自由業』弁護士の終焉」)。

     もっとも「努力次第でなんとかなるはず」と聞こえる、当たり前の、もはや何も言っていないのと同じように語られる弁護士の将来的可能性については、会内でもまともにとらえていない人が少なくありませんし、中には「もはや町弁は見捨てられている」という声もあります(「『町弁』衰退がいわれる『改革』の正体」)。嫌味な言い方になるかもしれませんが、それが「改革」あるいはその主導層の、本音であるというのであれば、もはや矛盾とはいえないのかもしれません。そして、それもきちっと見抜いている志望者の現実が、冒頭のアンケート結果に反映しているともいえなくありません。

     しかし、そうなると問題は、志望者回復のための、弁護士の魅力発信の効果もさることながら、最も市民の身近であるはずの町弁が見捨てられていることを含めて、やはり「市民のため」であるはずの「改革」の「価値」へのこだわりそのものを問わなければならなくなります。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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