見えてきた「更なる減員」検証と課題
先日の日弁連会長選(「5氏出馬の日弁連会長選から見えたもの」)で落選した、千葉県弁護士会の及川智志氏が代表を務める「ともに日弁連を変えよう!市民のための司法をつくる会」が、3月11日の再投票に臨む仙台弁護士会の荒中氏と第二東京弁護士会の山岸良太氏に提出した法曹人口政策と、いわゆる谷間世代についての不公正是正についての公開質問状への両氏からの回答が公開されています。
このうち法曹人口政策についての質問は二点で、一つは、再投票に当たり、選挙公約で司法試験年間合格者数「1000人」という数字に言及するか、する場合の具体的な内容としない場合の理由。もう一つはこの問題での公約実現のために、各単位弁護士会から推薦してきた委員を選任する新組織を設置する意向があるか、ある場合、具体的にどのような新組織を想定しているか、ない場合の理由を質したものでした。
この手の候補者に対する質問では、明確に大きな政策の違いがある場合はともかく、そうでない場合、細かなレトリックから違いを引き出すことにもなりがちです。しかし一方で、選挙期間中のレトリックは、のちのちいかようにも言い逃れられるように出来ている傾向もあります。その意味では、細かな違いを額面通り、受け取って解釈しても、実際にどの程度の違いとなるか、分からない現実もあるといわなければなりません。
とはいえ、前記テーマへの両者の回答の違いを挙げれば、前者の設問で荒氏は「1000人」に言及しないものの、単位会の1000人決議等を考慮し、「更なる減員」を検証し、遅くとも任期中に結論を出すとしたのに対し、山岸氏は「1000人」に明確に言及し、「更なる減員」の検証を進め、大幅な減員を要する場合、必要な期間をとって段階的に行うべき、という考えを示しています。
後者については、ともに各単位会から推薦される組織で会内の意見を聞いて検証するとしていますが、前記危惧をひとまず無視して文言にこだわれば、山岸氏は「新組織」としていますが、荒氏は明言していません。検証経過は同氏が理事会で説明、会員に可能な限り公表する意向を示したのに対し、山岸氏は透明化し会員に分かりやすく開示するとし、ここで荒氏同様「更なる減員」への結論を任期中に出す、としています。
前記したように、この表現違いだけから、いわゆる「主流派」同士の戦いとなった再投票で「更なる減員」への積極性の微妙な違いを読み取るとろうとするのは逆に危険なように思えます。ただ、むしろ「改革」路線を推進してきた会内「主流派」の、この問題に対する、一応の現在地を読み取ることはできます。
司法試験合格者1500人について、荒氏は「既に実現」、山岸氏は「ほぼ達成」と表現し、ともに「更なる減員」の検証を挙げています。現実には以前か書いたように「1500人」というラインは目標数値というより、同路線にとっての「最低死守ライン」とされたもの。そして、「実現」「達成」というよりは、むしろ「改革」全体の失敗によって、ずるずるとそのラインまで下降してきたというのが現実であり、何か積極的な政策に誘導されたものではないという現実は確認しておく必要があります。
とはいえこの時点で、「主流派」2候補がともに「更なる減員」の検証の必要性を確認し、少なくとも一人は「1000人」という数字を明確に打ち出したということです。
しかし、問題はむしろ会内ムードにあるようにみえます。「検証」や「段階的」な達成という表現からとれる、ある種の不透明感のある彼らの公約にあって、この方向に向けて強く背中を押すようなムードが、「反主流派」苦戦の今回の会長選挙を見ても、どこまで今の弁護士会にあるのか、という問題です。
法曹人口問題から離れる会員意識のなかには、今、二つの受けとめ方が読みとれます。一つは「自然解決論」といってもいいもの。まさに前記「1500人」死守ライン到達がそうであったように、数の問題は弁護士会がを方針として、どうこう言う前に、自然と結論が出る、つまりは適正規模に落ち着くところに落ち着くという考え方になります。
当初、積極的な意味で、法曹の数を「市場原理」に委ねるとした「改革」路線の発想からすれば、逆の結論が出ればそれに従うのも当然の話になります。そもそもより食えないところ、経済的な妙味のないところに人は来ないということからすれば、そのこと自体は、一面、それは正しいといえるかもしれません。
ただ、これをいう彼らは弁護士増員が続く中で、その着地点に向かうことの問題性に目をつぶっています、その間、大量の弁護士を合格させることによって、現実がそうであったように、資格の経済的価値を棄損し続け、かつ、かつての優秀な人材が目指すところでも、多くの人材から選抜されるとこめろでもない形で、その着地点がみえたとして、それが果たしてこの世界にとっていいことなのかどうか。有り体にいえば、かつてのように大量の志望者が目指す世界であって、そこで選抜された1000人と、志望者が背減り、ずるずると下降して到達した1000人の意味の違いです。このままでいくと、どちらになるのかは明白です。
もう一つの受けとめ方は、法曹人口問題を今、起こっていることの原因としてとらえないものです。弁護士の質、経済的困窮、志望者離れという問題に危機感を持ちながら、なぜか原因と結果の関係でみない。かつてのような規模で行われていた教育のメリット、有償需要を考慮しない増員規模、そして志望者減の真の原因は無理な増員政策がもたらした資格価値の下落にあること。それらを考慮せず、その失敗を直視しなくとも、この増員基調のなかでも、さらには逆に国民の数が減るなかでも、それらは克服できる。法曹人口の数の問題は切り離せるという考え方になります。
こうした捉え方は、日弁連・弁護士会の「改革」主導層の方向には親和的、というよりも甚だ都合がいいものになるといえます。とりもなおさず、増員基調のなかで、「改革」推進論の根本的な失敗を反省・直視せずとも、なんとかなっていく、という考え方になるからです。しかし、今後の業務拡大の可能性を唱え続けてさえいれば、いつの日にか、増員路線が正しかったことが証明されるはず、そういう時代が来るはず、と言っているに等しいものです。
この公開質問状には、今回の第1回目の選挙に出馬した5候補のうち、3候補が、司法試験年間合格者数「1000人」または「1000人以下」と主張し、これらの候補の獲得投票数は合計5120票で、投票総数のほぼ4分の1に達していることを指摘しています。最終決戦に際し、彼らにとってこの票を支える主張は無視できないものかもしれませんが、とはいえ投票総数の4分の1である、という現実もあります。
両氏の回答は、「主流派」のこの問題への認識が、「1000人」を含む「更なる減員」に近付いたことは読みとれるかもしれません。しかし、両氏とも回答で言及している「1000人」を決議している弁護士会声明のトーンとは、いまだ大きな開きがあるといわなければなりません。「更なる減員」が俎上に上る一方で、会内ムードが変化しているなか、増員政策の根本的な問題性が、改めて問われる必要がありそうです。
地方の弁護士の経済的ニーズの存在についてご意見をお聞かせ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4798
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このうち法曹人口政策についての質問は二点で、一つは、再投票に当たり、選挙公約で司法試験年間合格者数「1000人」という数字に言及するか、する場合の具体的な内容としない場合の理由。もう一つはこの問題での公約実現のために、各単位弁護士会から推薦してきた委員を選任する新組織を設置する意向があるか、ある場合、具体的にどのような新組織を想定しているか、ない場合の理由を質したものでした。
この手の候補者に対する質問では、明確に大きな政策の違いがある場合はともかく、そうでない場合、細かなレトリックから違いを引き出すことにもなりがちです。しかし一方で、選挙期間中のレトリックは、のちのちいかようにも言い逃れられるように出来ている傾向もあります。その意味では、細かな違いを額面通り、受け取って解釈しても、実際にどの程度の違いとなるか、分からない現実もあるといわなければなりません。
とはいえ、前記テーマへの両者の回答の違いを挙げれば、前者の設問で荒氏は「1000人」に言及しないものの、単位会の1000人決議等を考慮し、「更なる減員」を検証し、遅くとも任期中に結論を出すとしたのに対し、山岸氏は「1000人」に明確に言及し、「更なる減員」の検証を進め、大幅な減員を要する場合、必要な期間をとって段階的に行うべき、という考えを示しています。
後者については、ともに各単位会から推薦される組織で会内の意見を聞いて検証するとしていますが、前記危惧をひとまず無視して文言にこだわれば、山岸氏は「新組織」としていますが、荒氏は明言していません。検証経過は同氏が理事会で説明、会員に可能な限り公表する意向を示したのに対し、山岸氏は透明化し会員に分かりやすく開示するとし、ここで荒氏同様「更なる減員」への結論を任期中に出す、としています。
前記したように、この表現違いだけから、いわゆる「主流派」同士の戦いとなった再投票で「更なる減員」への積極性の微妙な違いを読み取るとろうとするのは逆に危険なように思えます。ただ、むしろ「改革」路線を推進してきた会内「主流派」の、この問題に対する、一応の現在地を読み取ることはできます。
司法試験合格者1500人について、荒氏は「既に実現」、山岸氏は「ほぼ達成」と表現し、ともに「更なる減員」の検証を挙げています。現実には以前か書いたように「1500人」というラインは目標数値というより、同路線にとっての「最低死守ライン」とされたもの。そして、「実現」「達成」というよりは、むしろ「改革」全体の失敗によって、ずるずるとそのラインまで下降してきたというのが現実であり、何か積極的な政策に誘導されたものではないという現実は確認しておく必要があります。
とはいえこの時点で、「主流派」2候補がともに「更なる減員」の検証の必要性を確認し、少なくとも一人は「1000人」という数字を明確に打ち出したということです。
しかし、問題はむしろ会内ムードにあるようにみえます。「検証」や「段階的」な達成という表現からとれる、ある種の不透明感のある彼らの公約にあって、この方向に向けて強く背中を押すようなムードが、「反主流派」苦戦の今回の会長選挙を見ても、どこまで今の弁護士会にあるのか、という問題です。
法曹人口問題から離れる会員意識のなかには、今、二つの受けとめ方が読みとれます。一つは「自然解決論」といってもいいもの。まさに前記「1500人」死守ライン到達がそうであったように、数の問題は弁護士会がを方針として、どうこう言う前に、自然と結論が出る、つまりは適正規模に落ち着くところに落ち着くという考え方になります。
当初、積極的な意味で、法曹の数を「市場原理」に委ねるとした「改革」路線の発想からすれば、逆の結論が出ればそれに従うのも当然の話になります。そもそもより食えないところ、経済的な妙味のないところに人は来ないということからすれば、そのこと自体は、一面、それは正しいといえるかもしれません。
ただ、これをいう彼らは弁護士増員が続く中で、その着地点に向かうことの問題性に目をつぶっています、その間、大量の弁護士を合格させることによって、現実がそうであったように、資格の経済的価値を棄損し続け、かつ、かつての優秀な人材が目指すところでも、多くの人材から選抜されるとこめろでもない形で、その着地点がみえたとして、それが果たしてこの世界にとっていいことなのかどうか。有り体にいえば、かつてのように大量の志望者が目指す世界であって、そこで選抜された1000人と、志望者が背減り、ずるずると下降して到達した1000人の意味の違いです。このままでいくと、どちらになるのかは明白です。
もう一つの受けとめ方は、法曹人口問題を今、起こっていることの原因としてとらえないものです。弁護士の質、経済的困窮、志望者離れという問題に危機感を持ちながら、なぜか原因と結果の関係でみない。かつてのような規模で行われていた教育のメリット、有償需要を考慮しない増員規模、そして志望者減の真の原因は無理な増員政策がもたらした資格価値の下落にあること。それらを考慮せず、その失敗を直視しなくとも、この増員基調のなかでも、さらには逆に国民の数が減るなかでも、それらは克服できる。法曹人口の数の問題は切り離せるという考え方になります。
こうした捉え方は、日弁連・弁護士会の「改革」主導層の方向には親和的、というよりも甚だ都合がいいものになるといえます。とりもなおさず、増員基調のなかで、「改革」推進論の根本的な失敗を反省・直視せずとも、なんとかなっていく、という考え方になるからです。しかし、今後の業務拡大の可能性を唱え続けてさえいれば、いつの日にか、増員路線が正しかったことが証明されるはず、そういう時代が来るはず、と言っているに等しいものです。
この公開質問状には、今回の第1回目の選挙に出馬した5候補のうち、3候補が、司法試験年間合格者数「1000人」または「1000人以下」と主張し、これらの候補の獲得投票数は合計5120票で、投票総数のほぼ4分の1に達していることを指摘しています。最終決戦に際し、彼らにとってこの票を支える主張は無視できないものかもしれませんが、とはいえ投票総数の4分の1である、という現実もあります。
両氏の回答は、「主流派」のこの問題への認識が、「1000人」を含む「更なる減員」に近付いたことは読みとれるかもしれません。しかし、両氏とも回答で言及している「1000人」を決議している弁護士会声明のトーンとは、いまだ大きな開きがあるといわなければなりません。「更なる減員」が俎上に上る一方で、会内ムードが変化しているなか、増員政策の根本的な問題性が、改めて問われる必要がありそうです。
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