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    「有志の精神」と「若手」頼みという課題

     一定の弁護士経験者が裁判官になる、いわゆる弁護士任官も、弁護士が赴任することで弁護士がいない地域をカバーする、いわゆる弁護士過疎対策も、基本的にそれを支えてきたのは、弁護士の有志の精神であり、そのことが一面、両政策のネックでもあるようにとれます。

     つまり、いずれも弁護士側の犠牲的ともいえる、負担を前提にしており、有志の精神頼みの現実があるということです。

     弁護士任官には判事について、弁護士在職10年以上(非常勤は5年以上、判事補は3年以上)という経験年数の条件があります。弁護士経験者から裁判官を採用する、弁護士会の悲願である、いわゆる法曹一元制度への「一里塚」のように会主導層がとらえた制度だけに、この経験ということには、当然、意味があります。

     しかし、当初からいわれたのは、この経験があればこそ、弁護士にとっては現実的なハードルが高いということです。いうまでもなく、ベテランになればなるほど、顧客との関係を含め、これまで築いてきたものを犠牲にしなければならないからです。もともと裁判官になりたい人が、法曹一元の意義を理解し、10年間その意志を維持して弁護士から任官するというのであれば別ですが、弁護士としての経験があるほど事務所の維持を含めて失うものが大きく、また、精神的にもつらいという話が聞えてきます。

     「名誉職」的な評価をする人もいる最高裁裁判官でさえ、就任が決まったベテラン弁護士は、事務所を整理するときの気持ちを「自分のお葬式をしているようだ」と語ったのを聞いたことがありますが、やはり築いてきたものを犠牲にして、新しい世界に入るのは当然、特別な覚悟がいるといわなければなりません。

     言ってみれば、一元的意義から任官を考えると、最も活かされるべき弁護士経験を持つ者ほどハードルが高くなる現実は、制度の構造的問題といってもいいように思えます(「弁護士任官の建て前と本音」)。

     一方、弁護士過疎対策にも、自分の開業地で築き上げたものを失うという意味では、同様のハードルの問題はあるはずですが、大きく違うのは、そのしわ寄せが結局、ある意味、露骨に若手にいっている観があることです。つまり、若手ほど失うものがないだろう、だからチャレンジせよ、という方向です。「改革」によって、経済的安定を得られない状況があるほどに、過疎対策の先兵に指名されている形になっているともいえます。

     地域にニーズが沢山ある、だから若手で経済的基盤がまだ作れていないのならば、失うものは少ないのだから、チャレンジすれば、という論法も耳にします。しかし、これに対して、そんなにニーズがあるというならば、それを声高にいうベテランがチャレンジしてもいいのではないか、という皮肉めいた反論も聞こえてきます。失うものというけれど、自分たちはしっかり経済的妙味で選択しているではないか、ということです。

     とかく年齢的なことと併せて、フットワーク云々も若手のメリットとしていわれますが、本来、ベテランが過疎地に赴任することにだって、地域にとって意味がないわけではないはずです。弁護士過疎が、そもそも弁護士の経営環境の問題であり、その現実の反映の、いわば必然が生み出しているということを考えれば、経済的合理性から対策の有無を考えるか、その合理性で割り切れない必要があるならば、経済的補てんがどこまでできるのか、のどちらかで考えるしかありません。それは、持続可能性ということを考えれば、そもそもが若手・ベテラン以前の問題のはずなのです。

     いわば、どちらにも割り切れず、「なんとかする」という考え方が、有志の精神頼みであり、若手への有言無言の圧力となっているともいえるのです。

     「まだまだ、地方に弁護士が足りないという印象を持っている」
     「地域で働く若い弁護士が増えることは望ましい」

     「ひまわり基金法律事務所」開設20周年記念のオンラインシンポジウムで発言した、「八重山ひまわり基金法律事務所」所長のこの言葉を伝えたネットニュースの記事(が、ネット界隈の弁護士間で話題となりました(弁護士ドットコムタイムズ Schulze BLOG)。同所長は、「今後の課題」として本音を語ったものだと思いますが、弁護士の反応をみれば、彼らの目に、これがやはり相変わらずの、前記した過疎問題への根本的対策の視点を欠いた、若手頼みの発想に映ったようにとれました。

     まず、有志の精神と若手頼みの限界と無理から、政策の構造的問題にメスを入れる発想が求められているように感じます。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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