「改革」の失敗からとらえない無理
政府の最低死守ラインとされた1500人を、遂に割ることになった、2020年の司法試験合格者数1450人という結果を受け、即日、発表された荒中・日弁連会長の談話には、次のような下りがあります。
「当連合会は、市民にとってより身近で利用しやすく頼りがいのある司法を実現するために、司法基盤の整備、司法アクセスの拡充、弁護士の活動領域の拡大などに積極的に取り組むとともに、社会の様々な要請に応えることができる質の高い法曹を輩出するべく、法曹養成制度の改革に主体的に取り組んできた」
内容は、日弁連内の「改革」主導層の括り方として、正直、特に目新しいものもなく、いわばおなじみの言葉が並んでいる印象の一文です。自賛的にもとれる自己評価も、この手の談話の、前口上としては、特に違和感なく、受け容れられてしまうかもしれません。
しかし、目を離してみると、前口上は、今回の司法試験合格数に至った事態を含めた「改革」の現状とは、どうも似つかわしくない、ちくはぐさのようなものを感じます。それは、どういうことかといえば、「改革」の実績を直視したとすれば、こうした自賛的な言葉で果たして収まるものだろうか、という疑問です。
「市民にとってより身近で利用しやすく頼りがいのある司法」にしても、「司法基盤の整備」にしても、あるいは「社会の様々な要請に応えることができる質の高い法曹」の輩出にしても、「改革」の実績は、とても楽観視できるようなものとは思えないからです。もし、日弁連が「主体的に取り組んできた」と自賛するのであれば、なおさらのこと、「改革」の現状をもっと憂いていていいように、どうしても思えてしまうのです。
会長談話にも表れていますが、日弁連主導層は合格者数1500人までの下降を、減員の「達成」ととらえようとしています。2016年の臨時総会決議で、日弁連は確かに、早期の合格者年1500人への減員を方針として掲げていますから、「達成」という言葉に繋がっているとはいえますが、これは日弁連の「主体的な」取り組みとは無関係なことに起因した、むしろ「改革」の失敗が反映した現象であることを多くの人は知っているはずです。
前年の2015年に「1500人」を政府が最低死守ラインとして位置付けたのは、法曹の量産計画の上に「改革」が築いた新法曹養成制度にあって、むしろ「輩出できない」ことへの危機感によるものです。そして、今回その死守ラインを持ちこたえられなかったということは(一部には1500人はなんとか維持するのではないかという観測も流れていましたが)、政策的な意図を以ってしても。さすがに1500人は生み出せない、という限界が示されたということに他なりません。
新司法試験が始まる直前の、2004年、2005年の旧司法試験の合格者数は、1483人、1464人で、受験者数は、それぞれ、4万3367人、3万9428人。今や受験者数は3703人で、かつ、その旧試の合格者数も輩出できないのが、新制度実績なのです。受験者数は10分の1以下になり、合格率が10倍以上に跳ね上がったが、輩出する数は伸びない。しかも、その結果は、「改革」の想定内の、いわば積極的な成果とカウントできる結果ではなく、「改革」の失敗が生み出した志望者減がもたらしたものです。
「改革」の深刻な失敗に触れることなく、この現象は語りようがありません。日弁連が、「質の高い法曹」の輩出に取り組んできたかどうかの評価以前に、相当憂えていい状況に思えるのです。旧試体制に比べた法曹の質に関する評価は難しく、ある種、印象的な評価が述べられれば、業界内からも、すかさず「そうとは限らない」という別の評価も下されます。ただ、旧試との比較において、少なくとも制度維持への政策的な意図が働いている現実から、相当不安視する意見が業界内にはあります(「弁護士坂野真一のブログ」)
合格1500人を下回る「改革」の「現象」を、増員ペースの緩和の「達成」と前向きにとらえている会長談話の論調には、そういった「改革」への危機感や不安感がどこにも感じられません。
「多くの有為な人材が法曹を志すことを期待し、関係機関・団体と連携し法曹の魅力を発信する取組を行うとともに、引き続き法曹の養成に力を注ぐ所存である」
会長談話はこう締めくくられています。言葉の揚げ足取りをするつもりはありませんが、「多くの有為な人材が法曹を志すことを期待」できる材料を、この文脈のどこに読みとればいいのだろうか、という気持ちになります。「多くの有為な人材が法曹を志すこと」を阻害しているかもしれない「改革」の実績に対する、厳しい評価からまず入るべきなのではないか、という気持ちにならざるを得ないのです。
「予備試験」のあり方をめぐる議論についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/5852
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「当連合会は、市民にとってより身近で利用しやすく頼りがいのある司法を実現するために、司法基盤の整備、司法アクセスの拡充、弁護士の活動領域の拡大などに積極的に取り組むとともに、社会の様々な要請に応えることができる質の高い法曹を輩出するべく、法曹養成制度の改革に主体的に取り組んできた」
内容は、日弁連内の「改革」主導層の括り方として、正直、特に目新しいものもなく、いわばおなじみの言葉が並んでいる印象の一文です。自賛的にもとれる自己評価も、この手の談話の、前口上としては、特に違和感なく、受け容れられてしまうかもしれません。
しかし、目を離してみると、前口上は、今回の司法試験合格数に至った事態を含めた「改革」の現状とは、どうも似つかわしくない、ちくはぐさのようなものを感じます。それは、どういうことかといえば、「改革」の実績を直視したとすれば、こうした自賛的な言葉で果たして収まるものだろうか、という疑問です。
「市民にとってより身近で利用しやすく頼りがいのある司法」にしても、「司法基盤の整備」にしても、あるいは「社会の様々な要請に応えることができる質の高い法曹」の輩出にしても、「改革」の実績は、とても楽観視できるようなものとは思えないからです。もし、日弁連が「主体的に取り組んできた」と自賛するのであれば、なおさらのこと、「改革」の現状をもっと憂いていていいように、どうしても思えてしまうのです。
会長談話にも表れていますが、日弁連主導層は合格者数1500人までの下降を、減員の「達成」ととらえようとしています。2016年の臨時総会決議で、日弁連は確かに、早期の合格者年1500人への減員を方針として掲げていますから、「達成」という言葉に繋がっているとはいえますが、これは日弁連の「主体的な」取り組みとは無関係なことに起因した、むしろ「改革」の失敗が反映した現象であることを多くの人は知っているはずです。
前年の2015年に「1500人」を政府が最低死守ラインとして位置付けたのは、法曹の量産計画の上に「改革」が築いた新法曹養成制度にあって、むしろ「輩出できない」ことへの危機感によるものです。そして、今回その死守ラインを持ちこたえられなかったということは(一部には1500人はなんとか維持するのではないかという観測も流れていましたが)、政策的な意図を以ってしても。さすがに1500人は生み出せない、という限界が示されたということに他なりません。
新司法試験が始まる直前の、2004年、2005年の旧司法試験の合格者数は、1483人、1464人で、受験者数は、それぞれ、4万3367人、3万9428人。今や受験者数は3703人で、かつ、その旧試の合格者数も輩出できないのが、新制度実績なのです。受験者数は10分の1以下になり、合格率が10倍以上に跳ね上がったが、輩出する数は伸びない。しかも、その結果は、「改革」の想定内の、いわば積極的な成果とカウントできる結果ではなく、「改革」の失敗が生み出した志望者減がもたらしたものです。
「改革」の深刻な失敗に触れることなく、この現象は語りようがありません。日弁連が、「質の高い法曹」の輩出に取り組んできたかどうかの評価以前に、相当憂えていい状況に思えるのです。旧試体制に比べた法曹の質に関する評価は難しく、ある種、印象的な評価が述べられれば、業界内からも、すかさず「そうとは限らない」という別の評価も下されます。ただ、旧試との比較において、少なくとも制度維持への政策的な意図が働いている現実から、相当不安視する意見が業界内にはあります(「弁護士坂野真一のブログ」)
合格1500人を下回る「改革」の「現象」を、増員ペースの緩和の「達成」と前向きにとらえている会長談話の論調には、そういった「改革」への危機感や不安感がどこにも感じられません。
「多くの有為な人材が法曹を志すことを期待し、関係機関・団体と連携し法曹の魅力を発信する取組を行うとともに、引き続き法曹の養成に力を注ぐ所存である」
会長談話はこう締めくくられています。言葉の揚げ足取りをするつもりはありませんが、「多くの有為な人材が法曹を志すことを期待」できる材料を、この文脈のどこに読みとればいいのだろうか、という気持ちになります。「多くの有為な人材が法曹を志すこと」を阻害しているかもしれない「改革」の実績に対する、厳しい評価からまず入るべきなのではないか、という気持ちにならざるを得ないのです。
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