fc2ブログ

    法テラスをめぐる「改革」のツケ

     以前にも書きましたが、法律扶助の運営主体が今の日本司法支援センター(法テラス)に移る以前、弁護士会が主体となって運営していた、いわゆる法律扶助協会の時代、それを担っていた弁護士たちには、ある種の自負心をみることがしばしばありました。

     本来国が担うべきコストを、自分たちが持ち出しで引き受けているという意識。「ボランティア」と言う人もいましたし、後年、あれは「プロボノ」であったと言う人もいますが、制度としても担い手としても財政的に厳しい現実を抱えながら、多くの関係者からは、制度を支えるモチベーション、あるいは情熱のようなものを感じました。文字通り、主体的であったということでしょう。

     法テラス(司法ネット・当時)構想については、国家が担うことへの懸念論が会内でさかんに議論される一方で、バトンを渡す側としての裏返しのような期待感や達成感のようなものさえ、関係者の中にはみてとれました(「コストの『担い手』観という根本問題」)。

     協会扶助時代には、民事法律扶助事業についての、国からの補助金は予算要望額の半分以下。財源不足で年度途中で援助申し込みの受け付け中止までありえた状態からは少なくとも脱出する。そこまで自分たちは、なんとかこの制度を支えたのだ、と。

     「扶助閥(族)」といわれた、当時扶助協会に深くかかわっていた弁護士と、それ以外の弁護士の意識は、もちろん同じでなかったことは確かですが、多かれ少なかれ、この制度にはそうした弁護士が支えてきたという意識が反映していたといえます。

     それだけに前記懸念論も、中心はその主体性の行方にかかわるものが強かった。新たなセンターが弁護士会にとって代わる、それが大きくなれば、自治を脅かし、果ては「第2日弁連」になる。さらに刑事弁護が法務省の下に置かれる結果となる、などの声が噴出したのです。

     ただ、こうした主体性にかかわる危機のなかで、価格設定権、あるいは具体的な弁護士の処遇に対する問題を、どこまで当時の弁護士が深刻に受け止めていたのかは疑問です。少なくとも一部の弁護士がボランティアで支えていた制度よりは、多くが関与できる妥当な処遇を期待する、根拠なき楽観的見方があったようにもとれました。

     先ごろ弁護士ドットコムタイムズが公表した、全国の弁護士を対象に、法テラスとの契約状況や不満点などを尋ねたアンケート(vol.1 vol.2 vol.3)の結果(回答523人)を見ると、弁護士の処遇という根本的な問題が積み残されたまま、弁護士の意識が制度から離れつつある現実が浮き彫りになっています。

     1年間の売上げに占める、法テラスを通じた受任事件報酬の割合は「25%未満」が民事扶助契約者の83.9%、全回答者の47%が法テラス以外の受任件数や売上げへの圧迫を感じ、報酬に不満は92.0%――。

     ある弁護士は、この結果に対し、結局、法律扶助に関して、制度はあくまで弁護士のボランティアを求めているのではないか、と指摘しました。しかも、扶助協会時代の方が現実的な処遇はいい、という見方も聞かれます。さらに、法律扶助時代の、むしろ「扶助はボランティアであっても当然」という感覚の現・弁護士会主導層が、この状態を改善する気に欠けているという批判の声も聞こえてきます。

     法テラスに対して、弁護士が「民業圧迫」と言い出たのは、発足後ずっとあとのことです。国民の「裁判を受ける権利」を実現し、誰でも利用しやすい司法を実現するという目的の前に、具体的に支える弁護士の処遇について徹底的にこだわらなかった、こだわることができなかったツケといわなければなりません。弁護士激増政策の失敗と同様の現実といえます。

     それだけではありません。こういう本音をツイートしている弁護士もいます。

     「ちなみに、自分が法テラスを辞めた理由は、報酬の低さではなく、弁護士に対する敬意が皆無であるから。担当者が無礼なこともあるし、制度としても弁護士に対する敬意が微塵も感じられない。安いのは我慢できる。けど、敬意も信用もない相手と一緒に仕事はできない」(中村剛〈take-five〉)。

     弁護士の場合、無償化ということの問題をめぐっても、安い、利用しやすいという環境が、顧客の意識に悪い形で影響することが、ずっと聞かれています。

     ただ、いずれにしても、制度が変わり、主体が移っても、弁護士にコストを被せることはむしろ前提化したまま、一方で制度を支える自負につながっていたような主体的な意識は、完全に砕かれつつある――。

     それでも前記回答の81.8%に当たる、法テラスの「民事法律扶助」に契約している弁護士のうち、最多の47.2%の人は、契約理由として「地域や社会への貢献のため」と回答しています。ボランティアとして納得できる人と、経済的に可能な人だけが参加すればいい制度である、というのであれば、話は終わるかもしれません。

     しかし、推進派大新聞が社説で、「改革」が実現させたと手放しに歓迎し、読者に伝える制度の、これがもう一つの現実であることは、やはり社会も確認しておく必要があるはずです。


    弁護士、司法書士からみた、法テラスの現状の問題点について、意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/6046

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信中!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事

       スポンサーリンク



    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR