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    法科大学院制度の「妄執」

     法科大学院制度の骨格が固まったころ、これに対し、ある大学関係者が強い不満と不安を示していました。「点が残っているのはどういうわけか」。司法試験という「点」による選抜から、法科大学院という「プロセス」による教育が謳われながら、司法試験は関門として残り、旧「プロセス」ともいうべき司法修習も残っているということです。

     その人物に言わせれば、法科大学院修了者に原則資格が付与されるような形にしなければ、「プロセス」への変革は不完全であるということでした。しかも、法科大学院修了の受験要件にも、「経済的理由」という条件で、「予備試験」という例外ルートも作っている。この不完全さは、この制度の成功の足を引っ張りかねない、という認識でした。

     外形的にみれば、この不安は的中したということになるかもしれませんし、今でもあくまでそう考える人は大学関係者だけでなく、弁護士の中にもいます。新司法試験の位置付けは、「プロセス」たる法科大学院教育の「効果測定」という建て前ながら、司法修習が残ったことで、実質的に司法修習生の採用試験という性格も残ることになったといえます。

     この不完全さがもたらした、制度の「失敗」原因に関して、ある弁護士がネット上でこんな指摘を展開していました。

     「考えてみれば、こうなるのは容易に予見できたことである。法科大学院は、統一修習に代わる法曹養成制度なのだから、法科大学院修了者に『司法修習生採用試験』を受験させること自体、制度矛盾である。法科大学院は『司法試験受験予備校』ではないのである。また、法科大学院修了を司法試験の受験要件としない道を残せば、法科大学院が回避されるのも当然である。そして、こうなったのは、偏に弁護士の『統一修習』への妄執が原因としか考えられない」(後藤富士子「弁護士国営『司法修習』の廃止について──『法科大学院』制度への責任」)

     法科大学院制度構想浮上当初から、そもそも最高裁が最も警戒していたのは、司法修習廃止論の台頭であり、その意味では「偏に弁護士の『統一修習』への妄執が原因」とまでいえるかは疑問です。ただ、司法修習の廃止については、弁護士会の中で意見が分かれ、第二東京弁護士会の法科大学院制度導入とセットにした司法修習廃止提言が議論になり、結局、主流にはならなかった経緯があります。

     この弁護士会内の廃止論には、法科大学院制度導入を契機とした法曹一元の実現という「野望」ともいうべきものを抜きに語ることはできせん。最高裁による司法官僚統制の道具と化している司法修習から、弁護士が主導的に関与する法科大学院に代わることで、法曹一元実現をぐっと引き寄せることができるという見方です。

     しかも、ここには司法修習での教育を法科大学院が代替するという発想を超えて、これまでの教育を「旧態依然の実務追随」などとし、法廷活動を中心とした弁護士像の転換を目指しているととれるものでした。当時の現役弁護士の中には、現行司法修習を評価する見方も根強く、これに対して、廃止派はしばしば「ノスタルジー」などと批判していましたが、司法修習廃止とともに、法曹養成のイニシアティブ奪取というのはやはり現実的とはされなかった。

     これらの当時の発想をみると、なにやら「実績」ない制度に、多くの法曹関係者が、それぞれの立場で、誰もが実現可能性に対する甘い見通しのもと、同床異夢のこどく、その先の法曹養成を夢見たようにとれてしまいます。司法修習という「実績」を脇に、実現を確信したような「プロセス」の描き方(修了者の「7、8割程度」の司法試験合格や、1年の違いで既習に追いつける未修コースなどの見積もり方を含め)にしても、法曹一元という別の政策目的とともに、弁護士主導によって実現できるという思い入れにしても(「『法科大学院』を目指した弁護士たち」 「『弁護士会系』法科大学院挫折の意味」)。

     司法修習の「実績」を脇にも置いた制度が、今、自らの「実績」を脇において存続に固執しているようにとれるのです。

     およそ「『統一修習』への妄執」だけが、司法修習制度を残して、法科大学院制度の足を引っ張ったとはいえない、現実があったといわなければならないのです。そして、法科大学院制度の「失敗」を、冒頭の「不完全さ」を理由にすることを含め、どうもこの世界には、当時の実績なき制度の発想の無理と無謀さを、未だに認めようとしない人が、沢山現存しているように見えます。むしろ、そちらの方に「妄執」という言葉を当てはめてみたくなるのです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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