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    弁護士「自由競争」のアンフェア

     以前に当ブログのコメント欄に、匿名でこんな書き込みがなされました。

     「世間の多くの人は、弁護士に対しては、『資本主義だ、自由競争だ、淘汰される弁護士が出るのは当然。弁護士が食えなくなろうと知ったことか』という態度を取る一方で、『資本主義、自由競争の結果、通常の金額の弁護士費用を準備できない人が弁護士に依頼できないのは当然。知ったことか』という態度は取りませんね」

     おそらく弁護士が書いたと思われる、この皮肉めいた一文は、まさに司法改革によってもたらされた、あるいはより直面せざるを得なくなった弁護士という仕事の、アンフェアな現実を端的に表していると思えます。「改革」の増員政策をめぐり、さかんに弁護士に突き付けられることになった「自由競争」の発想に立てば、当然にその利用者に対する後者の言い分が成り立ってよさそうなものではないか、という話です。

     ここにも出て来る弁護士の「淘汰」をめぐり、かつて「改革」推進論者と奇妙なやりとりをしたことがありました。「淘汰」の効果を強調する彼は、「自由競争」の敗者となる弁護士が、市場から「すごすごと退場する」と言い、増員反対・慎重論を、そのまさに「食えなくなる」弁護士への、いらぬ同情論のように批判していました。

     しかし、こちらが、なぜ弁護士が「すごすごと退場する」のかを何度尋ねても、彼は「自由競争」という言葉を振りかざすだけで、その理由を遂に答えられませんでした。前記投稿が暗示しているように、生き残りをかけた弁護士は、そのまさに「自由競争」の発想によって、「すごすごと退場」などしない。なぜ、こちらがそこにこだわったかといえば、その結果として、彼らが想定しているような「効果」がスムーズに転がり込むこともなければ、徹底的な非採算性部門からの撤退を含め、逆に彼らの想定外のデメリットが転がり見込むこともある、と思ったからです。

     前記投稿コメントがいう「自由競争」をめぐる矛盾への認識が、いかに推進論者の頭になかったか、ということ示しているといえます。彼らの中に、なにやら弁護士を追い詰める「自由競争」は存在しても、その同じステージに立った弁護士が当然に踏み出して来る「自由競争」の結果は存在しない。初めからアンフェアな、「改革」効果を強調するのに都合のいい見方がそこにあったようにしかとれないのです。

     ただ、弁護士にとっての問題は、ここに止まらないというべきです。現在に至るまで、「改革」推進者、とりわけこの弁護士の置かれた事情を熟知しているはずの弁護士会主導層に、このアンフェアな状況をなんとかする気配が全くみられないことです。有り体にいえば、前者の「自由競争」の現実を受け入れながら、その「公的な」使命から後段のようなセリフを吐けない弁護士の現実を理解しろ、というスタンスになります。

     法テラスの弁護士処遇と、それに対する日弁連・弁護士会の姿勢に対して、この構図を連想する弁護士は少なくないと思います。その現実は、弁護士の中に、既に法テラスからの撤退と日弁連・弁護士会への失望をもたらしています(福岡の家電弁護士のブログ「弁護士が経営上注意すべき弁護士の『自由競争』にまつわる2つの問題」)。

     選択できることは明確なはずです。「自由競争」を前提にする以上、前記矛盾は認められず、やはり弁護士は適正価格で業務を遂行する「自由」が担保されなければならない。しかし、冒頭の投稿の後段のような、それから落ちこぼれてしまう、経済的弱者まで、それこそ「なかとかしなければならない」のが、弁護士の使命であり、他のサービス業と同一化できないプロフェッションとしてのこの仕事の特殊性である、というのであれば、そこを弁護士への無理な努力に丸投げしないで、「自由競争」を阻害しないような適正な経済的基盤を作る道を考えなければなりません。

     そうしなければ、どんなに「使命」を掲げようとも、多くの弁護士は「知ったことか」というセリフを吐くかはともかく、「退場」しないために、普通のサービス業として「自由競争」のルールで仕事をするかもしれません。

     そして、もし、やはり弁護士の経済的な余裕(「経済的自立論」)のなかで、その公益的使命の達成に期待するしかない(前記経済的基盤の構築は現実的にできないが使命は達成しなければならない)というのであれば、もはやこの「改革」そのものを見直し、かつてのような弁護士の経済的環境の回復を図る道を探るしかありません。「自由競争」を掲げながらアンフェアに、その部分は弁護士の犠牲と無理に期待するということだけはできないし、それでは利用者の利も期待できないというべきです(「『採算度外視』の無理と価値」 「弁護士の採算性と公益性をめぐる無理と矛盾」

     やはり、「改革」の描いた、あるいは社会にイメージさせた弁護士と自由競争の関係は、とても雑な描き方だった、ようにとれます(「弁護士の『自由競争』と制約が意味するもの」)。そして、このアンフェアな無理が今日通用すると考えているとしかとれない方々の発想は、実はそこだけは、「改革」が破壊した、かつての弁護士の経済的余裕を前提にしているようにしかとれないのです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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