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    維持され続ける増員基調と弁護士会のスタンス 

     「適正な法曹人口」の量的な答えは、簡単に導き出せない――。弁護士界内に様々な意見が交錯する、このテーマにあって、おそらくこのことに関しては、ほぼ共通認識になっている、ようにみえます。それは、やや皮肉な言い方をすれば、この「改革」の失敗の現実が投影されているとみることができます。

     この「改革」の増員政策が、決定的にこの国の弁護士は「足りない」あるいは「足りなくなる」と断定する過程で登場した、さまざまな推論。今では感覚的数値であったとされる「二割司法」という言葉に示された司法機能不全論、数によって解消を目指さなければならないように描かれた司法過疎、「社会の隅々」で市民が待ち望んでいる、数さえ満たされれば市民がおカネを投入する用意があるように描かれた潜在需要、諸外国との比較での不足論などなど。

     これらの「改革」の増員政策を牽引した推論と、それによって導かれた司法試験合格者3000人という方針の実現の見込みが、完全に外れたことは、まさに、前記「簡単に」「適正な法曹人口」の量的な答えを導き出してしまった結果といわれても仕方がないことのはずです。

     これまでも書いてきたように、この失敗の根本原因としては、需要とされたものの有償性を含め、増員弁護士の成立要件になるはずの、経済的な側面に対する、決定的な見通しの甘さがあったこと。そこには、社会的使命感に引きずられるあまり、盲目的に「べき論」が先行してしまう、弁護士(会)のやや特殊な体質的特徴があったことも挙げられます(「弁護士増員論のバイアス」 「『あるべき論』の落とし穴」)。

     現時点でそれらを直視しているとはいえない、弁護士会主導層にしても、少なくとも前記「改革」路線の推論が生み出した「3000」人の誤りは一旦認め、「増員ペースが早過ぎた」として、いわゆる「ペースダウン」論を掲げるに至りました(「巧妙で曖昧な増員『ぺースダウン』論」)。

     変な言い方になりますが、この「失敗」の結果は、理解しやすいといえます。法曹界を含め、さんざん議論した末に、導き出した結論であっても、この推論では「適正な法曹人口」に、まさに「量的」な意味での答えに「簡単に」は、たどりつけないことを証明した、といえるからです。

     しかし、はるかに理解できないのは、現時点での、この政策をめぐる弁護士会内主導層のスタンスといわなければなりません。いうまでもなく、現視点では、前記「改革」の結果という、参考データがあります。前記のような推論によることの危険性もさることながら、「増やした」結果として、「足りているか」「足りていないか」をより検証できる。少なくとも、実際に「増やしてみなければ分からなかった」前記「改革」当初の時点よりも、検証が可能なはずなのです。

     理解できないというのは、弁護士会主導層のスタンスには、この当たり前のことが踏まえられていないようにとれることについてです。有り体に言えば、「改革」当初と同じような推論で、増員基調の「改革」路線を維持しようとしているようにしかみえないからです。

     事件が増えないなかで、あるいは国民の人口が減るなかで、増員基調維持は正しいのかどうか。そもそも「改革」の前記失敗原因である、経済的条件の担保の問題を直視するならば、これからも続く増員基調の中で、弁護士の生存や活動の持続可能性から、それを前提とする、相当に慎重な姿勢で臨んでもおかしくないはずです。

     そもそも当初の増員議論の中では、「改革」推進論者の中にも、急激な増員ではなく、少しずつ増加させ、その弁護士業への影響や需要の顕在化の状況を見ながら対応を決めていくとすべき、とする慎重論がありました。「ペースダウン」論の登場は、ある意味、その方法論の正しさを示したといえますが、何が何でも増員基調を止めない(ひとまず現状の人口が増やさないで過不足を検証する、という方法をとれない)姿勢には、そういう慎重な発想が反映されているようにもとれません(「日弁連が『3000人』を受け入れた場面」 「『合格3000人』に突き進ませたもの」)。

     こうしてみると、結局、根本的なことは、徹底的に「改革」の反省に立つつもりがない、結果を教訓として、その後の進路を考えるというスタートに立てっていないのが、弁護士会の現実ではないかという気がします。おそらく戦争以外で、歴史上、最も多くの弁護士の経済状況を直撃し、弁護士資格の経済的価値を激変させた、この政策失敗の経験が、無意味になる可能性を指摘しなければならないのです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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