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    弁護士会アピールと「市民目線」のミスマッチ

     弁護士会が自らの存在価値や役割をアピールするメッセージは、常にといっていいくらい「市民のため」や「市民目線」を強調し、自省的で、時に社会に献身的な、自己犠牲を印象づけるものになっています。司法改革でのアピールは、まさにそうしたもので埋め尽くされていたといっていいかもしれません。

     つまり、有り体に言ってしまえば、自分たちはこれだけ「市民」のことを考え、「市民目線」で「市民のため」の活動している存在である、それを自らの使命とつなげて頑張っている、汗をかいている存在であることをアピールしている。裏を返せば、そのことで(もちろんその現実化を含め)、より信頼されたり、評価を高めようとしているということになります。

     「市民にとって頼りがいのあるものになる」「『官僚司法』からの転換」「『市民の司法』実現」「市民が全国どこでも法律相談など良質の法的サービスを受けうる体制」「弁護士自治は、市民から負託された」「市民に身近で利用しやすい司法を実現するための努力」「市民の利益を擁護するための弁護士自治」「弁護士自治に対する市民の理解と支持をより強固にするための努力を怠ってはならない」――(「司法改革実現に向けての基本的提言」 「市民の理解と支持のもとに弁護士自治を維持・発展させる決議」)。

     もちろん、そのこと自体が間違っているわけではありません。ただ、問題は肝心の市民側の捉え方です。このアピールは、ストレートに国民に伝わり、弁護士会側の期待通り市民の評価に繋がってきたといえるでしょうか。こういう切り口の話をすると、弁護士の中には、すぐに「道半ば」論を振りかざす人もいます。しかし、司法制度改革審議会意見書が発表されて、既に20年が経過しましたが、この間、市民の弁護士に対する評価は、果たして向上したといえるでしょうか。

     これには当の弁護士の中からも疑問の声が聞かれます。「市民、市民という割に、社会全体の弁護士イメージが良い方に変わったという実感はない」「片思いのような感じがする」。弁護士は、個々の依頼者との関係で、その利益や権利のために働くのが主な仕事であり、その関係性の中で評価を勝ち得ていくだけ、という人はいます。しかし、弁護士会のアピールそのものには、問題はなかったのでしょうか。

     二つのことが言われます。一つは、アピールのミスマッチ論です。「頼りがい」とか「良質」とか「身近」といっても、それが市民のニーズにストレートにつながるものだったのか、ということです。

     例えば、「頼りがい」「身近」といっても、それは必ずしも数が満たされることではなく、市民が考える金銭的な問題やマッチングを含めた「条件」が整うことを前提的にとらえ、イメージさせるものでは必ずしもなかった、という点が考えられます。「努力」はむしろ、市場原理への期待感をはらんで、無償化、低廉化へのそれを優先的に意味してしまうことになりかねません。

     まして「官僚司法」批判や「弁護士自治」に至っては、その必要性、存在意義が十分に前提にできない市民にとって、いきなり「転換」「負託」といわれても、その先の評価へは距離があるというべきです。

     もう一つは、アピールの仕方そのものについてです。弁護士会のアピールはほぼ常に姿勢表明が強く前面に打ち出され、それを使命感に基く「べき論」が支える構造になっていますが、それを具体的に支える経済的な問題を含めた条件を捨象しているようなところがあります。

     弁護士会員への内向きのアピールは、それこそ使命感に導かれた、時に公益性を基調した「べき論」で、個々の弁護士の努力に期待・丸投げし、一方、外向きには「なんとかする」「なんとかなる」といっていることになりますから、ある意味、市民側の期待感は一人歩きすることになっても仕方がないとはいえます(「依頼者市民の『勘違い』」)。

     それこそ司法改革の中から登場した弁護士報酬「お布施論」や、「成仏理論」は、およそ信じがたいような、個々の弁護士にとっての無理な「べき論」によって、その自己犠牲的なスタンスが必ずや社会に評価されると説いているもので、まさに「片思い」的な思考で、むしろ市民を誤解させるアピールになる典型にとれます(「弁護士報酬『お布施』論の役割」 「弁護士『成仏理論』が描き出す未来」)。

     最近、無料相談と弁護士会アピールに関する、弁護士のものとみられるこんなツイートがネット上に流れました。

      「弁護士会は無料相談を止めろとは思わないが、実際には相談担当者に手当は支払われているのだから『相談料は当会が負担いたします!』とジャパネット的なことを言えばいいのにね。自治体の相談も」(TM)。
      「無料ではなく弁護士会が負担してることは伝えといて欲しい。相談自体は無料ではないと表明して法律相談のサービス価値を落とさず、弁護士が支払ってる会費で賄われていることを伝えて弁護士は公益のためにも会費を支出していることが分かるようにして欲しい」(オパンピオス@弁護士投資家)。

     弁護士の有償サービスの前提が崩れる、市民の誤解が生まれているといわれる弁護士会・自治体の無料相談でも、あるいは弁護士の日常業務に対するイメージを阻害しないための、アピールに工夫の余地があることを素朴に伝える内容になっています。

     そう考えると、根本的な問題は、弁護士会自身が、「べき論」と使命感ばかりが前面に出ている印象の、これまでのスタイルを率直に改めて、本当の「市民目線」と「弁護士会員目線」を意識できるか、であるような気持ちになってくるのです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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