弁護士「減員」批判論の真実
弁護士数の「減員」必要論に対して、ほぼ同じような批判的論調が、現在に至るまで延々と繰り出されている現実があります。あえてその特徴を挙げると、まず、一つにはこれを必ず弁護士発信の自己保身の発想とつなげて語られる点です。弁護士が競争を回避したいがために、人材の供給制限をしようとしている、というもので、思えば「改革」の増員をめぐる議論の当初から、弁護士を抵抗勢力のようにとらえる見方として存在し、現在もそれが言われているということになります。
また、弁護士増員の程度に見合う、有償需要の存在をあえて無視し、一括りにしたような「需要」が存在しているとして論を進めるということもあります。その「需要」が「存在している」という前提があるのに、「減員」方向の論調が登場することをもって、前者の弁護士保身論を強調し、それをあたかも自分たちが楽して儲けられる経済環境を守ろうとしている弁護士の「心得違い」として、なじるように言うものでもあります。
そして、もう一つ付け加えるならば、弁護士「減員」と司法試験合格者「減員」の意味をあえて区別せず、慎重に適正人口を検証するという考え方を排除する、という特徴もあります。日本の人口減や過疎化の現実や、仮に合格者を年1000人に減らしても増加基調が続くことも踏まえ、司法試験合格者を減らし、前記有償需要の存在と量を見定めつつ、検証すべきという、冷静な意見が弁護士界内にはありますが、それも「減員」論と一括りに批判され、見向きもされない傾向にあります(札幌弁護士会会長声明)。
一気に増やすのではなく、「検証」しながら、増員の必要性とその程度を見極める、という発想に欠けているのも、この「改革」論議当初からのものといっていいと思います。
最近も、こういったことを感じさせるネットメディアの記事が目に止まりました(現代ビジネス「弁護士人気の凋落続く――司法試験合格者数が7年連続で減少」)。
司法試験合格者の減少、法科大学院制度による志望者の経済的負担の増加、「改革」が規制緩和の先に描いた弁護士大量必要社会、司法試験合格者を輩出できない法科大学院の実力、予備試験人気、前記札幌弁護士会長声明が言及している合格者数の政府目標への「過剰配慮」が招く質の懸念――。
この記事の筆者は、これらの現実に言及しながら、これらを「改革」が既に生み出した「結果」として、問題の本質を堀り下げたり、事象を相互に関連づけることなく、この記事の結論を次のような言葉で導いています。
「本当に、試験を難しくすれば有能な法曹人が増えていくのだろうか」
「司法制度改革で法科大学院を作った背景には、法学部の学生だけでなく、様々な学部から法曹に進めるようにすることで、より幅広い知見を持った法曹人を作ろうという狙いがあった。世の中が複雑化、専門化する中で、多様な人材を法曹界に迎えなければ対応できなくなるという危機感もあったのだ」
「にもかかわらず、現状主流を占めている議論は、人口が減りマーケットが縮小する中で、司法試験に合格した人が法曹の仕事で十分な収入を得られるようにするには合格者を減らすべきだ、というものだ。資格を取りさえすれば食べていける『ギルド』の発想と言っていい」
「日本の法曹界は、人口が減り、経済も縮んでいく中で、競争を避け、自分たちが生きていける職域だけを守り続けていくことで十分だと思っているのだろうか。多くの若者たちが日本で弁護士になることに魅力を感じなくなっているという事実に、法曹界はもっと危機感を抱くべきではないか」
前記の筆者自身が言及している「改革」の現実についていえば、「改革」が描いた弁護士大量必要社会の目論見が外れながら、増員を強行したことにより、弁護士の経済的環境は激変し、法科大学院の経済的負担に比して、経済的リターンが期待できない弁護士界の現実を志望者が見切った結果、この世界はチャレンジする対象から外された。それでも作った制度を維持するために、司法試験の選抜機能を投げうった、合格者輩出のための「過剰配慮」が行われ、その影響が懸念されている――ということになるはずです。
そうした関係性を、この記事の筆者は脇に置き、「改革」当初にあった「世の中が複雑化、専門化する中で、多様な人材を法曹界に迎えなければ対応できなくなる」という、法科大学院必要論と、当てが外れた大量増員必要論を補強する論調を持ち出し、結果、今の弁護士も「資格を取りさえすれば食べていける『ギルド』の発想」であるとして、「多くの若者たちが日本で弁護士になることに魅力を感じなくなっているという事実に」危機感を持て、と言っているのです。
「改革」が明らかに失敗という結論を出していても、どうしても「改革」当初に、それこそ弁護士会を抵抗勢力のように描いていわれた「ギルド」批判まで持ち出して、弁護士の危機感がないという「心得違い」論に着地させようとしているのです。
こういう論調を繰り返し、それで終えてしまう限り、「改革」が生んだ状況のフェイズは基本的に変わりません。いうまでもなく、志望者減や増やそうにも増やせない弁護士人口といった、「改革」の失敗がもたらしたことへの反省にも、もし、有償性は期待できなくても、この国にどうしても弁護士の役割があるとしても、その一定の数を無理なく確保するために、本当は何が必要なのか、という議論にも、一歩も踏み出すことができないからです。
地方の弁護士ニーズについて、ご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4798
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また、弁護士増員の程度に見合う、有償需要の存在をあえて無視し、一括りにしたような「需要」が存在しているとして論を進めるということもあります。その「需要」が「存在している」という前提があるのに、「減員」方向の論調が登場することをもって、前者の弁護士保身論を強調し、それをあたかも自分たちが楽して儲けられる経済環境を守ろうとしている弁護士の「心得違い」として、なじるように言うものでもあります。
そして、もう一つ付け加えるならば、弁護士「減員」と司法試験合格者「減員」の意味をあえて区別せず、慎重に適正人口を検証するという考え方を排除する、という特徴もあります。日本の人口減や過疎化の現実や、仮に合格者を年1000人に減らしても増加基調が続くことも踏まえ、司法試験合格者を減らし、前記有償需要の存在と量を見定めつつ、検証すべきという、冷静な意見が弁護士界内にはありますが、それも「減員」論と一括りに批判され、見向きもされない傾向にあります(札幌弁護士会会長声明)。
一気に増やすのではなく、「検証」しながら、増員の必要性とその程度を見極める、という発想に欠けているのも、この「改革」論議当初からのものといっていいと思います。
最近も、こういったことを感じさせるネットメディアの記事が目に止まりました(現代ビジネス「弁護士人気の凋落続く――司法試験合格者数が7年連続で減少」)。
司法試験合格者の減少、法科大学院制度による志望者の経済的負担の増加、「改革」が規制緩和の先に描いた弁護士大量必要社会、司法試験合格者を輩出できない法科大学院の実力、予備試験人気、前記札幌弁護士会長声明が言及している合格者数の政府目標への「過剰配慮」が招く質の懸念――。
この記事の筆者は、これらの現実に言及しながら、これらを「改革」が既に生み出した「結果」として、問題の本質を堀り下げたり、事象を相互に関連づけることなく、この記事の結論を次のような言葉で導いています。
「本当に、試験を難しくすれば有能な法曹人が増えていくのだろうか」
「司法制度改革で法科大学院を作った背景には、法学部の学生だけでなく、様々な学部から法曹に進めるようにすることで、より幅広い知見を持った法曹人を作ろうという狙いがあった。世の中が複雑化、専門化する中で、多様な人材を法曹界に迎えなければ対応できなくなるという危機感もあったのだ」
「にもかかわらず、現状主流を占めている議論は、人口が減りマーケットが縮小する中で、司法試験に合格した人が法曹の仕事で十分な収入を得られるようにするには合格者を減らすべきだ、というものだ。資格を取りさえすれば食べていける『ギルド』の発想と言っていい」
「日本の法曹界は、人口が減り、経済も縮んでいく中で、競争を避け、自分たちが生きていける職域だけを守り続けていくことで十分だと思っているのだろうか。多くの若者たちが日本で弁護士になることに魅力を感じなくなっているという事実に、法曹界はもっと危機感を抱くべきではないか」
前記の筆者自身が言及している「改革」の現実についていえば、「改革」が描いた弁護士大量必要社会の目論見が外れながら、増員を強行したことにより、弁護士の経済的環境は激変し、法科大学院の経済的負担に比して、経済的リターンが期待できない弁護士界の現実を志望者が見切った結果、この世界はチャレンジする対象から外された。それでも作った制度を維持するために、司法試験の選抜機能を投げうった、合格者輩出のための「過剰配慮」が行われ、その影響が懸念されている――ということになるはずです。
そうした関係性を、この記事の筆者は脇に置き、「改革」当初にあった「世の中が複雑化、専門化する中で、多様な人材を法曹界に迎えなければ対応できなくなる」という、法科大学院必要論と、当てが外れた大量増員必要論を補強する論調を持ち出し、結果、今の弁護士も「資格を取りさえすれば食べていける『ギルド』の発想」であるとして、「多くの若者たちが日本で弁護士になることに魅力を感じなくなっているという事実に」危機感を持て、と言っているのです。
「改革」が明らかに失敗という結論を出していても、どうしても「改革」当初に、それこそ弁護士会を抵抗勢力のように描いていわれた「ギルド」批判まで持ち出して、弁護士の危機感がないという「心得違い」論に着地させようとしているのです。
こういう論調を繰り返し、それで終えてしまう限り、「改革」が生んだ状況のフェイズは基本的に変わりません。いうまでもなく、志望者減や増やそうにも増やせない弁護士人口といった、「改革」の失敗がもたらしたことへの反省にも、もし、有償性は期待できなくても、この国にどうしても弁護士の役割があるとしても、その一定の数を無理なく確保するために、本当は何が必要なのか、という議論にも、一歩も踏み出すことができないからです。
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