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    弁護士会意思表明の見え方と見せ方

     9月27日に行われた安倍晋三元首相の「国葬」への反対デモに、東京、第二東京各弁護士会の幟を掲げた弁護士が参加したことが、異論、違和感の声をはらんで、ネット上の弁護士の間で話題になっています。既に両弁護士会では、この「国葬」に反対する会長声明(東弁二弁各声明)をそれぞれ発表しています。

     世論も賛否二分し、当然弁護士間でも意見が分かれている、このテーマについて、これが、あたかも会員の総意ととられるような声明を出すこと自体への、会員の違和感という、これまでも度々持ち上がった強制加入団体としてのあり方に絡むものであるのならば、これに対してはこれまでと同じことをいわなければなりません。

     強制加入と会員の思想信条の関係については、既に司法判断で示された解決の道筋があります。つまり、弁護士法1条の目的実現の範囲において、会の意思表明は個々の会員弁護士の活動の限界を克服するためのものであり、会員の思想・良心の自由の問題を完全に切り離して、会の行為の正当性が認められる――。

     そうである限り、弁護士会が会員間で賛否の分かれる案件について、一方の意見の立場を鮮明にする会長声明を出したり、会として活動したとしても、それ自体を会員が個々の思想信条の関係で問題視するという話はなくなります。

     現実的なことをいえば、そう考えなければ、というかそう考えるしか、前記目的を達成するための弁護士会の活動は成り立ちません。いうまでもなく、会員間に異論がある、現実的にはほとんどの案件すべてに、会員の思想信条を理由に手が出せなくなる可能性があるからです。前記司法判断の趣旨からすれば、むしろ会員の思想・良心の自由の問題を完全に切り離すしか、会員登録事務を除く弁護士会の存在意義を守れない、ということを明らかにしているようにとれます(「弁護士会意思表明がはらむ『危機』」)。

     しかし、今回の件に関して、むしろ問題なのは掲げられた「幟」の方だといえます。これが弁護士会の「権威」を利用し、「総意」とみせることも含め、実際よりも会員間の反対世論を「大きく見せる」ものだとする異論、違和感の声が、会員の中から出ていることです(「過食B」)。

     前記個々の会員の思想信条と会の意思表明を完全に切り離すという、この問題の唯一と言っていい落とし所に忠実であるならば、仮にそれが活動の実質的影響力の減退につながろうとも、これが会員の「総意」ととられることはむしろ積極的に回避するような表明が会側からあってしかるべきです。それは「会長声明」への注釈として考えられるべきかもしれませんし、それが機関決定であれば、議決への参加会員数と賛否票の表明であってもいいはずなのです(「弁護士会『強制加入』と会員意見の落とし所」 「『塊』としての日弁連・弁護士会という発想の限界」)。

     その意味では、有り体に言えば、「大きく見せる」のではなく、現実的には、(総意に比べれば必然的に)むしろ「小さく見せる」努力や工夫が必要となってくる――。それが結局、弁護士会がこれまで同様に、その目的と使命のための活動を継続しつつ、会員の思想信条の自由の問題と折り合いをつける条件であるはず、ということなのです。

     そして、あえて付け加えるのであれば、この状況には司法改革の結果が影響しているようにとれます。かつての弁護士会と会員の関係を知り、それが今後も通用すると感覚的に捉えている弁護士たちの中には、この前記条件の必要性そのものが認識できていないようにみえる方々もいます。

     仮に思想信条の違いはあっても、会の意思決定は意思決定として何の条件もなく不問にし、それによって「総意」が擬制されることで、会としての影響力につなげてきた歴史や実績。しかし、「改革」の激増政策によって、弁護士の経済的環境が激変すると、高額会費を徴収している弁護士会活動や強制加入制度に、会員はより厳しい目を向けるようになりました。

     「改革」の動きが本格化した1990年代後期、自民党が当初発表した「基本的な方針」に、「弁護士自治」の見直しか含まれていたことに驚愕した日弁連主導層は、以来、その防衛すべき本丸を綱紀・懲戒制度と位置付けてきました。しかし、今にして思えば、その「改革」の大きな柱の一つである増員政策が、弁護士自治の屋台骨をぐらつかせることになる、会員意識の変化あるいは離反につながるなどとは、ゆめゆめ考えておらず、それに無防備だったといわなければなりません。

     前記折り合いのための前提条件そのものが、もはや通用しなくなってきているという見方もありますが、いずれにしても弁護士自治・強制加入制度と弁護士会員意識をめぐる根本的な状況が既に変わっていることを、まず、弁護士会主導層も、前記デモに参加した弁護士たちも認識する必要があります。


    弁護士自治と弁護士会の強制加入制度の必要性について、ご意見をお聞かせ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4794

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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