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    「改革」推進論への沈澱している思い

     今の弁護士の中に、弁護士会主導層を含む「改革」推進論者に対して、ある感情がずっと沈殿していることに、時々、気付かされることがあります。弁護士がかつてより採算性の追求、あるいは経済的インセンティフで活動することを推進したのは、あなた方ではなかったか、という思いです。

     なぜ、彼らの中で、それがわだかまっているのかーー。その理由は、端的にいって、おそらく次の2点です。つまり、前記推進論者側が、それと一見矛盾、あるいはその足を引っ張るような公益性やそれに紐付ける使命感を、かつてと同じように要求すること。そして、もう一つは、その事実を含めて、彼らが前記弁護士の思いを、まるでないもののように直視していないことです。

     これまでも何回か書いてきたように、少なくともかつての弁護士会内「改革」推進論のなかでは、前記思いに至るような矛盾はなかった、といえるかもしれません。なぜならば、そもそも弁護士の事業者性の犠牲のうえに、もっと公益性を追求するようになるべき、というのが、「改革」の描き方だったからです(「『改革』運動が描いた弁護士像」)。

     しかし、「改革」の弁護士増員政策の結果、それは所詮、弁護士の潜在需要と、現実の経済的体力を大きく見積もったものであったことが明確になりました。要は、ちょっとやそっと事業者性を犠牲にして、公益性を追求しても大丈夫、それくらいの余裕はある、あるいは生まれるということを前提にしていたということです(「弁護士の『経済的余裕』が持つ意味」)。

     一方、弁護士会外にあった、いわば本流ともいえる新自由主義・規制緩和路線の「改革」論からすれば、もっと露骨に弁護士の競争・淘汰や一サービス義としての自覚を求めていた、といえます。そもそも採算性の追求は当たり前で、むしろ参入規制による数の恩恵によって、弁護士はサービス業としてあぐらをかいてきたという捉え方で、その自覚を求め、それでできなければ退場せよ、というものでした。

     現実的には、弁護士会「改革」推進論は、前記したようなロジックで、後者の新自由主義・規制緩和路線の方針を受け容れた格好になったといえます。そうなると、結局、前者の見積もりの失敗と、前記本流の捉え方を突き付けられた弁護士としては、当然に冒頭のような思いになる、ということなのです。

     問題は、これが利用者市民、社会にとって、何を意味するのか、ということです。一つは、これが実質的に、「改革」前との比較において、社会にとっては一つも有り難くない、「改革」による弁護士の公益性からの後退を生みかねないこと。そして、もう一つは、この事態を直視しないまま、依然としてこれまでの「改革」に対するスタンスを変えない、要はなんとかなるだろうと考えている弁護士会も、その意味では期待できない、ということです。

     例えば、社会のまだまだあるだろうというニーズにこたえるためとか、会務をさらに充実させるためといった理由を掲げて、弁護士増員を続けようとすればするほど、必然的に前記のような思いを強くする弁護士は増え、そしてより市民が期待するような弁護士はいなくなる。

     逆に、現実を直視しなければ、弁護士の経済的現実を踏まえて、無償性や公益性の高い、社会のニーズに弁護士が安定的にこたえることを可能にする経済的基盤の確保のための議論は一歩も進ます、延々と弁護士の努力でなんとかせよ、要は丸投げの状態が続くことになります。

     有り体にいえば、生存がかかる弁護士にとっては、何の矛盾もなく、事業者として当然のことをやるだけですが、利用者にとっては「改革」前よりも有り難い状況は遠ざかるかもしれない。いくら弁護士が増え、アクセスはしやすくなっても、一般の利用者が競争原理で、低廉化を期待しても限界がありますし、そもそもサービスの質ということで、利用者は選別できない(その意味でも、新自由主義的発想にかない、それが可能な企業には一定の利があるとしても)。

     要は、弁護士に一定の経済的余裕が担保されていた「改革」前の方が、比較としてむしろ利用者市民のメリットがあった、「市民のため」ではなかったのか、という疑問も生まれてくるのです。

     「改革」論議の時代が遠くなるほどに、冒頭の弁護士の思いも、この疑問も強くなっているように思えてなりません。

     今年も「弁護士観察日記」をお読み頂きありがとうございました。いつもながら皆様から頂戴した貴重なコメントは、大変参考になり、刺激になり、そして助けられました。この場を借りて心から御礼申し上げます。来年も引き続き、よろしくお願い致します。
     皆様、よいお年をお迎え下さい。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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