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    新法曹養成と合格者増の「失敗」の捉え方

     法科大学院を中核とした新法曹養成制度の「失敗」に言及した内田貴・東大名誉教授のインタビュー記事(弁護士ドットコムニュース)が話題になっています。詳しくはご覧頂ければと思いますが、彼が「失敗」と捉えている根拠は、「法曹に多様な人材を呼び込む」という制度が目指した理念を実現できていない、というところにある、としています。

     彼は、この「失敗」をまず、認めなければ、原因も検証できず、改善策も立てられない、と指摘。一方で、これは制度設計者の責任問題となるが、「責任を取りたくないのが日本の文化」で「みんなで決めたんだから誰も悪くないということで、弥縫策を重ね」ている、と指摘しています。

     この認識は、誠に的を射た鋭いものというべきです。ここでも繰り返し指摘することになっているように、法曹界、とりわけ主導層が「失敗」を直視できず、そこから検証できないことが、まさに今の「改革」の現状であり、次に進めない司法の現実といわなければなりません。

     しかし、内田名誉教授のこれにつながる、このインタビューで示された認識は、残念ながらちぐはぐ感といってもいい、違和感を覚えるものになっていると言わざるを得ません。

     「失敗」の原因を問われた彼は、「『理念』と整合しない制度設計」があったとして、法曹人口問題に言及します。海外の法曹人口を基準に打ち出された2010年ごろまでに司法試験合格者を3000人まで増加させる目標と、法科大学院制度が当初掲げた「受験者の7,8割合格」。旧制度で数万人が受験していた試験に対して、受験者の数を抑制する方策は全くしめされなかった、と。

     しかし、彼が言いたいのは、増員の間違いではなく、「合格枠」の方にあるようです。「7、8割合格」と、当初70校以上の想定外の法科大学院乱立の間違いが言われる中、問題はそこではなく、国が予め合格数を設定したところにあり、合格枠を取り払えば、法科大学院はいくらできても構わない、とし、前記合格者の大半を占めることになる弁護士の人口は、「マーケット」に委ね、受験者側の調整に委ねるべき、だとしています。

     しかし、肝心の「マーケット」に対する認識として、彼は、こう述べるのです。

     「国家公務員や地方公務員の法律業務は、すべて弁護士がやるべきだと私は考えています。また、大企業の法務部だけでなく、法務部のない中小企業も社内に弁護士を最低1人雇っていれば、トータルの紛争コストを節約できます。中小企業の上位1割だけでも約35万社あるわけで、1社1人となれば、中小企業だけで少なくとも35万人の弁護士が必要になります。何十万人かいないと足りないわけですね」
     「国民の中でも、弁護士に相談したことがない人どころか、そもそも弁護士に会ったこともない人が少なくありません」

     つまり、ここは「改革」が増員政策に描き込んだ、大量の弁護士需要論そのままです。あらゆるところに弁護士が進出するという描き方、需要「まだまだある」論ともいうべきものです。これは、「マーケット」に委ねるべき、とした彼の現状認識と整合している、といえるでしょうか。

     「国家公務員や地方公務員の法律業務は、すべて弁護士がやるべき」にしても、その後に描かれたている中小も含めた企業ニーズも、はたまた国民の中の相談ニーズも、「やるべき」論から導きたざれた弁護士数を経済的に受け容れられる受け皿が、本当にこの国に存在しているという見立てなのでしょうか。

     むしろそのことの見立ての誤り、あるいは無理がはっきりしたことが、この「改革」の教訓だったのではないでしょうか。「『理念』と整合しない制度設計」を言うのであれば、まさにここにも言わなければならないはずです。そして、百歩譲って、もし本当に前記「やるべき」論が、この社会にとって、他の選択肢がないほど正しいもの(資格者としての弁護士以外に代わりが効かないもの)というのであれば、まず、増員弁護士を受け容れられる、受け皿側の環境の方を考えなければならないはずです。

     そして、いうまでもないことですが、前記いずれの受け皿にしても、現実は弁護士が数としていてさえいてくれれば、お金を投入する用意があるというわけではありません。現状がまさに経済的に勘案された、可能な弁護士の活用の現実である、というのであれば、少なくとも現状、それがゆだねるべき「マーケット」の実相として、むしろ直視しなければならないはずなのです。

     かなり以前にご紹介しましたが、2006年に東大大学院教授時代の彼は、ある雑誌の中で、やはりこの「改革」に疑問を投げかける、実に興味深い指摘をしていました。 
     
     「改革」が描き込んだ、事後救済社会への司法的救済モデルは、「唯一の可能な未来ではない」と指摘し、さらに「法知識の分布」法科大学院制導入前、法学部卒業生が、官庁や企業に就職するなど、実は法知識が拡散し、非法曹の「法律家」が多数存在してきた法知識の「拡散型モデル」だった日本が、専門家以外に法知識は分布せず、素人とプロの壁がはっきりしている米国型の「集中型モデル」へ転換することを目指していることを示唆。

     拡散型の日本では、法知識を備えた優秀な人材を中央官庁が擁して、法律や政省令を整備し、事前規制型社会を構築し、規制を受ける社会側も、企業を中心に法知識を備えた法的リテラシーの高い人材がいて、制度の運用を支えてきた。それに対して、法科大学院の登場、法知識の集中型社会へ向かう過程で、法科大学院が仮に定着すれば、現在、日本に拡散している法知識の質が低下し、法曹が知識を独占する社会に向かう。その影響は、じわじわと社会のさまざまな面に現れ、真っ先に直面するのが公務員のリテラシーの低下である――、と(「『事後救済型社会』と法科大学院の選択」)。

     法科大学院制度の「失敗」で、皮肉にも彼が危機感を込めて描き出した未来は、今のところ外れた形になったというべきかもしれませんが、その彼が、その「改革」の「失敗」の結果が出たはずの今、「国家公務員や地方公務員の法律業務は、すべて弁護士が」と言っているのを見ても、もはや20年近く前の認識とはいえ、やはりちぐはぐ感のような、違和感を覚えてしまうのです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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