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    弁護士会が試される会員支援の本気度

     日弁連が会員弁護士などに送付している機関誌「自由と正義」、機関紙「日弁連新聞」の5月号、6月号の発刊を中止するという異例の措置をとるなど、イベントの軒並み中止に続き、新コロナウイルスの影響は日弁連・弁護士会の活動にさらにはっきりした形で現れ出しています。

     そうしたなか、荒中・日弁連会長が4月27日付けで会員に対し、個々の弁護士業継続への支援として、助成金など会員が利用可能と考えられる各種施策、法律事務所での新型コロナ対策への対応策として調査した工夫例の会員専用ページへの掲載や、新型コロナ対応についての全会員へのウェブアンケート実施を伝えるメッセージを発表したことが、既にネットに流れています。

     このメッセージで荒会長は、次のような認識を示しています。

     「会員の皆様におかれましても、業務の遂行方法はもとより事務所の経営など、これまで経験のない多種多様な課題に、日々、直面されていることと存じます。他方で、弁護士の担う役割は、この緊急事態下においてこそ、社会のインフラとして有効に機能しなければなりません。市民や企業が抱える各種の法的課題に、人権擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士が支援の手を差し伸べる必要があります」

     今回のメッセージについて、会員間でもいろいろな受けとめ方があるようです。もちろん、前記会長の認識は基本的には正論と受けとめられそうですし、また、日弁連会長という立場としても、言うべきことは言っているという評価になるのかもしれません。

     しかし、こと会長の前段の認識を踏まえた、会員支援という意味では、さらなる期待、あるいはもっと別のことを期待する声が聞こえてきます。その最たるものは高額て知られる会費の免除です。この異常事態に日弁連・弁護士会がそこに踏み込むのか、なぜ踏み込まないのかという話です。

     しかし、皮肉なことではありますが、むしろそのネックとなることが、あえていえば、むしろ、前記会長の後段の認識のようにとれるのです。他の士業に比べて明らかに高額な弁護士会の会費。それについて、なぜ、既に司法改革の失敗によって個々の弁護士が経済的打撃を受けているなかでも、はっきりとした形で減額に踏み切れないのか。多数会員の同意を得て、ある意味、弁護士会独自の決断で踏み切れる施策のまずなのに、なぜ、乗り出せないのか――。

     これについて、これまでも弁護士会主導層が最も繰り返し掲げてきた「公式見解」は、端的にいえば、弁護士自治の存在とその意義です。弁護士会は、他の士業と異なり、行政官庁の監督を受けない強固な自治を有している。それは、個々の弁護士が基本的人権の擁護と社会正義を実現を全うするために必要であり、かつ、弁護士会の活動は、その個々の弁護士では全うしきれないものに対応している。だから、構成員である会員は、当然にこれを負担する必要があるのだ、と。

     しかし、近年に至っては、会員の本音として、この論法だけで納得できるか、という問題が現実化しています。その弁護士会を支えているのは、強制加入によって否応なく参加させられている個々の弁護士であり、その経済力である。つまり、その基盤がまず優先されるべきではないか、という疑問。そして、会長コメントにあるような「社会インフラ」論への疑問(インフラを自力で支えること。逆にインフラであるはずなのに、社会に十分支えられていいないと感じる不満等)。

     自治と「反権力」が結びついて語られた時代を考えると、この視点を抜きに強固な弁護士自治堅持を掲げる限界の問題にもなるようにとれますが、その一方で、日弁連・弁護士会という強制加入団体としてのコンセンサスということでいえば、やはりこの視点で会員を納得させられた、「改革」が破壊してしまった、弁護士の経済的な環境が、かつてはあったということもいわなければなりません(「『弁護士自治』会員不満への向き合い方」 「弁護士会費『減額』というテーマ」 「弁護士会費『納得の仕方』から見えてくるもの」)。

      会費についてだけいえば、それこそ人件費や会館にかかる固定費など、さまざまな減額できない事情も掲げられるかもしれません。ただ、少なくとも会長の後段の説明だけで、会員が納得できる時代はとっくに終わっている。おそらく会員の多くは、会長の言う使命として「弁護士が支援の手を差し伸べる必要」は、よく分かっているはずのです。

     むしろ、今、会員の視線は、その使命達成までも根本的に危うくする、この異常事態に、強制加入の弁護士会が、むしろ業者団体として、どこまで会員の生存を本気で支援する気があるのかに向けられているようにみえます。これについては、まだこれからとはいえ、会員間からは相当悲観的な見方も聞こえてきますが、その意味で、やはり今、この組織は試されているというべきかもしれません。


    弁護士自治と弁護士会の強制加入制度の必要性について、ご意見をお聞かせ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4794

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    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事

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    No title

    4月末に請求退会したものです。
    一歩先に逃避して本当によかったと、心から思います。

    かつて、廃業は敗者がすることでした。

    ところが、今や、余裕のある弁護士にしかできません。余裕のある弁護士は、法テラスとの契約を解除し、新規受任を止め、既存の事件処理に注力できます。終わらなかった事件は、依頼人の了承を得て、着手金や預かり金とともに他の弁護士に引き継げます。

    しかし、経営の苦しい事務所には無理です。しかも、裁判所の機能停止により報酬金が入らないので益々苦しい。そこで、積極的に新規受任して着手金を得る。しかし事件は終わらず滞留してコストが増える。これが全国各地で起こり、かなりのインパクトになるでしょう。

    弁護士が経営破綻して受任事件を放り投げる場合、依頼人保護制度の対象外です。日弁連か単位会が、残った会員に、公益名目で事件を割り振るのでしょう。このような事件は赤字というだけではなく懲戒リスクも高い。今までの同種事案でも、執行部や理事者は旗を振るだけで、自分達ではやりませんでした。

    今は、時期が悪すぎます。いったん退避すべきです。不祥事を起こさずに身を引けば、再登録もできます。

    No title

    > もちろん、前記会長の認識は基本的には正論と受けとめられそうですし

    現在、弁護士の基本認識はこんなことになってしまっているということです。

    「弁護士の担う役割は、この緊急事態下においてこそ、社会のインフラとして有効に機能しなければなりません。市民や企業が抱える各種の法的課題に、人権擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士が支援の手を差し伸べる必要があります」

    私は、司法が社会のインフラと言われるようでは世も末だと思っています。

    司法インフラという考え方は、ミルトン・フリードマン以来の新自由主義、グローバリゼーション、「法と経済学」の流行に由来します。

    ネットで検索すれば、旧経団連の「司法制度改革についての意見」(1998年5月19日付)が出てきます。その「基本的考え」は、次のような文章で始まっています。

    以下引用

    行政改革、規制の撤廃・緩和の進展によって、行政依存型経済・社会から、自由で公正な市場経済・社会への転換が図られる中、企業・個人は「自己責任」の下に「透明なルール」に従って行動することが求められており、経済・社会の基本的なインフラとしての司法制度の充実が、今こそ必要である。

    引用終わり

    司法制度改革審議会の基本的方向も、これに一致します。今や、この思想が弁護士界を制圧したのでしょう。

    No title

    いろいろ総本山の方針に混乱はあるようですな
    https://twitter.com/noooooooorth/status/1256369915621044224

    No title

    >その最たるものは高額て知られる会費の免除です。この異常事態に日弁連・弁護士会がそこに踏み込むのか、なぜ踏み込まないのか

    今は中断せざるを得ない/電話相談にならざるを得ない弁護士会主催の無料相談への支出(イベントを中止した分にもそれなりの出費がある)やら、今後の裁判のIT化への布石やらいろいろあるだろうし、既に会費免除の制度がある以上は会員一律にナンチャラは難しいだろう。
    ウェブアンケートで内容を詰めていくのだろうし今の段階で口を挟んでも混乱するばかり。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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