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    弁護士会会務への会員目線

     かつて個々の弁護士にとって、弁護士会の会務とは、どのような存在であったのか――。いろいろな人の声や記憶をたどりながら、それを探ろうとしています。なぜ、そんなことをしているかといえば、あまりにも急激に、会務という存在への、多くの弁護士の目線が変化したと感じているからです。

     もちろん、以前から弁護士会との距離感は、個々の弁護士によってばらつきがありましたし、会務に対する思い入れにしても濃淡がありました。当時のことを思い返しても、かつてから実質会務に熱心だったのは、弁護士会員の一部であった、という人もいますし、また、取り組みにしても、あくまで自分のかかわっているテーマについてのつながりだけで、会の役職者以外、水平的に認識したり、理解している人は少ないとも言われてきました。

     しかし、弁護士会の会務の存在を否定的にとらえたり、存在そのものに違和感を覚えるといった言説に触れることは、今よりも圧倒的に少なかったのは確かです。その意味で、弁護士会・会務と会員の距離感は全体的に広がり、さらにいえば、よりよそよそしいもの、親近感を感じられないものになっているとの印象を持ちます。

     こうした中で、特徴的に強くなっているようにとれるのが、有志代替論ともいえるものです。つまり、強制加入団体である弁護士会が会務として、会費を原資とした活動をするのではなく、会を離れ、会員有志が(当然自弁で)活動すべき、という意見です。

     これは見方を変えれば、会員コンセンサスそのものの放棄、断念を前提としているようにもとれます。会務として必要かどうかの検討すらするまでもなく、自らは距離を置きたい、あるいは関係性を断ち切りたいという欲求を感じさせるものです。

     弁護士会には、現在「多重会務」という問題があり、その中で当該会務が本当に弁護士会としてどうしてもやらなければいいことか、その精査を求める声があることも書きました(「『多重会務』問題の解決を阻むもの」)。しかし、前記のような視点をみると、「多重会務」という問題の捉え方そのものが、多数派の目線ではもはやないのかもしれない、という気がしてきます。

     アンケートを取ったわけではないので、あくまで推測ですが(いや、もはやそんなアンケートは結果を予想したならば弁護士会としては取れないという人もいますが)、おそらく会務について圧倒的多数派の会員は、有志代替論支持ではないか、とまでで言われています。そして、有志代替論者の多くは、度々個々の会員の意思と会の意思表明の問題として取り上げられる、会長声明等にも否定的傾向にあるようです。

     度々、ここでも書いていますが、強制加入と会員の思想信条の関係については、既に司法判断で示された解決の道筋があります。つまり、弁護士法1条の目的実現の範囲において、会の意思表明は個々の会員弁護士の活動の限界を克服するためのものであり、会員の思想・良心の自由の問題を完全に切り離して、会の行為の正当性が認められる――、というものです。

     しかし、もはや会員の意識は、この道筋の前提からも離れてきているのかもしれません。とりわけ、「個々の会員弁護士の活動の限界を克服するため」に会としての意思表明や、それにつながる会務が必要、あるいは許容されるべき、というところも、一足飛びに有志代替に置き換える方が、しっくりくるというように。

     このテーマになると、必ず高い会費の問題が言及されます。会費の高額感が、より弁護士会会務への理解あるいは納得感に対して、より厳しい目線を生んだということであれば、それはこれまでも書いてきたように、弁護士の経済環境の悪化という、弁護士会主導層としてはおそらく想定外の、「改革」の負の影響を、変化の原因として、結び付けざるを得なくなります。

     過去においても、現在、将来においても、会務を根本的に支えるものは、会員の経済的余裕であるという点を、弁護士会主導層はなぜか直視したがらないようにもみえます。

     もっとも会費の高額感ということであれば、本来、矛先が向かっていい例えば事務局職員の人件費や会館建設・維持費の削減という議論には、あまりならない現実もあります。会務や会の意思表明の方が、会費支出者にとって、なぜか会員にとって、より目障りな存在になっている、ということなのでしょうか。

     会務こそ、弁護士が支えるべき「公益性」であるととらえられることに、会員の中には潜在的な不満もあるようです。個々の弁護士として、会と離れたところでの「公益的」な活動が、「会務」でないがゆえに低く見られているような感じがする、といった意見を時々耳にします。あるいは有志代替論の根底に、この見方がどこかつながっているのかもしれません。 

     「会務はいずれなくなるかもしれない」という弁護士もいます。要はさまざまなものをスリム化した果てに、おおよそ弁護士会は登録事務中心の組織となるということにとれます。しかし、当然、それでは収まらず、その時には強制加入も自治も無傷でいられるようにはとれません。

     今の段階で、何が望ましく、どこまで想定すべきか、そしてより何が現実的なのかは、簡単には導き出せない答えかもしれませんが、少なくとも弁護士会主導層は、今の会員間の声に対して、決定的に危機感が欠落しているようにみえてしまいます。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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