「多様なバックグラウンド」の現在地
法科大学院制度の、ある意味、目玉のように言われてきた「多様なバックグラウンド」を有する人材の受け入れ、あるいは輩出。しかし、不思議なことに、制度の重要な柱とされながら、その実績から制度が評価されているのか、もっといってしまえば、そこから制度のあり方そのものの失敗が直視されているのか、という疑問がずっと拭いきれません。
有り体に言ってしまえば、この点について、制度にとって非常に不都合な実績を残しながら(あるいはそれを事実としては認めながら)、まるでそれがなかったかのように、この理念を延々と掲げているという現実です。
「改革」のバイブルとされた2001年の司法制度改革審議会意見書には、こうあります。
「21世紀の法曹には、経済学や理数系、医学系など他の分野を学んだ者を幅広く受け入れていくことが必要である。社会人等としての経験を積んだ者を含め、多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れるため、法科大学院には学部段階での専門分野を問わず広く受け入れ、また、社会人等にも広く門戸を開放する必要がある」
しかし、2004年に2792人にいた法科大学院に入学する社会人の数は、2012年には689人と4分の1以下に減少し、2022年には345人とさらに半減。全入学者に占める割合も、この間、48.4%、21.9%、17.5%と際立って減少しています。一方、法学部以外の学部出身者が入学者全体に占める割合も、この間、34.5%、18.8%、15.4%に減ってしまいました。法科大学院制度は、明らかに意見書が描いた形から20年経過しても遠ざかっているといます。
また、目玉と書きましたが、この理念・目標は、「理論と実務の架け橋」というキャッチフレーズ同様、旧司法試験体制との違いを際立たせ、制度のメリットと「改革」の意義を強調する文脈で語られたものでした。要は、旧試体制では実現できなかったものという位置付けです。しかし、ここがずっと疑問視されてきたところでもありました。
法科大学院制度という、旧試験体制にはなかった経済的時間的負担は、当然ながら新たな参入障壁を生む。少なくともより自由にチャレンジできた旧試体制よりも、その部分で多様な人材のチャレンジを阻害する危険は初めから言われて来たことです。前記実績は、むしろそれを裏付け、新たな参入障壁によって「多様性」はむしろ後退している可能性が浮かんでしまうのです。もとよりプロセスの強制化によって、想定された、「多様性」の足を引っ張ることが分かっていた参入障壁化を、どうにかする有効な手立てが考えられていたようにもみえません(「『多様性確保』失敗のとらえ方」)。
それどころか志望者獲得に焦り、人気の集まる予備試験への競争条件を有利にしようとした新制度側が打ち出したのは、法学部・法科大学院の5年一貫コースによる時短化という、明らかに前記「多様なバックグラウンド」をもはや断念したかのような構想であった点で、ますますその扱いが分からなくなってきているようにもとれるのです。
しかも、そもそも前記参入障壁との観点で言えば、「多様性」の競争においても、「抜け道」扱いしている、その予備試験ルートに、法科大学院ルートが明らかに勝利しているともいえないのが現実というべきです。
その一方で、いわゆる法学未修コースと既習コースが、わずか1年間の違いで、同一課程扱いになっていることへの疑問(あるいは無理)に対しては、それでも司法制度改革審議会が掲げた「開放性、多様性、公平性の確保」の理念から、特定の法科大学院に法学未修者の受け入れを集中させたり、法学既修者のみを受け入れる法科大学院を認めたりすることには、反対する意見が制度を擁護する側から聞かれたりしているのです。
つまり、制度擁護派のおそらくかなりの数の人たちが、前記時短化政策とは裏腹に、現在でも、「多様なグラウンド」路線の法科大学院制度のあり方を、諦めていない、あるいはそれにこだわっているかのようなのです。
最近も政府の法科大学院等特別委員会第108回の配布資料のなかの、「法科大学院の特色・魅力の更なる充実に向けて 第11期の議論のまとめ(案)」で、「多様なバックグラウンドを有する人材の確保」と「プロセス改革の着実な実施、法科大学院教育の改善・充実」が掲げられていることについて、坂野真一弁護士がブログで次のように述べています。
「ちょっと振り返ってみれば、この二つは、司法制度改革審議会意見書が目指した法曹養成制度の目標と変わらない。だとすれば、司法制度改革審議会が法科大学院制度を創設して実現しようとした目標を、法科大学院は設立後20年近くかけても、ほとんど実現出来ていないことを自白しているということになりはしないか」
まるで「改革」の理念が変わらないことだけに胸を張っているような制度擁護派は、なぜ、それが今も届かぬ目標として掲げられるのか、その本質から目を逸らすべきではない、といわなければなりません。
「予備試験」のあり方をめぐる議論についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/5852
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有り体に言ってしまえば、この点について、制度にとって非常に不都合な実績を残しながら(あるいはそれを事実としては認めながら)、まるでそれがなかったかのように、この理念を延々と掲げているという現実です。
「改革」のバイブルとされた2001年の司法制度改革審議会意見書には、こうあります。
「21世紀の法曹には、経済学や理数系、医学系など他の分野を学んだ者を幅広く受け入れていくことが必要である。社会人等としての経験を積んだ者を含め、多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れるため、法科大学院には学部段階での専門分野を問わず広く受け入れ、また、社会人等にも広く門戸を開放する必要がある」
しかし、2004年に2792人にいた法科大学院に入学する社会人の数は、2012年には689人と4分の1以下に減少し、2022年には345人とさらに半減。全入学者に占める割合も、この間、48.4%、21.9%、17.5%と際立って減少しています。一方、法学部以外の学部出身者が入学者全体に占める割合も、この間、34.5%、18.8%、15.4%に減ってしまいました。法科大学院制度は、明らかに意見書が描いた形から20年経過しても遠ざかっているといます。
また、目玉と書きましたが、この理念・目標は、「理論と実務の架け橋」というキャッチフレーズ同様、旧司法試験体制との違いを際立たせ、制度のメリットと「改革」の意義を強調する文脈で語られたものでした。要は、旧試体制では実現できなかったものという位置付けです。しかし、ここがずっと疑問視されてきたところでもありました。
法科大学院制度という、旧試験体制にはなかった経済的時間的負担は、当然ながら新たな参入障壁を生む。少なくともより自由にチャレンジできた旧試体制よりも、その部分で多様な人材のチャレンジを阻害する危険は初めから言われて来たことです。前記実績は、むしろそれを裏付け、新たな参入障壁によって「多様性」はむしろ後退している可能性が浮かんでしまうのです。もとよりプロセスの強制化によって、想定された、「多様性」の足を引っ張ることが分かっていた参入障壁化を、どうにかする有効な手立てが考えられていたようにもみえません(「『多様性確保』失敗のとらえ方」)。
それどころか志望者獲得に焦り、人気の集まる予備試験への競争条件を有利にしようとした新制度側が打ち出したのは、法学部・法科大学院の5年一貫コースによる時短化という、明らかに前記「多様なバックグラウンド」をもはや断念したかのような構想であった点で、ますますその扱いが分からなくなってきているようにもとれるのです。
しかも、そもそも前記参入障壁との観点で言えば、「多様性」の競争においても、「抜け道」扱いしている、その予備試験ルートに、法科大学院ルートが明らかに勝利しているともいえないのが現実というべきです。
その一方で、いわゆる法学未修コースと既習コースが、わずか1年間の違いで、同一課程扱いになっていることへの疑問(あるいは無理)に対しては、それでも司法制度改革審議会が掲げた「開放性、多様性、公平性の確保」の理念から、特定の法科大学院に法学未修者の受け入れを集中させたり、法学既修者のみを受け入れる法科大学院を認めたりすることには、反対する意見が制度を擁護する側から聞かれたりしているのです。
つまり、制度擁護派のおそらくかなりの数の人たちが、前記時短化政策とは裏腹に、現在でも、「多様なグラウンド」路線の法科大学院制度のあり方を、諦めていない、あるいはそれにこだわっているかのようなのです。
最近も政府の法科大学院等特別委員会第108回の配布資料のなかの、「法科大学院の特色・魅力の更なる充実に向けて 第11期の議論のまとめ(案)」で、「多様なバックグラウンドを有する人材の確保」と「プロセス改革の着実な実施、法科大学院教育の改善・充実」が掲げられていることについて、坂野真一弁護士がブログで次のように述べています。
「ちょっと振り返ってみれば、この二つは、司法制度改革審議会意見書が目指した法曹養成制度の目標と変わらない。だとすれば、司法制度改革審議会が法科大学院制度を創設して実現しようとした目標を、法科大学院は設立後20年近くかけても、ほとんど実現出来ていないことを自白しているということになりはしないか」
まるで「改革」の理念が変わらないことだけに胸を張っているような制度擁護派は、なぜ、それが今も届かぬ目標として掲げられるのか、その本質から目を逸らすべきではない、といわなければなりません。
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