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    経済誌が見放した弁護士資格

    「儲かる資格」にスポットを当てた週刊ダイヤモンド8月12日・19日合併特大号の広告の文面が業界内の一部で話題になりました。「法律系 弁護士はダメ」。増員政策の失敗がはっきりして以降、弁護士の経済的異変について、度々特集を汲んで反応してきた経済誌ですが、資格の経済的価値について、遂に完全ダメ出しか、という思いで、本誌を読みました。

     AI時代を念頭に、さまざまな分野について、経済的な意味での将来性を探り、特に「法律系」については、「中高年が『一発逆転』を狙える資格」ということもポイントとしています。表紙にも「弁護士はNG!」という文字が躍っていますが、要するに弁護士という資格が、もはや「儲かる資格」でも「『一発逆転』を狙える資格」でもない、ということで、同誌がこの特集に読者の注目を集めようとしているのは伺えます。

     内容は、資格予備校大手の東京リーガルマインドの反町雄彦社長の言葉を交えながら、現実を紹介しています。ここ10年で出願者7割減の司法試験の不人気ぶり。受験者のほとんどが合格する予備試験ルートの合格者7割が学生。司法試験合格者の平均年齢は28.3歳と若年層中心で、20代後半~30代前半で企業法務の実務経験者など3割が「組織内弁護士」にーー。

     そのうえで、弁護士人気低下の要因は、報酬の低下とし、確定申告書に基づく年間の事業収入と給与収入の合計の平均値が、2020年までの10年で3202万円→2558円、2112万円→1437万円と激減したことを紹介。反町社長が20代から30代までなら法律系資格の中で弁護士を薦めるが、「取得後の就職の難しさ、努力に見合わない収入の低さなどから、40代の中高年には不向き」と結論付けています。

     そして、同誌の企画は、その後、「一発逆転」の資格として、逆に司法書士と、生成AIと、知的財産権への関心が高まる中、ニーズの面から弁理士の将来性に注目しています。

     正直、業界関係者には、先刻承知の話と言ってしまえば、それまでの話で、ネットなどでの弁護士の反応も、ダメ出しされても仕方がない、あるいは当然という受け止め方にはとれました。ただ、あえていえば、捉え方として評価が分かれるのはここから先というべきです。

     つまり、それは端的に言えば、これを弁護士が失ったものとして、こだわるのか否か。それが何によってもたらされ、これが弁護士という資格の将来にどういう意味を持つのかということまで考えるのか否か、という点にあるということです。

     なぜ、弁護士の報酬が低下の原因について、同誌の企画は、交通事故案件などを例に、労働時間が増えたのに比して報酬が下がる傾向を紹介したのみで、それ以上深掘りしていません。根本的な問題といえる、増員しながら事件数は増えない「改革」の政策的失敗については、なぜか言及せず、前記統計上の結論につなげています。

     一方、「一発逆転」に関して言えば、結局、この企画記事が伝えるのは、若手で企業の法務部門の経験→組織内弁護士という可能性を示唆するものの、そうした傾向以外、他で社会人経験がある人にとって、およそ弁護士は狙える資格ではない、という現実です。法科大学院を経た受験が、そもそも仕事を持つ社会人にとって、どの程度現実的なものなのかについては、触れられていません。

     思えば、この「改革」の増員政策の結果が、弁護士の経済環境を直撃したことがはっきりしたころから、この路線を支持する側から、弁護士側にしきりと浴びせかけられたのは、甘えるなといわんばかりの、資格は生涯を保証ではない、という、弁護士に厳しい自覚を求める指摘でした。

     しかし、今にしてみれば、それはとりもなおさず、この企画で弁護士を見放している、「一発逆転」資格としての妙味からの決別を意味していたことになります。まさに資格の経済的妙味を失うことが、資格そのもの魅力に大きく影響し、その結果、人材を遠ざける――。その当たり前過ぎることを、なぜか看過もしくは軽視した、「改革」と、それを主導したこの世界の人間の発想の現実を思わざるを得ません。

     前記反町社長のコメントや、記事中の弁護士会館の写真に付された絵解き文には、「努力に見合わない」「苦労が報われるとは限らない」という弁護士資格の現実を象徴するような表現が出てきます。「改革」がこの資格にもたらしたこの現実は看過していいのか、あるいは「改革」はこの現実と引き換えに、一体何をもたらしたといえるのか――。ここも問われているといわなければなりません。


    弁護士の経済的な窮状の現実についてお聞かせ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4818

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    テーマ : 資格試験
    ジャンル : 就職・お仕事

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    No title

    相次ぐ新制度でロースクールの反転攻勢なるか
    https://news.yahoo.co.jp/articles/ee29d68ca755d93d288f4a155a9b72e520065526
    >『週刊東洋経済』の9月4日(月)発売号(9月9日号)では、「弁護士・裁判官・検察官」を特集。揺らぐ文系エリートの実像をお伝えする。

    どこの雑誌でもこの時期は似たような特集を組んでるだけじゃないですかね?

    No title

    ①週刊ダイヤモンドと週刊東洋経済は、2021年発行部数が2008年比で61%減!

    ②PRESIDENTは2008年比で42%減、三大雑誌の中で一番売れていて落ち込みも少ない

    ③2021年最も売れたコミック「鬼滅の刃23巻」の売上部数は517.1万部!
    三大経済雑誌を合計した部数(109万部)の約5倍売れた!

    https://ehiblog.com/miscellaneous-notes/business-magazine-20220305/

    No title

    そもそも、週刊ダイヤモンドなんて誰が読んでるんですか?
    国際法曹協会会長とかいうエラっそうな肩書をひけらかした怪しい輩に、「俺たちは裁判なんかやりたくない。国際交渉とか訴訟とかけ離れた仕事しかしたくないから、訴訟法も民法も知らん奴に弁護士資格を寄越せ! 司法修習は希望者だけにしろ!」と言い張る提灯インタビューをデカデカ載せてたは何年前のことか。

    「裁判とかけ離れた仕事しかしないんだったら、どうして弁護士資格が必要なんですか? 法律や裁判がしっかりわかっていて法的紛争の解決を任せられる人と、全然そうじゃない人を全く同一資格で混在させて何の危険もないというのですか? イギリスの事務弁護士ってのは養成段階から法廷弁護士と全然別の資格でしょうが。どうしてあなたはそこまでして同一資格と誤解させようとする詐術に固執するのですか? 日本でも事務弁護士と法廷弁護士の資格を分割しろと主張するならまだわかりますが、絶対にそうしないのは何故なんですか?」

    こういうツッコミを何が何でもしないところに、ビジネス雑誌とやらの闇を痛感したのを思い出します。そいつが公表されたくないことを公表してやるのがジャーナリズムであってそれ以外は単なる広報、という名言を知っていれば、あいつらがどっちなのかは考えるまでもない。

    No title

    そもそも資格で一発逆転を狙うような人は、優秀な人材なんでしょうか。そんな宝くじみたいなものを資格に求めている時点で、すでに心得違いで資質ゼロなのではないかと。どんな資格も、取ってからが重要で、取ったから一生安泰などというものはありえません。皆、競争社会の蟻地獄の中で足掻いてもがいて生きていくものです。儲かる資格などという刺激的なタイトルで購買数を伸ばそうとする無責任な経済誌の内容は、ひとつの見方としてとらえる程度の意味しかないと思います。一発逆転のギャンブルをしたいなら、起業するかユーチューバーにでもなればよろしい。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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