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    弁護士会謝罪会見の印象

     横一列に並んだ組織の幹部が、「すいませんでした」と一斉に頭を下げる謝罪会見シーン。ある種、パターン化したというか儀式化した感じもする、いまやよく見る気がする姿です。

     これを弁護士会の正副会長がやっている姿を、マスコミが報じたのを初めて見たときは、ちょっとした驚きとともに違和感を持ったことを覚えています。

     この一文を書くに当って、その時のことをいろいろと思い出そうとしたのですが、恥ずかしながら、記憶がかなりあいまいになっていて、肝心なことを思い出せません。今から30年くらい前、弁護士の逮捕に絡む会見で、東京の弁護士会の理事者が行ったものでした。ただ、その姿がテレビ映像だったのか、新聞に出た写真だったのか。

     ただ、頭を下げた会長のことは、取材でよく会って、お世話になっていた方だったので、はっきりと覚えているのです。頭を下げている姿と彼の顔を記憶しているのならば、やはり前後を映していたテレビか、とも思うのですが、彼がその弁護士会の会長と知っていたので、顔が写っていない写真でも特定して結び付けていたのかも、と思ってみたり。お話しをうかがいたいけれど、亡くなられてしまいました。

     それはともかく、第1号とまではもちろん断定できませんが、当時、この世界を知る方に聞いても、弁護士会理事者のそうしたシーンがマスコミに流れたのを見た記憶がないという話で、当時としては、ものすごく珍しい絵ではあったのです。

     会員の逮捕という事態では、弁護士会も会見を開かざるを得ないというのが、いまや基本的な対応のようです。ただ、これをいうと、一般の方の中には、よく分からない方がいらっしゃいます。企業ならば、このパターンになる最も一般的なケースは、欠陥商品に対するものです。最近も見かけた食品関係で中毒被害が出たり、銀行などシステム的な欠陥でサービスが停止したり、とか。では、市民としては、弁護士会にとって、会員逮捕は、前記企業にとっての欠陥商品と同じように考えて、この会見の姿を見ればいいのか、と。

     そこでちょっと市民が分からなくなるのは、弁護士がそれぞれが独立して事業をやっているということを考えるからです。欠陥商品と企業のような関係で、弁護士と弁護士会を結びつけにくいからです。弁護士個人の資質に由来する犯罪を弁護士会がなぜ謝罪するのか、と。

     結論からいえば、「弁護士自治」ということで終わってしまいます。「自治」がある以上、弁護士を監督する責任があり、個人の資質だから関係ない、というわけにはいきません、業務に関連する不祥事である以上、弁護士全体の信用にかかわることですし、以上。と、いうことになりますか。

     あるいは、一般の方のなかには、そうか「自治」なのか、とそこで納得される方もいるかもしれませんが、実はこれを知っていても、違和感は残ります。

     こうした会見で必要なのは、一般的に3点だといわれています。それは「謝罪」「原因究明」「再発防止」です。特に重要なのは、2番目と3番目とされています。実は絵で伝えられる前記「謝罪」風景に目がいきがちですが、ある意味、これはパフォーマンスであり、肝心なのはなぜ、こういう事態になったのか、そして具体的にこういうことが起こらないようにするために、どういう実効的な対策をとれるのかの説明の方なのです。
     
     違和感とは、はっきり言ってしまえば、弁護士会のこの手の会見で、なぜこうした事態が生まれたのか、さらに実効的な対策を示しているのか、というか、示せるのかという感じがするから、でもあるのです。

     昨年の元和歌山弁護士会会長逮捕に絡む弁護士会の会見について、2010年12月30日の読売新聞和歌山版に、極めて厳しい論調が掲載されました(YOMIURI ONLINE )。懲戒処分について元会長の弁明を明らかにせず、逮捕後の会見でも、地検発表の事件概要の域を出ない発表に対して、記者はこう憤っています。

     「一連の問題で知りたいのは、元弁護士会長がなぜ不正を働いたのか、という背景だ。市民は弁護士を『社会正義の実現を図るプロ』として全幅の信頼を寄せ、弁護士を依頼する。それを裏切るに至った経緯について、説明は必要だろう」

     実は、こうした期待に弁護士会が100%こたえられるかどうかについて、会見で同会会長は、はっきり回答しています。

     「あくまで弁護士は独立した職。介入には限界がある」

     もちろん「読売」記者は、納得している風ではありませんが、この発言を聞いてしまえば、なんてことはない、前記したような市民の「何で?」もあながち筋違いではないように思われても当然だと思います。

     まして、3番目の「再発防止」について、弁護士会は何を言えるのでしょうか。綱紀粛正や啓蒙活動くらいしか手はないのではないでしょうか。今後のことでいえば、実績から判断された場合、それがどのくらいの評価に値するのかは疑問です。

     前記「読売」記者は、「けん引役となるべき弁護士会の不祥事に対する消極姿勢に違和感を覚える」と括っています。「それでも何もしないわけにはいかんのだよ」という関係者の本音が聞こえてきそうですが、少なくともこの問題に関してだけは、できないことをできるように、いわざるを得なくなっているような違和感の方が気になります。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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