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    NHK「司法改革」番組の後味

     NHKの「クローズアップ現代」が弁護士人口増員と司法改革について、取り上げました。タイトルは、「弁護士を目指したけれど…~揺れる司法制度改革~」(2011年10月5日放映)。

     「目指したけれど」の後の「・・・」は、司法試験に合格できない、合格して弁護士になっても就職難が待ちかまえている現状を当然連想させ、サブタイトルは、こうした現実が立ちはだかり、「改革」の実現を揺るがしている、ということになるように思えます。

     事実、番組の作りそのものは、そういう印象を一般視聴者に与えるものかもしれません。しかし、それとともに、この番組が、いま弁護士をめぐって起こっていることの原因をどのように伝えているのか、という点になると、非常にひっかかる内容にも見えました。

     番組は修了者の合格率の低迷、社会人など多様な人材確保が達成できず、司法制度改革審議会が掲げた目標をクリアしていない法科大学院制度にスポットを当てます。「社会人重視」の立場立つ桐蔭横浜大学法科大学院を取り上げ、理念にこだわる大学院が合格者を出せず、補助金カットの憂き目にあう現実を映し出します。

     一方、対話形式でコメンテーターとして登場する鈴木修一・明治大学法科大学院教授は、4人に3人は司法試験で不合格のレッテルを張られ、いわゆる「三振者」を法曹以外の世界で受け入れる状況にないこと、社会人経験者、他学部出身者の志願者激減は、長期的に見て、法科大学院の志願者母集団の質に悪影響を与えること、入学定員と司法試験合格者数のねじれがどんどん大きくなり、合格者は制度設計時の約3分の2になっていること、受験重視になると社会性を身につけるとか、高い倫理観を身につけるとか、また自発的に研究活動をするとか、こういった法曹の基礎的な素養の教育がおろそかになるという危険性があること、そして結論としては司法試験を資格試験に近づけ、合格者数を増やすこと――などをおっしゃっています。

     これをするっと飲み込んでしまう視聴者は沢山いると思います。ただし、それには実は語られていない一つの前提条件があります。それはこの「改革」の理念として掲げられていることを疑わない、ということです。つまり、法曹が「身近な」「社会生活上の医師」のような存在になるためには、進められている弁護士の数の増員が絶対に必要だという考え方です。司法審が言ったような需要の描き方に向かって、法科大学院が数として輩出しなければならないという存在であるならば、という注釈になります。

     実は番組は「即独」や組織内弁護士、さらには自らの経験をもとに福祉と連携しながら債務事案に当たる弁護士を登場させ、「既存の弁護士像にとらわれない活動で市民に役立とうという動き」としてとらえています。しかし、彼らの姿と増員政策はどういうつながりで見られるでしょうか。何が「即独」に追い込み、その何が深刻なのか、組織内弁護士などが、「既存の弁護士増にとらわれない活動」として、現実的に増員を支え得るのか、そしてなによりも、なぜ社会に沢山のニーズがあるのならば、今、弁護士が就職難の壁にぶつからざるを得なくなっているのか、そこには答えていない、というよりも、目を向けていません。したがって、そこへの視聴者の疑問は喚起されない形になっています。

     鈴木教授は、この福祉連携の弁護士について、こう言います。

     「まさに司法制度改革の理念で求めていたような、弁護士像といっていいのではないでしょうか。国民の社会生活の医師・ドクターということが期待されているわけですけど、本当にそのようなイメージが持てる弁護士像だったと思います」

     実はこの「改革」理念にかぶせられた彼は、2004年に弁護士になっており、法科大学院出身者ではなく、また、弁護士会の支援を受けている東京の都市型公設事務所に所属しています。彼もまた、「改革」とは関係のないところで頑張ってきた弁護士であり、「改革」がもたらした形ではありませんし、また、一般の法律事務所とは違う環境で働いている弁護士の一人です。そうした環境を抜きに考えれば、増員が、彼のようなタイプの弁護士が育ちやすい環境をもたらすとも思えません。数を増やせば、第二、第三の「彼」が現れるかのような描き方自体、現実を伝えていない感じがします。

     残念ながら、他の大マスコミの「改革」の料理の仕方同様、アンフェアな後味が残ります。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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