本当に「原点に帰る」ということ
今から10年くらい前、司法制度改革審議会の「改革」路線に、法曹界挙げての取り組みが叫ばれ、「ミスター司法改革」といわれた中坊公平氏の存在が、社会的にも注目され、「中坊路線」とまでいわれた、弁護士・会が「改革」牽引車として旗を振る方向に突き進んでいた時、一人の若い全国紙の記者の取材を受けました。
「改革」論議をめぐる弁護士会内の現状についてのものでしたが、逆にこちらが、その若い記者からある事実を教えられることになりました。当時、既に「改革」推進派である全国紙では、この「改革」路線、弁護士会の姿勢についての会内に強くある疑問、反発について、大きく取り上げていませんでしたし、少なくとも積極的に取り上げてはいませんでした。
当然、そうした反「改革」側の弁護士からは、そうした新聞社の姿勢に対する不満、批判も出始めていたわけですが、そのことをぶつけると、その記者から返ってきた言葉は、やや予想外でした。
「中坊さんの『路線』をおかしいと思っている記者は沢山いる」
当時、中坊氏は既にマスコミの寵児になっており、もちろん司法改革についても、好意的で期待感をちりばめた、全国紙の論調のなかでは、少なくとも彼の言動と結び付けた疑問や批判的な切り口は、ほとんど見かけた覚えもありません。その後、彼が住宅金融債権管理機構の社長であった時の不適切な債権回収の責任を取る形で弁護士界を去ったあとも、多くのマスコミは、事態は事態として報じながらも、持ち上げた側の決まり悪さか、あまり深く触れないか、はたまたやや同情的ともとれる姿勢も見てとれたくらいです。
ところが、実は新聞社内にも彼と彼が叫んだ「改革」への異論はあったというのです。その記者がいうのには、要する現場記者が書いても、「上で潰されている」という話でした。それがデスクであったり、あるいはもっと上の意向を思わせる話でした。こうした話自体は、ある意味、珍しい話ではなく、小泉純一郎氏と「郵政」選挙でも、同じようなことがいわれました。ただ、この司法改革でもそういうことがあったということです。
なぜ大マスコミは書かない、とこちらが言うのに対し、悔しそうに前記状況を弁明していた若い記者の顔が思い出されます。そして、やはり今でも、こうした状況は続いているようです。記者の意識としては、法曹人口にしても、法曹養成にしても、紙面に登場する論調とは違う見方と意識で取材して記事を書こうとしている記者はいるようなのです。
「司法ウオッチ」のコラム「飛耳長目」でも書きましたが、2011年という年は、「改革」路線の行き詰まりがより明確になった年、いわば司法審「改革」路線の「終わりの始まり」の年だったとも思えます。
「破綻」「失敗」が、法曹養成の中核とされた法科大学院にこれほど被せられた年はありません。法曹人口激増の深刻さが、これまでになく強く語られ、司法試験合格3000人の旗を降ろし、現在の合格者数を減員する方向が、日弁連内でも具体的に見え出しています。就職難の深刻さ、OJT欠落の問題も深刻に受け止められ出しています。そして、なによりもこれらの現実が、法曹界を敬遠する、人材が来ないという観点で、これほどクローズアップされたこともなかったと思います。
その意味では、これからが重要です。「改革」の旗振りをしてきた大マスコミが簡単に彼らの論調を変えるとは思いません。むしろ、それ以上に、原発推進派が徐々に既定路線に戻そうとしているといわれるように、大マスコミは「改革村」の一員として、根本的な「路線」の見直しではない形に持っていくかもしれません。
しかし今、求められているのが、既に書いてきたように、どこまでこれまでの路線に縛られず、未来を目指す議論ができるか、です。あの中坊氏の時代に既に法曹界でいわれ、実は記者が記事にできなかった「改革」への疑問、それがずっと存在してきたことを考えれば、そのことは無謀でも乱暴でもないように思います。大新聞は「原点に帰れ」という言葉をよく使いますが、本当に原点に帰るということがどういうことを意味するのかを考えなければなりません。
今年1年、「弁護士観察日記」をお読み頂きましてありがとうございました。是非、来年も引き続き、お付き合い頂ければと思います。
皆様、良いお年をお迎え下さい。
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当然、そうした反「改革」側の弁護士からは、そうした新聞社の姿勢に対する不満、批判も出始めていたわけですが、そのことをぶつけると、その記者から返ってきた言葉は、やや予想外でした。
「中坊さんの『路線』をおかしいと思っている記者は沢山いる」
当時、中坊氏は既にマスコミの寵児になっており、もちろん司法改革についても、好意的で期待感をちりばめた、全国紙の論調のなかでは、少なくとも彼の言動と結び付けた疑問や批判的な切り口は、ほとんど見かけた覚えもありません。その後、彼が住宅金融債権管理機構の社長であった時の不適切な債権回収の責任を取る形で弁護士界を去ったあとも、多くのマスコミは、事態は事態として報じながらも、持ち上げた側の決まり悪さか、あまり深く触れないか、はたまたやや同情的ともとれる姿勢も見てとれたくらいです。
ところが、実は新聞社内にも彼と彼が叫んだ「改革」への異論はあったというのです。その記者がいうのには、要する現場記者が書いても、「上で潰されている」という話でした。それがデスクであったり、あるいはもっと上の意向を思わせる話でした。こうした話自体は、ある意味、珍しい話ではなく、小泉純一郎氏と「郵政」選挙でも、同じようなことがいわれました。ただ、この司法改革でもそういうことがあったということです。
なぜ大マスコミは書かない、とこちらが言うのに対し、悔しそうに前記状況を弁明していた若い記者の顔が思い出されます。そして、やはり今でも、こうした状況は続いているようです。記者の意識としては、法曹人口にしても、法曹養成にしても、紙面に登場する論調とは違う見方と意識で取材して記事を書こうとしている記者はいるようなのです。
「司法ウオッチ」のコラム「飛耳長目」でも書きましたが、2011年という年は、「改革」路線の行き詰まりがより明確になった年、いわば司法審「改革」路線の「終わりの始まり」の年だったとも思えます。
「破綻」「失敗」が、法曹養成の中核とされた法科大学院にこれほど被せられた年はありません。法曹人口激増の深刻さが、これまでになく強く語られ、司法試験合格3000人の旗を降ろし、現在の合格者数を減員する方向が、日弁連内でも具体的に見え出しています。就職難の深刻さ、OJT欠落の問題も深刻に受け止められ出しています。そして、なによりもこれらの現実が、法曹界を敬遠する、人材が来ないという観点で、これほどクローズアップされたこともなかったと思います。
その意味では、これからが重要です。「改革」の旗振りをしてきた大マスコミが簡単に彼らの論調を変えるとは思いません。むしろ、それ以上に、原発推進派が徐々に既定路線に戻そうとしているといわれるように、大マスコミは「改革村」の一員として、根本的な「路線」の見直しではない形に持っていくかもしれません。
しかし今、求められているのが、既に書いてきたように、どこまでこれまでの路線に縛られず、未来を目指す議論ができるか、です。あの中坊氏の時代に既に法曹界でいわれ、実は記者が記事にできなかった「改革」への疑問、それがずっと存在してきたことを考えれば、そのことは無謀でも乱暴でもないように思います。大新聞は「原点に帰れ」という言葉をよく使いますが、本当に原点に帰るということがどういうことを意味するのかを考えなければなりません。
今年1年、「弁護士観察日記」をお読み頂きましてありがとうございました。是非、来年も引き続き、お付き合い頂ければと思います。
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