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    「原発と司法」という視点

     司法はなぜ国の原子力安全行政の不備をチェックできなかったのか、という視点で、1月12日の朝日新聞朝刊オピニオン面が、「原発と司法」というタイトルで、30年以上原発訴訟を闘ってきた海渡雄一弁護士のインタビュー記事を掲載しています。

     これを読まれた一般の方は、改めて日本の司法の気持ちの悪い体質を感じられたのではないか、と思います。海渡弁護士が「勝訴」を見込んでいて敗訴した浜岡原発訴訟の一審。弁護団は結審後に起きた中越沖地震での東電柏崎刈羽原発損傷の事実を踏まえた追加立証のための弁論再開の申し立てを、任期中判決の困難さと「中越沖地震に関しては公知の事実として判決に取り上げることも可能」という裁判長の勧めに応じ取り下げます。

     結果は、敗訴。しかも中越沖地震での原発損傷は触れられていませんでした。「騙された」と。しかし、これには背景がありました。2003年の「もんじゅ訴訟」名古屋高裁金沢支部が出した設置許可無効の住民側勝訴判決をひっくり返した、2005年の最高裁での逆転判決です。1992年の伊方原発訴訟最高裁判決で、安全性の立証責任が行政側にあるとする判断基準が住民勝訴に道を開いたはずだった――。

     「ところがもんじゅ訴訟の控訴審判決で原告が現実に勝って、最高裁はあわてたのでしょうね。最高裁での逆転敗訴の判決は下級審に対する悪いメッセージになりました。結局最高裁はどんなことをしても国側を勝たせる判決を出すんだろうと思って、浜岡原発訴訟の地裁判決も書かれたのではないでしょうか」

     要するに、「独立」とは程遠い裁判所の現実が、原発行政にブレーキをかけられなかった、安全行政の不備をチェックできなかったことにつながったということになります。最高裁の「悪いメッセージ」、「最高裁はどんなことをしても国側を勝たせる」という事実と、それへの下級審の迎合。この深刻な現実を国民はどれだけ知っているのでしょうか。また、知っていたのでしょうか。

     では、こういう体質はどうすればいいのか。「司法の独立」のために何が必要かという記者の最後の問いに、海渡弁護士がこたえたのは、弁護士経験を経て裁判官を採用する法曹一元でした。内容としては正しいと評価できるのに、この回答が意外な感じがしてしまったのは、それが予想以上に根源的な解決方法だったことと、そしていかにも現実化への道筋が見えない方策だったからかもしれません。そのくらい前記裁判所の現実は、深刻ということもあります。

     もちろん、この現実も、福島原発事故がなければ、「朝日」が今、これほど大きく取り上げていたかどうか疑わしいということも、押さえておかなければなりません。

     さて、ここでこの「朝日」記事が全く言及していない事実にも触れておかなければなりません。海渡弁護士が事務総長を務める日弁連執行部は、昨年の5月27日に開いた定期総会で、原子力発電所の新増設の停止や、既存の原発の段階的廃止を求めることを盛り込んだ宣言案を賛成多数で採択しています。総会では、この内容に会員から強い批判の声が出されました。

     「今回の震災の被害を著しく拡大させた原発政策についての政府、電力会社への批判、そして住民からの訴えをことごとく退け、原発政策にお墨付きを与えてきた裁判所に対する徹底的批判が一言もないのはなぜか」
     「原発被害によって苦しめられている人たちの側にこそ、日弁連は立たなければいけない。そのためには、その根本原因となっている原発政策と訣別すること、すなわち全原発を即時停止することと、これを推進してきた者たちへの徹底的な批判がなければならない」
     「この声明案は、原発は絶対安全だとか、クリーンでエコというデマを流してきた国、東京電力に対して段階的廃止を求めているが、そういうことで廃止が実現できるはずがない。すぐにこの原発を止めなければならないというのは、市民の声だ」

     結局、原発推進にお墨付きを与え続けてきた裁判所の責任は徹底的に追及されなければならず、即時廃止が掲げられない日弁連・弁護士の姿は改められなければならないとして、弁護士会内では反原発の日弁連臨時総会請求運動に発展することになりました。

     海渡弁護士が事務総長として、この日弁連の現実をどうみるのかについて、記者は聞いていません。もちろんテーマとしては、強制加入団体としての制約あるいは自制をいう会員もいます。しかし、「原発と司法」というテーマのなかで、日弁連が果たす役割、果たして来なかった役割もまた、問われていいようには思います。


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    テーマ : 「原発」は本当に必要なのか
    ジャンル : 政治・経済

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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