「企業内弁護士」への期待
会社のなかで、弁護士の資格を持って、社員として働いている弁護士がいます。「企業内弁護士」といわれますが、今は行政庁や公益法人内で働く弁護士資格者を含む総称として、英語の「In-House Lawyer」を直訳した「組織内弁護士」という言葉も使われます。
この組織内弁護士は、日弁連の弁護士職務基本規程第50条で、「官公署又は公私の団体において職員若しくは使用人となり、又は取締役、理事その他の役員となっている弁護士」と定義されています。ただ、企業内弁護士について、その扱われ方は企業によってさまざまなようです。
かつて「企業内弁護士」の企画で取材をしたとき、ある資格者を採用している企業の広報から、「うちの場合、彼は特別に『弁護士』として仕事をしてもらっているわけではないので、取材はご遠慮頂きたい」といわれたことがありました。これは例外で、法務部門で専門知識を生かす存在として企業の戦力になることを想定されている場合がほとんどだとは思いますが、やはりあくまで扱われ方は企業次第ということです。
さて、この「企業内弁護士」、以前書いたように、かつて弁護士会内でマイナーだった企業系弁護士の中でも、さらにマイナーな存在でした。数的なことをいえば、現在も全国で400~500人くらいとされており、絶対的に数のうえではマイナーですが、それが近年一躍注目をされてきています。
その理由は、基本的に企業系弁護士に対する弁護士の意識が変わり、弁護士界内での立場が変わったこともありますが、近年の弁護士増員に伴い、その受け皿として、日弁連が採用拡大に期待している、という事情があります。
ところが、こうした期待感に水をさすような記事が、昨年12月17日の日本経済新聞夕刊に掲載されました。
「『企業内弁護士』企業二の足」
こうした見出しがつけられたこの記事は、日弁連発行の2010年版「弁護士白書」に紹介された調査結果をもとに、企業の9割以上が「企業内弁護士」採用に消極的、と報じています。上場企業を中心に5215社に実施した調査で、1196社から回答があり、「企業内弁護士」を採用しているのは47社、「募集中か採用予定」の25社を合せても1割以下、1112社が「消極的」「具体的検討はしていない」と答え、その理由として、4社に1社が「顧問弁護士で十分」としたほか、「報酬が問題」「やってもよう仕事がない」という回答があった、としています。
この記事については、企業法務関係者のブログ(「企業法務戦士の雑感」)で疑問が提示されています。このブログは、ほかにもさまざまな企業法務の実態を紹介していますが、要するに「弁護士」に特化した採用、企業法務専属担当としての採用をしている企業は多くないが、採用候補に有資格者がいれば採用に動く企業はある、というのです。「弁護士枠」と銘打たずとも弁護士を採用するところもあり、前記した統計からみて「日経」のいうような「企業二の足」というくくりは当らない、というわけです。
このブログ氏は、2,3年のうちに「企業内弁護士」が1000人に達するという見通しも示されています。
ここで、はっきりしてくるのは、やはり企業は、企業の論理で、弁護士を採用するということです。採用に消極的な理由をみると、それは結局、企業としての弁護士の「使い勝手」であり、ブログ氏がいう採用の現状も、ある意味、同様の観点に立った企業の当然の選択です。
逆にいえば、企業側からすれば、「使い勝手」は弁護士側に投げられたボールでもあります。今後、大量増員時代の弁護士が、報酬にしても、その立場にしても、そのハードルをぐっと下げてくれば、「二の足」などといわれる状況は、なくなっていくかもしれません。
前記ブログは、「クローズな世界で生きている日弁連の人々には、『弁護士資格』を持っていれば水戸黄門の印篭のごとく企業の門をくぐれるはず、という思い込みがあるのかもしれないが、会社の人事(採用)はそんなに単純なものではない」ともしています。
しかし、そうした形の自信やプライド、ましてはかつてあったような企業に雇用される抵抗感は、弁護士会の中で大きな比重を占め出している、新時代の弁護士の中からは、どんどん消えてきています。その意味では、企業・弁護士双方からみて、「企業内弁護士」という形が選択される可能性は見えてきているということもできるかもしれません。
ただ、この世界に入ってきた若い弁護士の発想が、それこそ就職先としての妙味から、企業の論理に沿う形で、どんどん割りきられていく先に、時にその企業とも対決することになる、人権とか少数者に立つ弁護士が、この国に存在し、また育っていくのか、そのことがやはり不安になります。

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この組織内弁護士は、日弁連の弁護士職務基本規程第50条で、「官公署又は公私の団体において職員若しくは使用人となり、又は取締役、理事その他の役員となっている弁護士」と定義されています。ただ、企業内弁護士について、その扱われ方は企業によってさまざまなようです。
かつて「企業内弁護士」の企画で取材をしたとき、ある資格者を採用している企業の広報から、「うちの場合、彼は特別に『弁護士』として仕事をしてもらっているわけではないので、取材はご遠慮頂きたい」といわれたことがありました。これは例外で、法務部門で専門知識を生かす存在として企業の戦力になることを想定されている場合がほとんどだとは思いますが、やはりあくまで扱われ方は企業次第ということです。
さて、この「企業内弁護士」、以前書いたように、かつて弁護士会内でマイナーだった企業系弁護士の中でも、さらにマイナーな存在でした。数的なことをいえば、現在も全国で400~500人くらいとされており、絶対的に数のうえではマイナーですが、それが近年一躍注目をされてきています。
その理由は、基本的に企業系弁護士に対する弁護士の意識が変わり、弁護士界内での立場が変わったこともありますが、近年の弁護士増員に伴い、その受け皿として、日弁連が採用拡大に期待している、という事情があります。
ところが、こうした期待感に水をさすような記事が、昨年12月17日の日本経済新聞夕刊に掲載されました。
「『企業内弁護士』企業二の足」
こうした見出しがつけられたこの記事は、日弁連発行の2010年版「弁護士白書」に紹介された調査結果をもとに、企業の9割以上が「企業内弁護士」採用に消極的、と報じています。上場企業を中心に5215社に実施した調査で、1196社から回答があり、「企業内弁護士」を採用しているのは47社、「募集中か採用予定」の25社を合せても1割以下、1112社が「消極的」「具体的検討はしていない」と答え、その理由として、4社に1社が「顧問弁護士で十分」としたほか、「報酬が問題」「やってもよう仕事がない」という回答があった、としています。
この記事については、企業法務関係者のブログ(「企業法務戦士の雑感」)で疑問が提示されています。このブログは、ほかにもさまざまな企業法務の実態を紹介していますが、要するに「弁護士」に特化した採用、企業法務専属担当としての採用をしている企業は多くないが、採用候補に有資格者がいれば採用に動く企業はある、というのです。「弁護士枠」と銘打たずとも弁護士を採用するところもあり、前記した統計からみて「日経」のいうような「企業二の足」というくくりは当らない、というわけです。
このブログ氏は、2,3年のうちに「企業内弁護士」が1000人に達するという見通しも示されています。
ここで、はっきりしてくるのは、やはり企業は、企業の論理で、弁護士を採用するということです。採用に消極的な理由をみると、それは結局、企業としての弁護士の「使い勝手」であり、ブログ氏がいう採用の現状も、ある意味、同様の観点に立った企業の当然の選択です。
逆にいえば、企業側からすれば、「使い勝手」は弁護士側に投げられたボールでもあります。今後、大量増員時代の弁護士が、報酬にしても、その立場にしても、そのハードルをぐっと下げてくれば、「二の足」などといわれる状況は、なくなっていくかもしれません。
前記ブログは、「クローズな世界で生きている日弁連の人々には、『弁護士資格』を持っていれば水戸黄門の印篭のごとく企業の門をくぐれるはず、という思い込みがあるのかもしれないが、会社の人事(採用)はそんなに単純なものではない」ともしています。
しかし、そうした形の自信やプライド、ましてはかつてあったような企業に雇用される抵抗感は、弁護士会の中で大きな比重を占め出している、新時代の弁護士の中からは、どんどん消えてきています。その意味では、企業・弁護士双方からみて、「企業内弁護士」という形が選択される可能性は見えてきているということもできるかもしれません。
ただ、この世界に入ってきた若い弁護士の発想が、それこそ就職先としての妙味から、企業の論理に沿う形で、どんどん割りきられていく先に、時にその企業とも対決することになる、人権とか少数者に立つ弁護士が、この国に存在し、また育っていくのか、そのことがやはり不安になります。

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