食い違う依頼者と弁護士の「信頼」
「信頼」ということが、依頼者と弁護士の間をつなぐ、重要なテーマであることは、おそらく基本的にその両者にとって、異存はないところのようにみえます。依頼者は、自分が置かれた状況を踏まえ、より頼りになる弁護士を探し、弁護士はその依頼者の気持ちをつなぎ、ともによりよい解決に向かうために最適な関係を築きたいと思う。両者とも、ここにこの言葉をあてはめます。
弁護士に対する一般的な評価の仕方としても、依頼者は「信頼できる」弁護士を「よい弁護士」としてとらえますし、業界内で具体的な業務について相互に評価するということが少ない弁護士界内にあっても、一般論としては「依頼者の信頼を得ている」ということを、実績として評価することがないわけではありません。
しかし、依頼者と弁護士の一つの共通の価値として括れそうな、この「信頼」というテーマの中身は、現実的にはしばしば両者で一致しない。むしろ、一致しないところが、依頼者と弁護士の、ある意味、特殊な関係と言うべきかもしれません。
「依頼者は宿命的に利己的である」といった弁護士がいました。依頼者はあくまで自らの利益追及と有利な問題解決を求めるということです。前記したように、そのために「信頼」できる弁護士を見つけようとします。もちろん、弁護士も、できるだけ依頼者に有利な問題解決を導くことを職責として取り組み、そのために「信頼」も重視するかもしれません。しかし、問題は、その依頼者の「宿命的に利己的な」要求が、法的に無理筋であるかどうかにかかわらず、依頼者が、しばしば結果を出せる、あるいは出そうとする弁護士を「信頼」の評価に結び付けてしまうところにあります。
こうしたテーマで、弁護士側でしばしば引用される規定があります。弁護士職務基本規程第20条――。
「弁護士は、事件の受任及び処理に当たり、自由かつ独立の立場を保持するように努める」
これは、弁護士は「依頼者の権利及び正当な利益を実現するように努める」(同基本規程21条)存在ではあるけれども、その一方で、必ずしも前記「利己的」な要求のいいなりになる存在ではない、ということを宣言しているものと言えます。さらにいえば、前記したような「結果を出せる」かどうかは、まずは、「事件の筋」のよしあしにより、さらには、最終決定は裁判官によるという意識が弁護士にはあります。ある意味、いくら依頼者の要求とはいっても、「無理筋」の要求が導き出した結果や、それを遂行することに対する(依頼者からみたならば)消極的・慎重な姿勢をもってして、「信頼できる」弁護士としての評価につなげられるのはたまったものではない、ということです。これは以前も書いた、弁護士努力・能力が「顧客満足度」に必ずしも直結しないという現実とつながります(「弁護士の『顧客満足度』」)。
これは別の見方をすると、依頼者にとって「信頼」できるということが、弁護士の客観的な評価にはできにくい一面を示しています。案件によってあくまで「利己的」なものを含む要求の達成度が絡む以上、ある人にとっての「信頼」の評価が、別の人にとって有用な情報になるとは限らないことになるからです。
逆に、こうした「事件の筋」を勘案して、導き出された結果も含め、評価ができるのは、倒産・破産事件で管財人などを選任する裁判所や、弁護士の恒常的な活用のなかで選ぶことができている(できる能力が担保されている)大企業の企業法務の世界だけだという指摘が弁護士界のなかにはあります。そもそもが一回性の付き合いがほとんどの、一般市民と弁護士の関係では、むしろこうした「評価」を市民側に課す方が無理であり、酷なことというべきなのです。
もちろん、依頼者・市民のなかには、弁護士の説明や説得に耳を貸し、それによって「無理筋」を自覚する人もいるでしょうし、さらには結果に関係なく、弁護士の姿勢・努力を認め、「信頼」の称号を与える人もいるかもしれません。ただ、前記「宿命」からすれば、そんな依頼者・市民ばかりならば、どれほど楽か分からないという弁護士がほとんどだと思います。
もっとも、関与しているのが「無理筋」を説得する能力・努力に欠ける弁護士ならば、それは一概に依頼者の「利己的」要求のせいにはできませんし、昨今は前記基本規程20条を脇において、顧客獲得・着手金獲得第一に、依頼者に盲目的に従っているようにとれる弁護士が増えてきているとの見方もありますから、ますます「信頼」という評価の価値は分かりにくいものになりつつあります。
ただ、言葉として共通の「価値」としていわれる「信頼」の中身が食い違う依頼者と弁護士の関係を、より弁護士側が認識しながら、依頼者側が認識していない現実は、押さえておくべきだと思います。
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弁護士に対する一般的な評価の仕方としても、依頼者は「信頼できる」弁護士を「よい弁護士」としてとらえますし、業界内で具体的な業務について相互に評価するということが少ない弁護士界内にあっても、一般論としては「依頼者の信頼を得ている」ということを、実績として評価することがないわけではありません。
しかし、依頼者と弁護士の一つの共通の価値として括れそうな、この「信頼」というテーマの中身は、現実的にはしばしば両者で一致しない。むしろ、一致しないところが、依頼者と弁護士の、ある意味、特殊な関係と言うべきかもしれません。
「依頼者は宿命的に利己的である」といった弁護士がいました。依頼者はあくまで自らの利益追及と有利な問題解決を求めるということです。前記したように、そのために「信頼」できる弁護士を見つけようとします。もちろん、弁護士も、できるだけ依頼者に有利な問題解決を導くことを職責として取り組み、そのために「信頼」も重視するかもしれません。しかし、問題は、その依頼者の「宿命的に利己的な」要求が、法的に無理筋であるかどうかにかかわらず、依頼者が、しばしば結果を出せる、あるいは出そうとする弁護士を「信頼」の評価に結び付けてしまうところにあります。
こうしたテーマで、弁護士側でしばしば引用される規定があります。弁護士職務基本規程第20条――。
「弁護士は、事件の受任及び処理に当たり、自由かつ独立の立場を保持するように努める」
これは、弁護士は「依頼者の権利及び正当な利益を実現するように努める」(同基本規程21条)存在ではあるけれども、その一方で、必ずしも前記「利己的」な要求のいいなりになる存在ではない、ということを宣言しているものと言えます。さらにいえば、前記したような「結果を出せる」かどうかは、まずは、「事件の筋」のよしあしにより、さらには、最終決定は裁判官によるという意識が弁護士にはあります。ある意味、いくら依頼者の要求とはいっても、「無理筋」の要求が導き出した結果や、それを遂行することに対する(依頼者からみたならば)消極的・慎重な姿勢をもってして、「信頼できる」弁護士としての評価につなげられるのはたまったものではない、ということです。これは以前も書いた、弁護士努力・能力が「顧客満足度」に必ずしも直結しないという現実とつながります(「弁護士の『顧客満足度』」)。
これは別の見方をすると、依頼者にとって「信頼」できるということが、弁護士の客観的な評価にはできにくい一面を示しています。案件によってあくまで「利己的」なものを含む要求の達成度が絡む以上、ある人にとっての「信頼」の評価が、別の人にとって有用な情報になるとは限らないことになるからです。
逆に、こうした「事件の筋」を勘案して、導き出された結果も含め、評価ができるのは、倒産・破産事件で管財人などを選任する裁判所や、弁護士の恒常的な活用のなかで選ぶことができている(できる能力が担保されている)大企業の企業法務の世界だけだという指摘が弁護士界のなかにはあります。そもそもが一回性の付き合いがほとんどの、一般市民と弁護士の関係では、むしろこうした「評価」を市民側に課す方が無理であり、酷なことというべきなのです。
もちろん、依頼者・市民のなかには、弁護士の説明や説得に耳を貸し、それによって「無理筋」を自覚する人もいるでしょうし、さらには結果に関係なく、弁護士の姿勢・努力を認め、「信頼」の称号を与える人もいるかもしれません。ただ、前記「宿命」からすれば、そんな依頼者・市民ばかりならば、どれほど楽か分からないという弁護士がほとんどだと思います。
もっとも、関与しているのが「無理筋」を説得する能力・努力に欠ける弁護士ならば、それは一概に依頼者の「利己的」要求のせいにはできませんし、昨今は前記基本規程20条を脇において、顧客獲得・着手金獲得第一に、依頼者に盲目的に従っているようにとれる弁護士が増えてきているとの見方もありますから、ますます「信頼」という評価の価値は分かりにくいものになりつつあります。
ただ、言葉として共通の「価値」としていわれる「信頼」の中身が食い違う依頼者と弁護士の関係を、より弁護士側が認識しながら、依頼者側が認識していない現実は、押さえておくべきだと思います。
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