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    記憶にとどめなければならない秘密保護法成立

     あるテレビ番組にコメンテーターとして出席していた女性タレントが、特定秘密保護法案をめぐる国会でのやりとりについて、「私のような一般人の立場で言えば、今国会で何が話し合われているのか分からない」、さらに、国会周辺のデモに関しては、「あの人達が何者なのかも分からない」と発言していました。

     彼女が、個人的な「分からない」という感想を述べるのは自由ですが、この人は、連日、詳しく「知る権利」の危機を、多くの識者の声を交えて伝えているマスコミ報道等を本当にちゃんと目にしたうえで、「分からない」と言っているのか、ということを率直に感じました。もっとも、後者のように、あたかも国会周辺に集まっている人たちが、「特殊」な層の市民であるかのような、印象を与える発言をしていることからすれば、「一般的な立場」「分からない」とは言いつつ、それは単なる不信感ではなく、むしろ彼女なりに「分かった」うえでの発言ともとれます。

     だとすれば、番組の責任としては、なんとなく差し障る発言として受け流すのではなく、きっちり他のコメンテーターなり、司会者が、しっかりこの発言を引き取って、何かを言うべきだったではなかったのか、という感想を持ちました。

     少なくとも、今回の法案をめぐっては、大新聞も連日、「知る権利」が具体的にどのような危機にさらされ、侵害されかねない状況なのか、戦争の時代、国の秘密が優先された社会を体験した人はどう思っているのかなど、法案の逐条的な問題点の列挙や議論の経過を伝えるだけではなく、相当丁寧に法律成立がもたらすものを伝えていたと思います。

     ただ、百歩譲って、それでも法律をめぐる議論の内容が難しく、必要論と慎重・反対論のやりとりのなかで、どうすべきかの判断ができない、「分からない」ということが仮にあってとしても、この国会のあり様に、「分からない」はないという気がどうしてもしてしまうのです。端的に言って、法律の要不要で迷うことがあったとしても、このやり方を許すのか、ということです。

     つまりは、ここまで反対論が噴出しているものに、慎重な姿勢をとらない、耳を傾けない、わが国の「民主主義」のレベルを、私たちは、本当に許容するのかということです。この状況下では、どんなに成立を図りたくても、さらに国民の理解や議論に時間をかけざるを得ない、という判断には、私たちが選んだ代表たちの多くが立たなかった。そのことを、私たちは「分かっている」はずです。

      「秘密保護法案は消費税とは違う。次の選挙までに、国民は忘れる」といった、国民に対するとてつもない侮りともいえることが、この間、推進派議員ののなかでは言われていたという話も伝えられています。「ねじれ」を憂い、「決められる政治」を求めた人々が、わが国の「民主主義」に対して行った仕打ちがこれであることを、本当に多くの国民は忘れてしまうというのでしょうか(「秘密保護法案強行採決が象徴するもの」)。もちろん、そういう政治がまかりとおる国で、権力が恣意的に「秘密」を作り出し、国民に目隠しをする法律ができたことに、私たちはもっと危機感を持たなければなりません。

     2013年12月6日、わが国の「民主主義」は、ひとつの分岐点を越えてしまったと見ることもできます。今、「分からない」でいいのか、これでいいのか、を問われなければいけないのは、私たちです。


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    秘密保護法で官僚制度を強化 マネー経済を守るための軍事国家を目指す

     秘密保護法は残念ながら参議院でも可決され、成立してしまいました。  このような治安立法がこの現代において制定されたこと自体、世界からみても恥ずかしい次元のものです。今後は、この秘密保護法案の廃止を目指す闘いになります。  その先に待っているのが改憲であり、憲法9条2項の廃止だからです。  この秘密保護法の目的は、決して日本国民のためになるものではありません。  秘密保護法は、米...

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    No title

     私自身、法案が成立しその条文を読むまで「特定秘密保護法」の真の恐ろしさに気付かなかったような人間なので偉そうなことは言えませんが、野党がバラバラになって政権交代の可能性はほとんどないから自民党はもう好き勝手なことができる、原発でも秘密保護法でも、国の方針に反対する人には御用マスコミを総動員して「左翼」「不審者」といったレッテルを貼ってしまえばいいと思っている、マスコミも自己保身のためには政府・自民党に尻尾を振っていたほうがいいと思っている、こんな状況では大手御用マスコミに毅然とした対応を求める方に無理があるのかも知れません。
     法科大学院や弁護士激増を中心とする司法改革が明らかな失敗と分かっていながら見直されないのも、既に日本の民主主義が機能していないことに起因するものであり、特定秘密保護法の成立もそのことを確認する程度の意味しかないのかも知れません。
     少なくとも、いまや多くの弁護士は、特定秘密保護法に関心を持つ余裕すら失っており、これは自民党にとって司法改革の大きな「成果」と言えそうですね。

    No title

    弁護士はもう一枚岩にはなれないのに、総本山から抗議のファックスせいだの、バカじゃなかろうかと思うよね。
    司法試験の受験要件から法科大学院卒業を撤廃し、合格者数を1000人に減らしてから、秘密保護法に反対しようか。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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