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    「身内」になった弁護士会

     作家の橋本治氏が、2月5日付け朝日新聞朝刊、オピニオン面に寄稿した一文のなかで、胸にストンと落ちる論を展開しています。それは「身内」の発言以外に、聞く耳を持とうとしない、持ちたくない日本の政治の姿。「身内」とは、政治の中枢にいる人間たち、あるいは政権、国家権力側であり、いうまでもなく、「以外」に当たるのは国民です。自民党・石破茂幹事長が特定秘密保護法案反対を訴えるデモを「テロのようなもの」と例えたことがきっかけで、彼は気付いたといいます。

      「それは特定秘密法の『性質』というべきもので、つまるところ日本国政府は、国民が余分なことを言うのが嫌いなのだ。『政治のことは私たち専門家に任せて、国民は余分な口出しをせずに黙っていればいいのです』という考え方が特定秘密保護法を提出する人たちのなかにあるのだ」
     「関係ない人間がいろんな口出しをすれば、『決められない』という事態も起こり得る。それを回避するためには、余分なことを言う人間を排除してしまえばいい――もしかしたら、これがゴタゴタで終わった民主党政権から引き出した日本人の教訓なのかもしれない。少なくとも、政治家にとってはこれが一番都合がいい」

     言い換えれば、国民は「関係ない人間」という扱いということになります。あれほど「決められない」ことを憂いた人間たちが、「決められる」ことになった途端に、特定秘密保護法成立強行で見せた本性から逆算しても、容易に橋本氏の見方にたどり着きます。「関係ない人間」の、あるいは素人たちの、「余計な心配」という扱いが一番彼らには、都合がいいのです。

     これを読みながら、かつて弁護士という人間たちが、その政治側の彼らにとって、「嫌な存在」であった理由も、この橋本氏のいう現実につながっていると思いました。専門家という立場から、法律という武器で、なにかと理屈をつけて反対を訴え、かといって数は少ないことからから、手を組むには票田としても妙味がない弁護士という存在が、与党政治家には「厄介者」として扱われていたことは、以前書きました(「『NO』と言える弁護士会」)。

     問題法案に対して、国会統一要請行動などと称して、大挙議員会館に詰めかける弁護士会を、彼らの多くは、確かに「厄介者」の集団ととらえていましたし、揶揄する意味で「左翼団体」などと決めつける声も沢山聞かれました。ただ、橋本氏の見方につなげれば、まさしくそれは、政治が「余分な口出し」として排除したい国民側の懸念や抗議の声、あるいは知らされないことで挙がることがない声なき声を含めて、それを徹底的に叩きつける弁護士の姿といえます。専門家である彼らの発言は、文字通り「素人扱い」できないがゆえに、「厄介」だったのです。

     弁護士会が「国民的な運動」というとらえ方で、「知らされない」国民に対して、作られようとしている制度の問題を喚起しようとすることも、その点で意味があると同時に、政治の側にいる人間たちには、「厄介」で好ましくない行動だったはずです。

     弁護士・弁護士会という存在が、少なくともその政治の側にいる彼らにとって、より「厄介者」でない方向に変わり出した、その契機として何があったのかについて、これを大きな政治状況の変化として見る人は、「55年体制の崩壊」を遠因に挙げると思います。ただ、業界内にそれを問えば、おそらく多くの弁護士が指摘するのは、司法改革です。

     もちろん、この「改革」が、こと司法に関して描いたものは、前記橋本氏がいった政治の姿とは違い、国民を「関係ない」素人として排除するものではありません。国民を「統治主体・権利主体」と持ち上げて、司法の運営に「主体的・有意的に参加」し、国民のための司法を国民自らが実現し支えなければならない、という真逆の位置付けでした(司法制度改革審議会最終意見書)。「任せろ」ではなく、むしろ国民の「お任せ司法」を問題視し、むしろ弁護士会の「改革」推進派は、この切り口に、自分たちではなかなか変えられない司法を、国民によって変えられるという期待感を被せました。

     ただ、一方で、当時の弁護士・会の推進派は、その「期待感」をとるために、権力側とも手を携える「オールジャパン」の道を選択しました。そのことが、規制緩和・新自由主義的な色彩放つ「改革」路線に対して、本来、大衆の側から、厳しい批判者、あるいは検証者であるべきだったはずの弁護士・会の姿勢を徐々に変えていった、という見方があります。それが弁護士会と権力の位置取りを変え、結果として反権力的な姿勢が大きく減退したという人もいますし、いまやその変質そのものが「改革」の真の目的だったのではないか、という声もあります。ただ、何よりも裁判員制度にしても、法曹養成にしても、法曹人口にしても、弁護士・会が本当に専門家として、「改革」路線に厳しく、筋を通さなかった、その結果を私たちは今、見ているのではないか、という気がするのです。

     橋本氏は、「政治は身内によって運営される」という考え方に従えば、「身内になってしまえば反対の声が起こる余地のない集団」、「話せばわかる」ということが信じられる「特別な集団」になる、また、「任せておけばいい」「支持していればいい」という、ささやきかけるのは、「国民の政治参加」ではなく、「国民の政治的動員」であるとしています。

      「改革」のなかで、弁護士・会はいつのまにか「身内」になり、国民の意思とは無関係に、「お任せではいけない」と規定して始まった「改革」がやっていることもまた、「国民の政治的動員」ではないか、と思えてしまうのです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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