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    「給費制」復活と「通用しない」論

     司法修習生の給費制を廃止すべきという論調のなかに、「通用しない」論というものがありました。推進派の有識者の発言や大マスコミの新聞論調に必ずといっていいほど登場したそれは、給料が彼らに支払われてきたこれまでが不当に恵まれ過ぎだった、という見方です。司法修習を一般の職業訓練と同様に見立て、特に個人事業主となる弁護士を矢面に、受益者負担、自弁は当然という捉え方も張り付いていました。

     とりわけ、気になったのは、そこで必ず持ち出される民意です。社会はそんな彼らへの不平等を許さないはずなんだ、という忖度が当たり前のように行われるパターンです。これには度々奇妙な気持ちにさせられてきました。果たしてそうなのだろうか。修習専念義務を課し、その間の収入を得る道を断たせてまでやらせる専門家教育におけるこの制度が、果たして優遇され過ぎの不当なものという社会の共通認識になると、当然のこどく決めつけられるのか、と。

     むしろ、こうした推進派論調のあらかじめなされる当然視する忖度そのものが、社会の理解を阻害していないのか。つまり、給費の存在自体の認識度も低いくらいの制度にあって、その趣旨がきちっと説明された時に、推進派が忖度したような方向に本当になるのだろうか、という気がするのです。逆に言えば、この不当な優遇としての「通用しない」論自体が、この部分の予算を削りたい方々のための、論理ではないか、と言いたくなる。この慣例の意味そのものは、決して国民に伝わりにくいものではないはずです(「『給費制』への国民理解」)。

     その給費制が消えて6年で、事実上復活することを、法務省がついに発表しました。月額13万5000円に、住居費が必要な場合月額3万5000円を追加し、貸与制も併用するというものです。復活の背景には、深刻な法曹離れがあることを、これを報じる大マスコミは伝えています。ただ、読売新聞は、12月19日の第1報の解説記事で、「修習生を特別扱いすることに『国民の理解が得られない』とする意見は法曹界にも根強い」、正式発表を伝える第2報でも「高給取りとされる弁護士や裁判官、検察官になる司法修習生を国が特別扱いすることには、反発も予想される」と、依然として「通用しない」論に言及しています。

     しかし、「通用しなかった」のは、あくまで給費制の廃止の方です。少なくとも、志望者には不当な優遇措置どころか、不可欠なもの、もしくは優遇されてしかるべきものだったということではないでしょうか。また、このことに対して、社会が受け入れられないほどの反発を呼ばないということもはっきりした。それは、説明しても理解されない「不当な優遇」という前提、「通用しない」という前提そのものが怪しいということを、結局「改革」が結果で明らかしたといえないでしょうか。

     仮にこれを「優遇」と呼ぶとしても、当然のこどく「不当」という前提にはならない。この意義、妥当性、本当の受益者は誰になるのか、そうした説明を真っ先に、根気強く社会に向って発信するべき法曹関係者のなかにも、「改革」論調の中でそれを諦めた、もしくは積極的にしなかった人々が沢山います。前記読売の第1報が「国民に理解が得られない」とする意見が根強い先を、「法曹界にも」としていますが、国民よりも法曹界や法科大学院制度を擁護したい推進派の関係者こそが唱えてきたのではないか、と言いたくなります。

     今回の給費制復活だけで志望者が復活するという見方は楽観的すぎると思います。弁護士という仕事の経済的魅力の回復や、それに至る法科大学院というプロセス強制化に伴うコストを併せて見たときに、志望者、法曹界側からすれば優秀な人材が、これに選択の「価値」を見出すかにかかっています。給費制の復活は、志望者減という結果から考えたとき、ほとんどヤブヘビとしかいえない廃止という措置をやめる、ということに過ぎません(「逆効果政策をやめられない『改革』」)。しかし、一面「改革」はこのカードを切らざるを得ないほど、志望者減で追い詰められたともいえます。

     志望者減が復活の背景にあると認めながら、「改革」論調の中での「給費制」へのレッテル張りが完全にズレていたこと、むしろ失敗につながったととらえないことに何やらアンフェアでないものを感じます。それとともに、思えば弁護士の在り方についても、この「改革」で度々被せられてきた「通用しない」という忖度論の正体にも、もっと光が当てられるべきと思います(「弁護士資格『あぐら』論の中身と効果」)。


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    テーマ : 資格試験
    ジャンル : 就職・お仕事

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    No title

    修習生の給費制についてはまだほとんど報道されていないからね。
    これから国会で問題になったらどうなることか。
    新たに導入される一般の給付型奨学金が低所得層に2万~4万だけという厳しい条件なのに修習生には13万円も出すのか、と批判されたらどう答えるのかな。
    だから、与野党談合で、なるべく問題にしないで通すつもりなんだろう。

    給費による修習なんてやめて、研修医のように、国家試験で法曹資格を取得させて研修弁護士、研修検事として働くことを認めればよいのでは。

    No title

    このブログともリンクしている某弁護士のブログのA弁護士とB弁護士の会話の中で(直リンはしない)

    >こんなに借金があってよくプロポーズしたな、と言われた。肩身が狭いよ。

    妻に言われた台詞らしいが
    言い返せない弁護士もさることながら
    夫の弁護士の借金(と小遣いを減らすこと)を揶揄する妻の性根のほうが問題あると思うんだよな。
    100%ネタだと言ってほしいよ、まったく……

    No title

    会費滞納者が増えています。滞納があると請求退会が認められない(退会時には、滞納分を清算する必要がある)ので、本当に追いつめられると請求退会もできないのですよ。

    単位会にもよりますが、滞納分が1~2年分になると、懲戒処分の中でも最も重い退会命令となります。会費未払いを理由とした退会命令は増加傾向です。また、その予備軍である数か月分の滞納者も、増えています。

    コメント欄の引用先ブログを含め、執行部・元執行部は厳しい実態から目をそむけます。自分の任期をそつなく終えればそれで結構、問題先送り、ですか(笑)

    No title

    弁護士の廃業事例に、登録だけして、所属先が企業になる場合を含めるか?
    年賀状のシーズンになると研修所の同級生のうち自宅と勤務先の住所の最新版がクラスメートの管理人より届く。
    毎年、所属先の住所が変更されている人は何人か居るのだが、裁判官の転勤や検察官の転勤だけでなく、自分の事務所で弁護士をしていた人の所属先が企業内になる。
    こういう事例は、表に出ないのだろうが、事務所経営が出来なくなったということだろう。

    No title

    >高齢者が死ぬまでやめない

    そらそうだろ、弁護士は自営業だから国民年金だもの。
    厚生年金じゃないんだもの。保護されてないんだもの。
    ずっと弁護士続けないとならないんだもの。
    それに加えて超ベテランになると、会費免除になるんだから、辞め(ら)れるわけないでしょうが。

    >高齢者の仕事を20代、30代に速やかに引き継げば、若者の経営難なんてすぐに解消

    引き継げないのは質の低下があるからじゃないですかね・・・・・
    http://blogos.com/article/203046/

    No title


    いや、若いのは廃業が激増している。
    これに対して、高齢者が死ぬまでやめない。
    自由と正義に掲載されてる退会者をみれば、分かるでしょ。

    東京の弁護士国保も、高齢者が増え続け、保険料が鰻登り。
    だから、若い層は、国保に切り替えている。

    衰退するヨーロッパ諸国の現象(若者の高失業率、高齢者による財政負担増)が、日本では法曹界で一足早く実現されている。

    高齢者の皆さん、60で速やかに退会しましょうよ。
    それが正常な姿です。
    いつまでも居座るのはやめましょうよ。
    高齢者の仕事を20代、30代に速やかに引き継げば、若者の経営難なんてすぐに解消です。

    実際には、無責任に引き受けてぐちゃぐちゃにしてどうしようもなくなった案件を若手に投げるとか、一見して筋悪案件(闇金など)ばっかり若者にくれちゃうわけですが、精神が貧困ではありませんか。

    No title

    弁護士の廃業が減ってきた
    http://www.shirahama-lo.jp/blog/2016/12/post-237.html
    給費制の復活とともに弁護士の数も復活してくると思いますね。
    経済的な問題さえ解決すれば、いい職業の業界なんで。

    No title

    高級取りなら医学部並にロースクールの難易度は上がって
    大繁盛でしょうよwww
    現実は旧帝まで3次募集する有様で、それでも定員を
    埋められんのにな

    No title

    弁護士、高給取りなんだってよ
    司法修習生の「給費」月13万5000円で復活(2016年12月19日22時16分 読売新聞)
    http://www.yomiuri.co.jp/national/20161219-OYT1T50087.html
    >高給取りとされる弁護士や裁判官、検察官になる司法修習生を国が特別扱い

    No title

    まずは改善を素直に喜びましょう。

    それでも法曹離れは加速するでしょう。
    もはや、法曹人口は過剰で、どうにもなりません。

    No title

    旧司法試験世代vs新司法試験世代
    給費制世代vs貸与制世代
    ベテラン世代vs若手世代
    これに
    vs復活給費制世代
    がくるわけか。

    世代間の対立をますます深めるだけだと思うんだがね……。
    しかし法務省はよく頑張ったよ。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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